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探しもの2

突然やってきた転校生は、とにかく暴力的だった。
自分が言ってることが全て正しい。あれもこれも間違っている、俺が言っているのだからそれが正しいと、圧迫されるほどの過剰な正義心を振り翳し俺を引き裂いた。
程ほどの金持ち学校だったから余計だったのかもしれない。学校には美形が何人かいて、しかも金持ち。だから生徒達は密かな憧れや、恋情を持っていたのだ。
それを、突然やってきた転校生が全て自分のものにした。
美形達はその正義心こそ正しいものだと賛同して転校生の傍にいたから、だから他の生徒達は嫉妬した。……男相手に、男が。

転校生に運悪く巻き込まれた俺は、とにかく色々なところに連れ回され容赦のない力で腕や手首を掴まれて。
折角治ってきた痣が再び紫に変わるのはすぐだった。俺が転校生の傍にいるのが気に食わない美形達の暴力もあって、俺は中学までのあの記憶を否応なく呼び戻された。

なんでおれはここにいるんだろう

どうしてうまれてきたのだろう

殴られることが怖くなくなった。泣き叫ぶのも疲れた。抵抗するなど馬鹿馬鹿しい。
ただ終わるのを、定まらない焦点をふらつかせて待っているだけ。
こんな俺が、どうして心臓を動かしているのか分からなかった。
ふらりと逃げたここで死んだって、誰も心配などしない俺が。

「ねぇヨーイチ、ねぇってば!」
「うぜぇ」

顔を上げてぼうっと視線の先にある空を見ていると、甘い声が聞こえた。
ちらりと視線を遣ると可愛らしい女の子が、かなりがたいの良い長身の男に擦り寄っていた。その横にはもう一人、俺より幾らか高い身長の男。
長身の男の顔は逆光で見えないけど、たぶん美形だ。美形に良い思い出なんて一つもない俺はすぐに視線を戻す。

「ヨーイチ、一緒にカラオケ行こうよ!」

少し距離をあけて聞こえた声と逆光で金髪に見えた髪に、ああでも、とぼんやりと記憶を探し出す。
幼稚園に通っていたころ、一人だけ、虐待に気づかれてしまった相手がいたことを思い出した。
同い年の男の子は、別クラスだったのだけど何故か俺の前によく現れて。
その日は偶々外でみんなが遊んでいたときに、隅のほうで座っていた俺の横に来て遊びに誘おうとした彼が俺の手首を掴んだ。
どうしてそうなったかは忘れたけど、そこに酷い痣があった俺は「痛い!」と叫んでしまって、彼に袖を捲くられてしまったのだ。
太陽のような金色の髪をしていた彼は、その顔も既に整っていて凄くカッコ良かった。だからそんな彼の怒りと、つり上がった眦が余計に怖くて。



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