「ヤハハハハハハ……!!この私に消えろと……!?さすがはゲームの生き残り共………だがお前達誰にものを言っているのかわかっているのか」
ワイパーはまだ強気な笑みを崩さないまま、刃の切先を向けられたまま言葉を続ける。
「お前達にはまだ”神”という存在の意味を理解していないようだ……!」
神、という言葉に反応したのはガン・フォールだったが、エネルは全員を見渡しながら高らかに喋り出す。
 
「…ヤハハ…スカイピアの幸福を望む老いぼれに、ひたすらに故郷≠望む戦士……黄金を狙う青海の盗賊共…悩み多きこの世だ…子羊が何を望もうと構わんが、この国にはそもそもの間違いがある…!!」

「…………くだらぬ事を言っておるヒマがあったら神隊≠フ居場所を答えよ!!貴様の目的は一体何だ!!」
ガン・フォールの怒号にエネルは一度沈黙すると、教えを説くように話し始めた。
「還幸≠セよ、ガン・フォール」
「還幸=c……!?」
「……そうだ、私には還るべき場所がある、私の生まれた空島では神≠ヘそこに存在するものとされている____限りない大地≠ニ人は呼ぶ…!!!そこには…見渡す限りの果てしない大地が広がっているのだ!それこそが私の求める夢の世界!!! 私にこそふさわしい大地!!!神の島≠ネど…こんなちっぽけな大地≠、何百年も奪い合うなどくだらぬ小事!! …いいか! お前達の争いの原因はもっと深い…根本にある。よく考えろ…」
エネルは言葉を続けると、広げていた両手を下ろし、ワイパーとガン・フォールを見つめる。
「雲でもないのに空に生まれ、鳥でもないのに空に生きる、空に根付くこの国そのものが!土台 不自然な存在なのだ!土には土の!人には人の!神には神の!還るべき場所がある!!」
「………まさか貴様!!!」
ガン・フォールが驚く間も無く、見開いたエネルの目は己の夢に一歩一歩近づかんとする時に興奮を隠せないでいた。
「『まさか』という程の事ではない、私が神≠ニして自然の摂理を守るだけの事―――そうだ!!! 全ての人間を…この空から引きずりおろしてやる…!!!」
「何……!?」
「国を消す気か!!!」
「それが自然…」
「思い上がるなエネル!!!神≠ネどと言う名はこの国の長の称号にすぎんのだぞ!!!」
「今まではな……」

「人の生きるこの世界に神≠ネどおらぬ!!!!」

「…元……神・ガン・フォール、神隊≠心配していたな……6年前…我が軍に敗れ私が預かっていた、お前の部下650名……今朝ちょうど、私の頼んだ仕事を終えてくれたよ……――この島の中でな……――そしてさっき言った筈だ。今、この島に立っているのは……ここにいる6人のみだ………残念な事をした」

「!?!?おぬし…」
「別に好きで手にかけたわけではない…………私のこれからの目的を話してやったら…ヤハハハ、血相かえて挑んできたのだ…」
「…………エンジェル島に…家族のおる者達だぞ……!!!」
「そうだな…早く家族も葬ってやらねば…」
「貴様、悪魔かァ!!!!」
「ヤハハハ」
ガン・フォールの怒りの一撃も虚しく、 エネルは己の拳をガン・フォールの頭部を挟むように上下に構えると、指先を突き出した。プラスとマイナスを意味するのだろう、はるなは咄嗟に彼を庇うべく前に乗り出したが、ラキの行動と同じと気づいたワイパーがはるなの肩を掴み押さえ込む。
「っ…ワイパーさん!」
「やめろ!あの技は防げない!!!!!」
___そんなの、わからないのに……!!!

「2000万V…ヴァーリー!!!」

轟く雷鳴に打たれたガン・フォールは、白目を剥いてゆっくりと倒れていった。
その技は直接電流を流し相手の脳を破壊する…雷鳴は一瞬の破裂と閃光と共に消えていき、はるなはワイパーの手を離しガン・フォールへと走り寄った。
「ガン・フォール、この世に神≠ヘいる…私だ」
「ガン・フォールさん!!!」
「数ある能力の中でも確かに無敵と謳われる能力の一つ雷=v
「雷…!!? …………そんなの、人間が敵うわけないじゃない……!!」

エネルは地面に降り立つと、当たりを見渡して改めて数を数え直す。

「ヤハハハ…まだ3時間までは時間があるが……6人、ひとり多いな……また私が手を下すか?」
「ふざけやがって……一体5人残して何を企んでやがる!?」
はるなは腕の中で意識を失ったガン・フォールを不安げに見つめながら、激昂するワイパーを見つめる。
道筋が違っているというのに、物語が進んでいく…。

「ヤハハハ、いいだろう教えてやる……最後に生き残った5人たちにはこれから私が旅立つ夢の世界限りない大地≠ヨ連れて行ってやるのだ!!!」

「…何だと」

「私はこれより、そこに紛れもない神の国≠建設しようというのだ、その地に住めるのは選ばれた人間のみ!!! こんな数時間のサバイバルにも耐えきれない今までの部下共では、居て貰っても国のレベルを下げるだけなのだよ!!!」
「それをもし断ったら…………?」
ロビンは思わず楽しげに語るエネルに尋ねた。エネルは不思議そうに首をかしげる。
「断る……? なぜだ、私の決定だぞ、ここに居れば、この国と共に奈落の底へ落ちてしまうのだ」
「確かに…あなたの能力なら、それもできるのでしょうけど、むやみにこの国を破壊してはあなたの欲しがる物も落としてしまうのでは?」

「…………黄金の鐘≠ゥ…ヤハハ!心配に及ばんすでに目安はついている…お前のとった行動を思い返せば、考えられる場所は一つ………きっとお前と同じ場所を、私は思い描いている………」
ロビンはエネルが地上を落とす計画を諦めなければならない理由が鐘しかないと理解していたのだ、しかしその読みもすでに想定されていたことに焦り、後ずさる。
エネルは腕を構え、ロビンの言葉の中に見えたその思考の罠に指を向ける。
「…………意外そうだな。――その条件を使えば、うまくおれを出し抜けるとでも考えたか? おれを甘く見るな………!!………浅はかなり!!!」
 
「ロビン!!!!!!」
「おれじゃ打算的な女が嫌いでね」
ナミの叫びと、エネルの言葉が終わる。
ロビンが目を見開いた瞬間、エネルの腕は方から激しい稲妻となり音をたてて突き進んだ__
雷が音を立ててロビンへと向かっていくのと、はるながガン・フォールを地に寝かせ両腕をあげていたのは同時だった。
___そうだ、役目は避雷針であればいいのだ。
はるなはエネルの発した電荷を繋ぎ合わせるように、空気中の電荷をエネルの真下へと呼び寄せる。
落雷の仕組みは地中と雲の放電の結びつきだ。ならば、エネルの雷を”特定の場所に落とせばいい”電気の回路のようにエネルの体から発せられるエネルギーはエネルの意思を持っていても、同じくらいの力がはるなにあればおそらく自由に放電できない程度には相殺できるはずだ。
「なにっ……!?」
「……!?」

激しい雷鳴は轟いた。神殿の全てに届くいななきとなり、眩しい光はエネルの目の前で確かに弾けている。
__しかしそれが、目的の女に届くことはなかった。
はるなはゆっくりとガン・フォールの場所から立ち上がり、ロビンの前に立ち塞がる。
イメージするのは水だけじゃない___気体、空気……そうだ。この物質たちを支配するんだ。
自らの手に宿っている力を理解し始めたはるなは、恐怖に震える足とは裏腹に、ロビンを救えた悦びにあがる広角を隠せなかった。エネルはその仕草から、今の理解不能な自らの技の消滅がその少女の仕業だと気づく。

「……貴様……何者だ……」
ルフィより先に、登場したこともきっと、おおきな運命のズレだろうな。
はるなはエネルを見据えて、笑った。

「天敵ですよ、あなたの」



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