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春の蕾2

そうか……、本命がいたのか。
いや、分かっていたはずだった。むしろあれだけの美形に彼女の一人や二人、いないほうがおかしい。
分かっていた、分かっていたはずなのに――――どこまでも堕ちていきそうな感情に蹲る。
カウンターの下でそうしている間に、遠くで電話の音が聞こえる。のろのろ顔を上げて立ち上がり、レジ横に置いてある受話器を取った。

「……は?」

店名と名前というお決まりの文句を言ってから返ってきたのは、簡単に言えば「ここの店二週間後に潰すらしいから準備しといてね」ということだった。
突然すぎて真っ白になりつつ、エリアマネージャーに言葉を返していく。

「……はい、はい。失礼します」

ガチャンと受話器を置いて、さっきとは違う意味で蹲る。
売上げが少ないこの店は潰され、俺は別支店へと移ることになってしまった。折角常連さんいたのになとか、おばあちゃんの饅頭食えなくなるのかとか、……あの男を見ることはなくなるのか、とか。思って、

「、はは。いいじゃん、最初から報われないんだから」

見ているだけでいいと思っていたのも本当。想いを告げるつもりがないことも本当。でも、本命がいたことに納得したのは、嘘。
しかし何にしろもう決定事項だし、この重い想いを断ち切るには神懸り的なタイミングだ。

ぐるりと店内を見渡して、今はもういなくなっている男がいた場所に視線を遣る。
ふい、と逸らし腕捲り。手始めに在庫確認してこないとな。
ファイルを取り出してボールペンを胸ポケットに差した。


頬を伝う止まない雨は無視して、さっさと区切りつけて、新しい恋をしよう。


end.

(121206)
悲恋は苦手だけど頑張れば書けます。これを悲恋と捉えていいのであればだけど。……書けてます?←
「重い想い」は間違いじゃないです。



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