白ひげの提案はすでに3日間のうちに船内に知れ渡っていたらしい、白ひげの誘いを受けて部屋へと戻る時にすれ違う船員の面々に肩を叩かれ頭を撫でられ、しきりに「ようこそ」という言葉が彼女の頭上を駆け回った。
急な展開についていけないはるなは困ったようにエースに助けを求めようと視線を送るも、エースは部屋に案内する間ずっとウキウキと喜んだ表情で、
「良かったな!オヤジは最高の親だぜ!!」
としか言わないので、それを否定する事ができるわけもなくはるなは曖昧に頷いた。
部屋に案内され着替えるように言われたが、与えられた部屋のクローゼットを全てひっくり返してもナース服しかない。
なぜ………。

「はるなーナース似合ってるぞ!」

羞恥心を堪えて着替えたというのに、部屋の外で待機していたエースは出てきたはるなを見るなり嬉しそうに手を叩いて喜んだ。
……エースさんって、意外とムッツリなんだな。
「やめて!あ、あんなプロポーションよくないですし!もー!」
「白ひげのナースはみんな美女ばっかりだからって妬くなよっ!」
「妬かないよ!……って、他のナースさん達はどこにいるの?」
「全員昨日島で下ろしたぜ、元々白ひげ海賊団は幾つも島を渡るたびにそれぞれナワバリ作ったりして航海を続けてるんだが、オヤジの専属として特別にあのナース達はこの船にいたんだ、今は他の船で別の海域を回ってる」
せっかくナースさんたちに洋服を借りようと思ったのに、はるなはそうですか、と返事を濁す。
「ああ、下着とか服ならナースの子達が島で買っといてくれたぞ」
「ありがとうございます!」
エースの置いた高そうな服屋の紙袋を見つめながら嬉しそうに声をあげると、エースは急に罰が悪そうに視線を泳がせる。
「……悪かったな……」
「え?」
「……いや、見ちまったから……」
「?」
「……お前助けたとき」
「………あっ……」
すぐ、エースの言葉の意味を理解し真っ赤になったはるなを見て、エースも頬を赤くした。
色々とありすぎて気持ちが逸れていたが、そういえば私…エースさんに裸で抱きついたんだ…!
「あ……えと……」
(今更ながら……なんて恥ずかしいことを…!!!!!)
次第に羞恥心から瞳に水が浮かぶのを見て、エースは慌てて声を荒げる。
「や、そんなジッと見た訳じゃねえからな!」
「や、そんなっ…助けていただいたのに、怒ったりなんてしないよ…!」
「ありがとうごさいました!」
「急に丁寧に感謝しないで!?」
「ワハハ…それでよ、お詫びといっちゃなんだが、お前が寝てる間に島で服買ってきたんだよ」
「なんでこれ着る前に渡してくれなかったの!?」
エースはワハハと無邪気に笑って紙袋をはるなに押し付けた。
「これ俺が選んだんだよ!着てみてくれ!」
「えーーっ!?」

再びグイグイと室内に押し込まれたはるなは、バタンと閉じられた扉を横目に渡された箱を開ける。
中にはワンピースとハイヒール、ネックレスがセットで入っていた。
……これをエースさんが選んだの…?
思わず、健気に女性用のお店で私の身長を思い出しながら選んだ彼の姿を思い浮かべる。
(あ〜〜ずるい……そんなの嬉しいに決まってるのに……!)
思わず緩んだ広角をふるふると降り、はるなは丁寧に中のワンピースを取り出して腕を通す。白い小花柄のワンピースは、膝丈で少ししっかりめの素材だけれど、内側にレースがついた丁寧な作りで、胸元がV字になっていながらパフスリーブのシルエットが上品さもしっかり抑えられていた。
正直漫画を見ていた時から思ってはいたけれど、海賊船をうろつくというにはどうも不釣り合いな短さなのだけれど、それは突っ込んではいけないのだろうか。
でも
(………金のネックレスと白いヒール、すごい綺麗……)
我ながら、いい服を着れたことに舞い上がっているのも事実だ。
はるなは意を決して扉を開ける。エースが振り向いて、はるなの頭から爪先まで視線が綺麗に動くのを見る。
わずかばかり、返事が滞ってエースは言葉を詰まらせている。
目をぱちぱちと開いているのに、言葉にできないといったような様子だった。
はるなは次第に不安になり、エースに一歩近づいて首を傾けた。

「あ…あの…洋服ありがとう…ど、どうかな?……似合わないかな?」
「や、いやいや!似合ってるぜ、……ああ」
はるなの言葉にエースは慌てて声を繋げるが、はるなにはどう見ても焦った返事にしか見えなかったのだ。
「わー!お世辞だ!もう気にしてないからいいです!私白ひげさんにお断りをしてきます!!!もうダメです!!!!」
何やってるんだ私は!さっさとルフィ達に会おう!
そう思い部屋に戻ろうと振り向きかけた肩を掴まれ、気づけばはるなはエースに壁に押しつけられていた。
驚いて見開いたはるなと、彼女を見下すエースの…必死そうな視線がぶつかる。
「ホントだ!本当に…………その………かわいいって思ってるから」
「………あっ、りが…とう………」

がっしりと掴まれた両肩の熱を振り払う事もできず、はるなとエースはお互い床を見たまま黙り込んだ。
沈黙が2人の後ろを通る船員の「何してんだ」からの声によって破られるも、すぐにそこを離れていったエースの体温は、暫く立ち尽くしたまま動けないはるなの両肩に残っていた。




back



- ナノ -