しっぽ2
ここで走ったら変に思われるだろうから駄目だ。
俯きなるべく"それ"が視界に入らないように進む。幸い先輩(と固まり)は窓側にいるので、反対側をそそくさと早足で歩く。もういっそ競歩だ。
先輩の周りにいる生徒たちはみんな地味な僕と比べて、可愛かったり綺麗だったりが揃っているのでなんだか圧倒される。
甘えたような声で先輩の近くにいた子(確か隣のクラスの子)が声をかけているけど、その先輩はガラス越しに外をずっと眺めている。そんなに気になるものがあるんだろうか…と思ったけど、これ以上見てたら確実にやらかしてしまう自信がある。
「ふぅ…、っ!」
なんとか切り抜けて、掻いてもいない汗を拭う振りをして息を吐く。
それでも少し名残惜しくて、ちらりと後ろを振り返ってしまったのが悪かったのか…
(な、なんでこっち見て……!?)
いつの間にか先輩はこちらを見てて、慌てて前を向いて走る。
あれか、やっぱり競歩が悪かった?触りたい衝動が空気に出ちゃった?逆に不自然にならないようにあの集団に一緒に混ざればよかった?でもそんなことしたら絶対絶対手押さえられないし…!
「うわっ…!」
あまりにも急いでいたから、角を曲がろうとして人とぶつかってしまった。
168cm(成長期に期待)の僕は、大抵押し負けてしまう。まさに今も後ろに倒れそうに倒れかけてて、ぶつかった人が「あああ!!」って叫んでる。
これはかなりお尻が痛くなりそう…と、ぎゅっと目を閉じて衝撃に備えていたら、
「――大丈夫か?」
腰にくるような低い声が耳元で聞こえて、身体が強張る。
はっと目を開けると、至近距離に染井先輩の顔があ……って…
その肩に落ちている一房の髪に、触ってしまった。
すごく柔らかい。今まで触った中でロン(実家の近所で飼われてる犬)が一番だったけど、それなんか比じゃない。どれよりも手にしっくりきて、しかもなんかいい匂いするし……いい、匂い?
「………ぁわっ!!」
やばいやばいやばい…!
反射的にそれに触ってたけど、僕先輩に助けてもらったのにお礼も言ってなけりゃ勝手に髪に触っ……!!!
っていうかなんでここにいるのせんぱい…!
「ごごごごごごめんなさいいい!!!!」
がばっと先輩から離れて、土下座せんばかりに頭を下げた。
先輩の顔は怖くて見れない。そのままお礼もそこそこに、人生で初めてくらいの速さで寮部屋まで戻った。
これって、完全に死亡フラグって……やつだよね…。
end.
(121010)
ふわふわしてるのいいですよね、って話。
うちの愛犬のしっぽもたまらんかわいいです
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