一万打感謝企画 | ナノ



02

こんなにぐっすり眠っているのを起こすのは、なんだかしのびなくて。
そろりと動き鞄と預かった本を置く。そろりそろりと忍者のように歩いて、カウンター奥の部屋に入り、中からブランケットを取り出した。
よく先生や僕らがお茶を飲んだり、寝たりするのに使うから揃っているんだ。
それを持って戻り、先輩の前に立つ。これを掛けようと思うのだけど、もしも起きてしまったらどうしよう……と思うとなかなか出来ない。
そしてどうしても見てしまう、肩に落ちる一房の髪に。寝ている今なら、誰もいない今なら、と考えてしまい……
 
(ふわっふわだ……)
 
ブランケットを持ったまま、横から髪に触る。
起こさないよう、気づかれないよう慎重に触れ、やっぱり柔らかくていい匂いのするそれに笑みが浮かぶ。十分に堪能してからそっと離れてブランケットを掛ける。
今日は誰もいないようだし、扉に休館の札を掛けて帰ろう。
本の返却だけ済ませ、札と鞄を持って先輩の前に立つ。あれだけ堪能したのに、まだ触りたくてうずうずしている手に自分でも呆れてしまう。ぎゅっと手を握って扉に歩き出した。……途端、
 
「――どこに行くんだ?」
「、えっ!」
 
拳を握っていた手を後ろから引っ張られると同時に、背中に熱い感触。
とん、とぶつかったことに驚いて上を見れば、先輩の端正な顔。
驚きすぎて声も出ない僕に、先輩は真剣な表情で、
 
「今日は当番の日だろう。どこに行くんだ?」
 
じっと見つめられて、目が離せないまま口を開け閉めする。
なんで、どうして。今まで寝ていたのに、なんでいきなり……。
混乱する僕を置いて、先輩の顔はどんどん険しくなっていく。
 
「また逃げるつもりだったのか」
「…………へ?」
 
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
すると先輩は少しだけ表情を緩めて、僕の身体を反転させて向き合うようにした。
 
「今も触ってたが、俺の髪じゃ駄目だったか?お前の好みじゃなかったのか?ならどうすればいい?お前の好みになるようにするから、教えてくれ」
「は、え、…えっ……え!?」
 
言葉が猛スピードで耳に入って、何を言われているのか分からない。
ていうか、今触ってたのバレてるし……!起きてたの!?
 



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