鷹の眼 | ナノ



05

意識が朦朧としてきた直後だった。
何かの甲高い音が響き、信者からの攻撃がぴたりと止まった。目を開けても見えるのは足元だけで、一体何が起きたのか全く分からない。
異様な空気が走る食堂で、最初に動いたのはやはり空気の読めない転校生だった。

「あー!お前誰だ!?すげーかっこいいな!名前なんていうんだ!?」

今まで最低だと泣いていたというのに、喜色いっぱいの顔で立ち上がり一直線にその原因へと向かっていく転校生。
かっこいい、ということは誰か分からないが美形が入ってきたのだろう。流石美形大好きなミーハー。けど、あの甲高い音はなんだろう……?

「さ、智!駄目です!戻って……!」

初めて聞く副会長の焦った声に、更に謎は深まるばかり。でも、もうなんでもいいや……。
ゆっくりと落ちていく瞼と意識に身を任せようとした瞬間、それを阻むように轟音が響いた。

「「「「「「智!!」」」」」」

そのせいでまたうっすらと目を開いた俺は、信者達が転校生が向かったほうに走っていくのを足だけで確認する。
そのすぐ後に優しく腕に何かが触れ、反射的にびくりと体を震わせ視線を動かすと美形ウェイターさんが真っ青な険しい顔のまま、「失礼します」と俺の体を仰向けにした。

「ぅ……」
「すみません。でも、少しでも冷やさないと」
 
仰向けになると急に今まで受けていた傷で全身が悲鳴をあげた。小さく呻いた俺に謝りながら、それでもウェイターさんは袋に入った氷をタオルで包み俺の顔に当てた。
冷たさに驚いたけど、じわじわと顔の熱が引いていくのを感じて深く息を吐いた。
 
「少し赤いですが、痕は残らないと思います。……良かった」
「ありが、と……、ざいま、す」
「いいえ。すぐに助けられなくて申し訳ありません」
 
悔しそうに顔を歪めるウェイターさんの手を握る。
そんなことない。いつだって、罵詈雑言の中にいた俺にウェイターさんたちは笑顔で話しかけてくれた。それがたった一言二言の会話でしかなくても、俺はそれに救われていた。
ハッと視線を上げたウェイターさんは、引き攣る顔で笑う俺を見て、泣きそうにもう一度謝った。
 

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(121020)




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