エネルは訝しげにはるなを見ると、今度は彼女2人めがけもう一度雷を解き放つ。
はるなの能力を把握しかねているのだろう、彼女は雷の光速においつくために既に張り巡らされた壁に雷が打ち当たり、地面へと逃げていくのを見て確信した。
………やっぱり!!
はるなは睨みつけるようにエネルを見る、雷を蓄電するエネルの腕から雷が糸のように地面に逃げていく感触を確かめる。
―――真空は電荷……プラスもマイナスもエネルギーが発生させない壁を強制的に作れるんだ。
絶縁体の役目を果たせるのなら、電磁波じゃない…!ルフィの役に立てるはず!

「……今何をした……?」
「……企業秘密です……!」
「……ヤハハ…なにか雷を断絶するトリックを使っているようだが……それもアマい」
「っ!??!」

エネルは自らの体を光の速さでスライドさせ、一気にはるなとの距離を詰めた。
見開いた爬虫類のような瞳が、にやりとはるなの顔を見下ろす。

「がっ…!?」
「「「はるな!!!」」」
「やはり、打撃に追いつけはしないようだな!」

はるなは意識が飛びそうになる感覚にもつれた足をゆらす、ぐらりと頭が傾くと、すぐそばにゾロが駆け寄ってくるのが見えた。ゾロの腕ははるなの腰を周り、倒れた体が地面に崩れるのを僅かなところで支え抱える。

「……女だぞ」
「………見ればわかる」
「……ゾロ」

そうだ、何を調子に乗っていたんだ…エネルの拳ひとつではるなは胃から競り上がる酸の匂いにえづき倒れ込む。
掠れていく視界の中で、ゾロがエネルに向かって走っていくのが見えた。
本当ならもっと、できることがあったはずなのに…!
はるなはだんだん遠くなっていく世界で、自分を見下ろしていたエネルの表情はうっすらと笑みを浮かべているのを見た。



…………


「______あれ……?」
「はるなっ!!起きたのね!!」
「ナミさん!!!あれっ…」
「おっ起きたんだな!チキショーめ…」
「ルフィなら今、ナミを助けに蔓を登ってったよ!エネルのところに行ったんだよ!!」
アイサのその言葉に即座に状況を把握したはるなはあたりを見渡す。
暗雲立ち込めるそこは巨大な蔓の近く、ゾロとチョッパーとガン・フォールとワイパーはエネルにやられて気を失ったままだ。


「はるなマズいんだ!今すぐ脱出しねえとこの島が落ちちまう!」
「ルフィが…上にいるんだね」
「…いいわ、私がすぐウェイバーで追いかける!!みんなは何とか先にメリー号へ!!」
「ナミさん、私も行く!」
「え……?」
ナミが驚いた途端、あたり一面の雷雲は地響きのような音を立てて稲妻を落とし始める。そのエネルギーは凄まじく、近くの森に当たると火花を立てて爆風を巻き起こした。
立っているのもやっとな中、吹き飛ばされたウソップが声を張る。
「なんてでっけェ雷……!ここにいちゃ空の塵になっちまう!」
「みんな!船へ急いで!私もルフィを連れてすぐに行くから!……はるな!何か案があるのね!」
「……うん!」
今度こそ、役に立ってみせる…!ルフィが今上で戦ってるんだ…!

「よ!よよよし!わかった!任せたぞ2人とも!」
ウソップは怯えながらも2人に声をあげる、ナミと共にはるなはウェイバーに乗り込み、蔓を登っていった。
気体に熱を加えブースト代わりに上昇させる。ウェイバーは先ほどよりはるかに早いスピードで蔓を削るかの如く飛び上がった。
「きゃああああっ!?何?!」
「熱の力でスピードを出してます!!!ナミさんしっかり捕まって!!」

雷は森を貫き美しい木々を燃やしていく、きっと、目を覚ましたワイパーは今頃それを見ているはずだ。
先祖のたった1人の親友のために、守り続けていた森が、村が、宝が消えていく。
絶対に止めないといけない。そのためにも、ナミさんをルフィさんの元に送り届ける…!!



…………ねえ 酋長…………

―――まだ届くかな その鐘の音!! 今鳴らしてもノーランドに届くかな!!



「ルフィ!」
「ルフィさん!」
「え!?ナミ!はるな!?お前らなんでここにいるんだ!?」
「あんたを迎えに来たのよ!」
「みんな下で無事です!」
仲間達の無事を聞いて、ルフィが顔を綻ばせる。
「そうだったのか…そうか!よかった!!」

「そんな事より……え!?待って なにあれ!!・・・雷雲が形を変えてく」
「すごい音……!まるで大きなプラズマみたい…!」
「アレやばいわ!!雷雲の中はもの凄い気流と”幕放電”の巣窟……!!!」
雲が落ちた先では雷とそれによって起こる巨大な爆発によって地面ごと破壊され、エンジェル島が粉々になっていた。
人間が起こせるレベルを遥かに超えたエネルギーの衝突に、ナミは震えながらウェイバーを掴む。
雲を睨みつけるルフィに向かって、急かすように声をかけた。

「ルフィ!!!とにかく乗って!!!ここ降りましょう!!はるなも!!みんなは先に船に向かってるの!!!私達も早く行かなきゃ」
「だめだ」
「だめって……!!何がよ!!何言ってんのよ!!?」
「お前を助けなくてよくなっても おれにはまだ用事がある!!」
「用事!?こんな所に何の用があるのよ エネルに仕返しでもするつもり!!?」

「……この空に”黄金の鐘”があるから……」
はるなの言葉にはっとしたナミは、ルフィの方を見つめるはるなに悪寒が走り彼女の肩を掴んだ。

「黄金って……そんなの……黄金はもういいの!!!命の方が先決でしょ!!? あれ見て!!あんたにいくら雷が効かなくても!!あいつにはそれ以外の全てを壊す力があるのよ!!!はるなももういいの!私も黄金なんていらないから!諦めなさい!!!殺されるわ!!!」

「死ぬもんか」
「いい加減にしてよ!!今の……」
「ナミさん!私たちにまだ、やれることが残ってるんです…!」

「やれるって、…何をよ……!」
「そうだ……”黄金郷”はあったじゃねェか!!」

「え……」
「ウソじゃなかった」
そうだ、2人は聞いてきたはずだ、モンブラン・ノーランドの夢を。
先祖たちが繋いでいた絆が、嘘なんかじゃないってことを。
 

あるのならそれもよし……ねぇのならそれもよし……
おれの人生を狂わせた男との これは決闘なのさ


 

「ひし形のおっさんの先祖はウソはついていなかった!だから下にいるおっさん達に教えてやるんだ!!!”黄金郷”は空にあったぞって……!!!」

ナミはその必死な言葉を聞いて戸惑いながら、はるなを見つめる。彼女もまた、ルフィと同じ考えだと気づいたのだ。

「……あんたも…モンブラン・ノーランドの話を……?」
頷いたはるなは手を広げてルフィとは対照的に、不安にかられるナミに笑いかける。
「きっとこの頂上にあるんです!!だから私……ワイパーさんのためにも……鐘を鳴らしたい!!」 

「そうだ…鐘を鳴らせば聞こえるはずだ!!!じゃなきゃおっさん達は!!死ぬまで海底を探し続けるんだぞ!!!」
「ルフィ……はるな………」
ルフィは腕に張り付いた金を引きずりながら、空を見上げる。
「エネルなんかに取られてたまるか!!!でっけェ鐘の音はきっとどこまでも聞こえるから!!」

「だからおれは!!!黄金の鐘を鳴らすんだ!!!!!」

 ルフィは急いでウェイバーに乗ろうとするが、雲を乗りこなす難しい操縦技術がいるその船体はあっけなくひっくり返りルフィは転げ落ちる。
悔しそうに歯を食いしばる姿を見て、はるなは倒れたウェイバーを起こしルフィとナミに声をかける。
「……ルフィさん!私が運転します!」
「な…!!」

ナミが驚いて言葉を発しかけたその時、新しい雷雲の球体が作られ始める。それは先ほどよりも何倍も大きく、島を包み込んでしまいそうなほどに膨張を続けいる。

「おい!!さっきよりでけェぞ!!!あんにゃろう!!!」

 「―――あれでこの国を終わりにする気だわ 黄金の鐘はあそこにあったみたいね……!!さっき エネルはこの”真下”に”声”があると言ったからまだみんな船に向かってないのよ、メッセージをうまく受けてくれるといいけど」
……そのメッセージは恐らく蔓を倒せという伝言のはずだ。それならばもっとやりやすい。

「―――はるな!!あんたがやらなくていい!私が運転するわ!」
「いえ……あの雷に近づくには生身のナミさんには危険すぎます。私ならウェイバーを操れますし、……あの雷雲も、消せるかもしれません…ルフィさん、鐘を鳴らしに行きましょう」 
「わかった!!鳴らすぞ!!!」
「ちょっ……簡単に言わないでルフィ!!はるな!!あんただって生身じゃない!!なんでそんな余裕なの!!」
「……」
はるなは言葉を濁し、意を決したように2人に向き直った。
ルフィは急かすように、ナミは不安げに見つめている。
雷が轟く中、ただの肉体じゃひとたまりもないはず、はるなは手のひらをかざし、自らの手を水の塊のように透けさせた。
無重力に浮かぶ水溜りのような形に、2人が目を見開く。


「………私は”ミズミズの実”の能力者……空気を操れます…だからあの雲を……私とルフィさんで打ち消します!!」





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