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震えが止まりません

俺の心臓はあと十秒なく止まると思う。
思えばこの十六年間、良い事と言えばたまたま買った宝くじ(500円)が当たったくらいだろうか。
悪い事はそれほどなかったけど、だからこその平凡で地味な人生だった。
いや、そのことに文句なんてないんだ。むしろ普通万歳、普通万歳!
……たった数秒前まで、そう思っていた。

俺の目の前で、そらもう今にも鼻が掠りそうなほど近くにある美形の顔。
美形ってのはこんなドアップにも耐えられるのか……別に羨ましくなんてないんだからな。
キリリと上がった一重の目はカラコンなのか、青く光ってる。
スッと通った鼻筋と綺麗な輪郭、少し薄い唇が銜えているのは……ポッキー。
そして、俺の口に入ってるのも、同じポッキー。つまり繋がってるんですね!同じポッキーですなんでだろう!

ポリ、ポリ、

目の前の彼、喧嘩がもの凄く強くてこの辺一帯の不良達のリーダーだと噂されている、三年の桐野颯(きりのはやて)先輩は、じっと俺の目を見つめたままポッキーをゆっくり噛んでいく。
その音が地獄への誘いにしか聞こえず、ガタガタと身体は震えっ放しだ。

ポリ、ポリ、ポリポリ…

それまで一定だった咀嚼が少し早くなったことに驚き、思わずビクリと動いてしまった。
笑いもせず、怒りもせず、ただ淡々と食べ進めていく先輩。
このまま行けば、確実に唇と唇がくっついてしまう。だからって怖くて動くことは出来ないんだけど……。

ポリポリ、ポリ、……ふに。

心臓が狂ったように胸を叩いて警告する。でもその警告も虚しく、どんどん顔が近づいてきて、遂に唇が触れ合ってしまった。
この学校が男子校だからって、周りはホモやバイばかりだからって、先輩はどれだけアピールされても自分から接触したことなかったはずなのに。
ぽろりと無意識に涙が零れて、ほんの少しだけ揺らいだ瞳と見つめ合う。

「…………泣くな、」

ポッキーを飲み込んだ先輩が、低い落ち着いた声で言う。
ぽんぽんと頭を撫でられ、ぎゅっと抱き締められた。

「これは、冗談でもからかってるわけでもない」

だから、泣くな。
そう言って先輩は俺を放し、教室から出て行った。
誰もいなくなった放課後の教室で、突如行われたことに。
ただ呆然と立ち尽くした俺に残ったのは、俺が銜えていた分のポッキーの欠片と――先輩の熱。


end.

(121111)
ポッキーの日だからね!ってことで急いで書いた30分クオリティー文。
とりあえず放り投げます。あとで改変するかも←



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