Short | ナノ



のちの有名バカップル

「ねぇねぇたいちゃん」
「あ?」
「俺、これ食いたい」
「お前まだ飯食ってねーだろ、それ食ってからにしろ」
「えええっ!でもご飯食べたらこれ食べれないかもしんないじゃん!」
「じゃあ食わなきゃいいだろ」
「やだ!今、これ食べたいの!」
「黙って飯食えバカ」

学校に来てもすぐに屋上に行くことから、滅多に姿を見せないレアキャラの黒嶋泰輔(くろじま たいすけ)が食堂にいること自体珍しいのに、その横に可愛い女の子でもなく綺麗な女性でもなくこの学校のNo.1人気の河合先輩(男)でもない、俺と同じ"普通の男子生徒"が座っているんだから、この場にいる全員食事の手を止めてしまうのも仕方ないと思う。しかも名前呼びだし。

「たいちゃん、これ食べて?……お願い」

頼んだA定食を食べ終わる前に、デザートに目がいってしまったらしい普通男子があの黒嶋にビビることなく、しかもぽんぽん言い合ってるのをぽかんと見ていると。
下手に出る作戦に決めた普通男子がA定食を指しながら、こてんと首を傾げた。
全員がどうかは知らないけど、ぶっちゃけ俺は可愛いと思わない。だって俺、男子校に通ってるけどノーマルですから。
そんな仕草を見て、黒嶋が箸を持っていた手を止めた。

「ッチ……おら、持ってこい」
「わーい!ありがとたいちゃん!!」

ちらりと見えた横顔は鬼のように歪んでいたけど、全く気にもしない普通男子はA定食を黒嶋に渡し、満面の笑みで席を立って本日のデザート『抹茶クリームパフェ』をいそいそと取りに行った。
……えぇぇ、今ので許すの?ってか黒嶋キャラちがくね?ちょっとでも気に食わなきゃボコボコにしてた不良様だったじゃないか。百獣の王はどこ行ったよ!?

「たいちゃんも一緒に食べようねー」
「ああ、……それよりコウ。お前それ食ったら俺と直帰な」
「なんで?まだ授業残ってるんだけど……」
「お前が誘ってきたんだろうが、責任取れ」
「……別に誘ってないよね?ね?なんでそうなんのっ?」

口にスプーンを入れたまま一瞬絶句した普通男子――コウ――は、カランとスプーンを落として焦ったように前のめりになった。
いや、正直俺も疑問なんですけど。もうそんな関係なの!?今までどんなかわいいカッコイイ綺麗な奴らに迫られたって、相手にしないかもしくは一度きりでぽい(という噂)だった黒嶋と……!?ってかマジで、急に現れたコウくんって何者なわけっ?

「お前が「食べて?」って言ったんじゃねぇか」
「それはご飯のことでしょ!?俺を、なんて言ってない!」
「指して言ったじゃねぇか、食べてって」

……あぁ、なんか分かった気がする。察した。みんなも分かったよな?
つまり黒嶋は、コウという生徒が指したA定食を通り越してその……アレだよ、アレをな、指して「食べて?(上目遣い)……お願い」と受け取った……妄想したと。
…………馬鹿はお前もだ黒嶋!!!

「おら、さっさと食え。1分以内に終わんなかったら朝までだからな」
「……っばか!たいちゃんのばか!」

泣きながら、それでも必死に食べるコウとやら。
その涙ぐましい努力は賞賛に値するが、絶対に無理だと思うぞ。
だってこんな時に限って、本日のデザート限定10食の『デラックス☆抹茶クリームパフェ』にしちゃってんだから。普通のにしとけば良かったのに……。


end.



(121031)
本気のバカではないバカがすきです。チャラい緩さじゃなくて、雰囲気がゆらゆらゆるゆるしてる、ゆるバカということです(笑)





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