鷹の眼 | ナノ



10

「氷を!保険医を呼べ!!」
 
厨房に向かって叫べば、突然の出来事に固まっていた人間たちが慌しく動き出す。
他のウェイターたちもまさかの出来事に顔を青くし、役員と転校生への憎悪を滲ませていた。
芝に視線を向ければ、既に携帯を手にボスへと連絡を取っていたので、安心して彼の元へと駆け寄ろうとした。……が、
 
「待て」
「……あれは明らかな危害だろう」
 
この怒りを芝にぶつけるのは間違っていると分かっていても、睨むことをやめられない。
ギリッと奥歯を噛み締めると、芝は携帯を見せながら言った。
 
「分かってる。だが、……ボスが学園に来ている」
 
その手の震えと告げられたことに、安堵と共に相当キレていることが分かった。
……面倒な仕事が終わった途端に、彼を迎えに来たのか。
それほどまでに彼に対しある種の執着を持っているボスが、この事態を許すはずがない。
無意識に喉を鳴らし、彼へと視線を動かすと糞ガキ共の常識を逸した言葉に泣いている彼がいた。
この場にあるのは静寂。なのに彼の声は聞こえず、ただ呆然と空中を見て泣いている。
あのガキ共は、既に人間ではないらしい。――クズはお前のほうだ、副会長。
 
「…………ぁ」
 
思わず、とばかりに声を上げたのはさっきのウェイターの青年だ。
言葉の暴力としか言えない、人の踏み込んでほしくない過去を気持ちを優越感に満ちた顔で穿り貶したクズ――転校生と副会長――を、彼が殴ったのを見て。
 
空っぽだった瞳が、ギラリと光ってとても綺麗だった。
複雑な感情が混ざった瞳でクズを睨みつけかました一発は、確かな効果を得て。
無様に倒れた転校生と、倒れはしなかったが後ずさった副会長にざまあみろと笑う。
自分が見下していた人間からの拳に腹を立てた副会長に殴り返され、倒れる彼にこれ以上我慢など出来るはずもなく、氷を持ち呆けたままその光景を見ていた料理長からそれを奪い走った。
 
 
---side out---
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(121029)




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