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探しもの3

怖くて、怖くて。ガチガチ歯を鳴らして頭を抱えた俺は、次に来るであろう痛みにぎゅっと目を閉じた。
けれどそれは一向に来なくて、恐る恐る顔を上げると何故か今にも泣きそうな彼が、眉間に皺を寄せて俺を見ていて。
殴らないの?と言えば、殴らない、と震える声で言った。
一緒に遊ぼう、と優しく言ってくれた彼は俺がどれだけゆっくり動いても、何も言わずに待ってくれて、笑って「睦月」と俺の名前を呼んでくれた。
彼の金色の髪が太陽みたいで、「太陽みたいだね」と言ったら「じゃあ睦月(むつき)は"月"だな」って言ってくれて。
その後家に帰った俺は、嬉しさを隠しきれずにいたから……だから両親は、その日のうちに引越しを決めてしまった。
結局名前を知らないまま離れることになって、そのまま。
暫くはずっと泣き続けてたっけな……。それで五月蝿いって怒鳴られて、殴られて。

「……たいよう」

何も言わずに消えたから、もしかしたら怒ったかもしれない。そんな感情も、今となっては存在と共に忘れられているだろうけど。
ゆるりと立ち上がって、ズボンを掃う。振り返るとさっきのカップルが何故か立ち止まってこっちを見ていて、気まずい空気が流れる。
すぐに顔を俯かせて駅へと歩き出す。女の子が何度も彼氏の名前を呼んでいて、それにまたあの柔らかで優しい、一瞬の記憶を反芻した。
だからだろうか、

「――――月、」

記憶にあった声より低くなっていたけど、それでも滲み出る優しさは変わらずに。
まるで願望が飛び出してきたように、後ろから聞こえてきた声。
睦月、と小さく続けられた音に。
恐怖でも絶望でもない、でも言葉に表せない感情で身体が震えた。
振り返ったら夢が覚めてしまう。そう思うのに、身体は少しずつ動いて、

「……見つけた」

さっきのカップルの彼氏が、彼女ともう一人の男を放って歩いて来る。その顔に浮かぶのは紛れもない歓喜。
突然声を失ってしまったように、何も言えない俺はただ呆然と彼に――太陽に、目を焦がされた。



end.

(121218)
前にmemoで言ってた土手の話。他人じゃないけど(笑)
疲れてるときは変にテンションの高い話を書いたりするんだけど、暗い話のほうが書きやすかったりするww





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