鷹の眼 | ナノ



09

「お待たせ致しました」
 
そう言って順に料理を置いていく。彼の前に音を立てないように素うどんを置くと、隣にいる転校生に気づかれないように小さく礼を言ってきた。
当然とばかりに給仕を受けた他の生徒らは既に食べ始めていて、礼を言ったのは彼だけだ。
ふわりと眦を下げた彼の笑顔に、自然と口角があがり微笑む。言葉を返して厨房のほうに戻れば、羨ましそうに俺を見てくるウェイターたち。
 
「あの子は本当にいい子だよねぇ」
 
転校生の料理を持っていた青年は、実はこの学園の卒業生らしい。
間延びした言葉遣いとは裏腹にとても真面目で礼儀にうるさい人間だ。
だからこそ礼をせず、唾を飛ばしながらだったり食べ物を口に入れたまま喋る転校生が大嫌いだと言っている。嫌いどころか虫以下だと。
坂下宏樹はその点、必ず礼を言う。料理を持っていけば、水を注げば、食べ終わった食器を片付ければ。いつも小さく頭を下げてありがとうございますと笑う。
そんな彼を嫌える人間はなかなかいない。あの低脳な人間たちは別だが。
 
「……おい、なんかおかしくないか?」
 
苛立ちを抑えていると、芝が小さく食堂を指差した。
先には彼が黙ったまま食事をしている中、その肩を隣に座っていた転校生が思い切り掴んでいるのが見えた。
 
「行くか?」
「いや、まだ駄目だ」
 
『坂下宏樹との接触は必要最低限にすること』
『肉体的危害を加えられた場合のみ動くこと』
『精神的危害の場合は各自の判断に任せる』
ボスからはこう言われている。今はまだ、肩を掴まれた程度なので動けない。
歯痒く思っていると、目先で信じられないことが起きた。
 
「っの、糞ガキ……!」
 
取り繕う暇もなくステンレス台を殴りつけた。
何かを必死に言おうとしている彼に、転校生はただ喚くだけ。それだけだったらまだ良かった。だが、彼の前に座っていた生徒会長……そう、生徒会長というこの学園のトップたる人間が、まだ熱いはずの味噌汁を彼に勢いよく掛けたのだ。



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(121029)




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