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春の蕾

漠然と、ああここだな。と思った。
ここが潮時というやつだ。この虚しい恋を終わらせるには、このタイミングだと。


俺はゲイだ。中高と男子校だったからか、必然的に恋愛対象が男になった。
まあそれはしょうがないと思ってほしい。だって、一番の思春期を男しかいない空間で過ごしたんだ。
だから、こうして高校を卒業して就職した花屋で毎日を過ごし、毎日店の前を通る男に恋をしてしまったのも、しょうがないと思う。
その男はピシリとしたダークスーツをその長身で着こなして、いつも前を向いて歩いていた。
この周辺は企業が沢山あって、たぶんそのどこかの人だろう。
俺的には一番でかい"TAKAMINE"だと思ってるんだけど。

男はイケメンだった。だから常に人に囲まれていて、でも本人はどこかつまらなそうにしていたのが最初に気になった切欠。
そっからはもう気になってしょうがなくて、その頃には店長を任されていた俺は、相手のことなんて何も知らないのに好きになっていた。
男はノーマルな人間だと思う。というか、バイやゲイなんて学生時代はうようよ周りにいたけど、今考えればそのほうがおかしいんだ。
告白しようなんて思っちゃいない。結果は目に見えてるし、分かりきっていることで折角就職出来たここを辞めることになるのは、このご時世つらい。

「、……」

常連のおばあちゃんと笑いながら話しているとき、後ろに見えた光景。
男がかなりの美人に微笑んでいるのを見て、思わず固まってしまった。
少なくとも店の前で今まで見てきた男は、上辺だけで笑ってはいても本気では笑っていなかった。冷めた目の奥はいつも凪いでいて。
それなのに、男は視線の先で本当の笑みを浮かべている。

「春ちゃん?どうしたんだい?」
「、……いや、なんでもないよ。ごめんね」

心配そうな顔で俺を見るおばあちゃんに、ゆるりと首を振る。
作った花束を渡して、またねと手を振っておばあちゃんの背中を見送った。




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