Short | ナノ



探しもの

授業が終わり、寮には戻らずに外出届を出して街に出る。
どこに行くかは決めず適当に電車に乗って眺めていた景色。ふと、いい感じの土手を見つけたので次の駅で降りることにした。

降りたそこは乗って来た駅から三駅しか離れてなかったけど、降りたのは初めてだから少し緊張する。
さっきの土手があるだろう方向にふらりと足を進めた。
何となくだったけど無事着いたそこは、まさに某ドラマのような理想の風景を描いていた。
丁度下校時間の近隣の学生達、ランニングする大人、仲睦まじく歩くカップル。
夕日のせいもあって、更に眩しくて目を細める。それらに相応しくない俺は居たたまれなくなって、背を向けて緩やかな斜面になっている土手に座った。

9月と言えど、まだ暑い。なのに長袖を着ている俺を、通り過ぎたカップルが不思議そうな顔で見ていた。
両膝に顔を埋めてその視線をやり過ごす。
……長袖なんか、本当は着たくない。だけど、この下には痣がいくつもあるから。
俺の両親は、子供なんて望んでいなかった。だからか物心つく頃には既に軽い虐待、というものを受けていた。
まあ食事は一日一食貰っていたし、外では体面を気にして仲の良い家族のフリをしていたから、四六時中暴力を受けていたわけではない。
だけど、結局家に帰れば殴られるし蹴られる。身体中は当たり前に傷だらけで、こんな身体を見せたらどんな反応が返ってくるかなんて目に見えてるから。
体育は勿論、修学旅行にも行けない。学校側には身体が弱いことになっているし、実際まともな筋力のつかない身体は貧相でガリガリだから、疑問に思われることなく今まで通ってる。

中学までは地獄のような日々が続いた。しかしそれも、高校受験から変わった。
両親は俺の顔など見たくもないし、存在すらいらない。
俺はこの地獄から逃げたくて、消えたくて、仕方ない。だから、高校は全寮制の男子学校にした。
最初はお金が掛かると殴られたが、奨学金制度の話をすればそれはすぐに一転し邪魔者がいなくなると、笑顔に変わった。
高校での生活は凄く充実していた。謂れのない暴力はないし、きちんと毎日三食ご飯が食べられる。
なんて素晴らしい生活だろう。本当に嬉しかった。……なのに、あの転校生のせいで、また地獄へと逆戻りした。




[*prev] [next#]
>>栞を挿む

[TOP]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -