海軍本部に乗り込んだあとに逃げるように去ったものの、さすがは海の全てを知る大手新聞「世界経済新聞社」の社長。今一番のビッグニュースである麦わらのルフィの居場所までも見つけてしまうとは、はるなはぎこちない笑みでフレームを向けるモルガンに視線を向ける。
「……では貴方は麦わら海賊団の新たなメンバーという事で?」
「……うん!」
「ではそう報道させていただきます、お嬢さんが出てきてくれるなんてこれは明日の一面にピッタリだ!ああもちろんご安心を、この独占記事の入手経路・・・この場所は特定されないよう報道するので」
どこよりも先に手に入れた一大ニュースに胸を踊らせ大きな翼を広げると、モルガンは颯爽と女人島から飛び立って行く。流石に彼のような能力では海王類も捉えられないはずだ。
はるなは風の中に消えて行く大きな影を見送りながら、つい先ほど泣き腫らした顔で自分の膝下に頭を置いて空を見上げるルフィの姿を思い出す。
仲間に会いたいと、激昂するルフィを。

何分か、そう蹲っていた彼はやがて落ち着いたように鼻を鳴らし、はるなの近くへ倒れ込んだ。
いつも心よりも先に言葉が出る彼には珍しく、少しだけ戸惑い…不思議そうにすぐ真上で自分を覗き込むはるなを見つめる。
「お前、本当は強いんだな」
「……誰だって、誰かのために出す底力くらいあるよ」
「知ってる、……でも優しくて、料理がうめぇんだ」
「……?」
「お前と居ると、フーシャ村を思い出すんだ、おれのこといつもニコニコ見守ってくれた、ねーちゃんを、」
「(私ルフィと対して年変わらないのに……)」
マキノさんと重ねられることは光栄だが、ルフィにとって自分はそれくらい海賊らしくないというのは中々厳しい気持ちもあった。
「なのにエースを守るためずっと戦っててくれたんだろ?」
「……そうじゃぞ、お前さんが気を失ってからも、その帽子だってこいつが守ってくれたんだ」
「おれの帽子を?」
「……ふふ、宝物だもんね」
「……」
「帽子だけじゃないよ、心にみんながいるって分かったら、もう寂しくなんかないでしょう?」
「はるな!!」
突然、ルフィは思い立ったようにがばりと顔をあげてはるなの顔面に詰め寄った。
はるなはびくりと顔をあげ、近づきすぎた距離から逃げるように後ろに手をつく、ルフィの瞳はきらきらと輝いていて、はるなは吸い込まれるように見つめ返した。

「おれの仲間になってくれ」

「……え……?」

一瞬の空白の後、はるなはあの時、空島で言われた言葉を思い出した。



「なぁなぁ、はるな!!おれたちの仲間になっちまえよ!!」


そうだ、ちゃんと返事を、しなきゃいけなかったのに。
だってほんとうは、心の底からその一言を待っていたのだ。
またあの時みたいに、言ってもらえるのだろうかと。

ルフィのその一声が欲しくて、こんなにも必死に、がむしゃらに守ろうとして…。
はるなは俯いて、ルフィから目を逸らしつぶやいた。
「ルフィは……私のこと、……必要としてくれてるの?」
「当たり前だろ!じゃなきゃ誘うか!」
ルフィは怒ったように詰め寄ってはるなに明るく続ける。
「それともお前…やりたい事が他にあんのか?」
「………そうだね、なにもわからないまま気づいたら一緒にいたもんね」
「教えてくれよ!」
「うん…いつか……いつかね、全部話したいな、だけど今は…」
今は、何も話せなくてもいい。
あの記憶が繋がっていなくてもいい。
ルフィの言葉は彼の心からの全てで、私が今それを受け取ったのだから。
いつか言わなければならなかった言葉が喉から抜け出て、むしろ晴れやかさすらあった。だからこそ、続く言葉に躊躇いはなかった。
「私を…麦わらの一味にして下さい…!」

悪党になりたい訳じゃなかった、きっと海賊なんてガラじゃない。
けど、あなたの見る世界があまりに綺麗そうだから、
どうか私にも近くで見せてはもらえないだろうかと、そう思っただけなんだ。



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