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春の花冠4

『そしたら凄く申し訳なさそうな声で「閉店するので出来ないんです」って!』
「閉店……?」
『ここだけの話、売上げがなくて……って笑いながら言ってたわ』

毎日見ていたが常連が多く、そんなに切羽詰っていたようには見えなかったが……。
閉店ということはあそこはなくなり、彼もどこかへ消えてしまうということだ。

「……中倉さん、今度取引先を招いてのパーティーありましたよね」
『え?あるけど…………まさか』
「それに使う花、あそこに発注しましょう」
『何百、何千と使うのよ?間に合わなかったらどうするの』
「間に合わせます」
『……なら君が電話しなさい、黒染くん。ついでに捕まえちゃいなさい』

電話番号をメモしながら笑う。彼女の性格は元々好んでいたが、更に株が上昇する。

『専務を通して上に伝えておくから、さっさと決着つけなさいよ?』
「分かってます。情報感謝しますよ、中倉さん」

受話器を置き、メモした紙を持って席を立つ。
少し出てくると部下に伝え、防音の今は空室の会議室へ入る。

「――――もしもし、私黒染と申しますが……」

4コールで出た彼に、意図せず甘い声が出る。
少し動揺しているような彼はそれでも弾んだ声で受け答えた。花の発注を頼むと案の定「閉店」の台詞が出るが、発注本数と会社名を告げれば息を呑んで絶句していた。

「今からそちらに伺いますので、詳しくはその時にお話しましょう」
『え、え?今からですかッ?』
「はい。善は急げと言いますしね」

戸惑う彼に畳み掛けるように言い、すぐに行きますと行って電話を切る。
逃げられる前に捕まえなければ、彼はそれこそ花弁のようにひらひらと飛んで行ってしまうだろう。
そうならない為なら、自分の為だけに咲いてくれるのなら上の者にゴリ押しするくらいなんてことはない。

会議室を出てロビーへと向かう。
騒ぎを聞いたのかコソコソと話す女子社員や、それでも懲りずに来ようとする者をシャットアウトし、花を手に入れるために外へ出た。


end.


(140319)

悲恋のままでも良かったけど、両片思いのすれ違いでもありだよね。
ヘタレキャラ攻の予定でしたが、安定の暴走です←
花冠:一つの花の花びら全体。(ヤフー辞書抜粋)



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