対面するは神官、神兵…そしてシャンディアの戦士………
迫り来る空気中の微粒子の破裂を感じ、はるなは男達の面々を伺う。
この戦局にきたのであれば…もはやエネルとの対面は避けられない。
ならば自分は…犠牲者を増やさないために争うしかない。
遠く正面に立つオームは周りを見渡して指を折った。

「この上層遺跡に神兵が4人……シャンディアが4人、青海人2人…うわばみが一匹とホーリー…10人と2匹か、佳境だな、ホーリーあれを行くぞ」
オームが歩き出すと、合図とともにホーリーが綺麗な輪を描きながら空中に浮かぶ、道なりに邪魔をするシャンディアの戦士たちを前足で薙ぎ倒しながら、オームの掛け声に合わせ走り続ける。
「ダッシュだ!!!」

あっという間に鉄の雲でできた荊が四方八方をドーム状に囲いコロッセオのような戦場になる。
「まさにこれは…”鉄の試練”の真骨頂……!!”白荊デスマッチ”!!!」

思ったよりも随分と広い高さに驚きながらはるなが見渡していると、ゾロが目立つところで立ち尽くしていたはるなの腕を掴む。
「お前まで入ってんじゃねえか…さっきから目立つことばっかしやがって……」
「…お礼言ってくれるかと思いました!」
「うるせえ」
「それに…逃げる気なんてないですよ」
神兵たちははるなの言葉に甲高く笑いあげた
「メ〜〜ッ!!!オロカ者め!!逃げられるだけに非ず!!囲うものは白き荊だぞ!!」
「つまりーー触れりゃタダじゃ済まねェって事だな」
ワイパーの容赦ない足蹴りで荊に叩きつけられた神兵は、鉄のトゲに刺さり血だらけになって倒れ込んだ。
はるなはその様子をぞっと見つめたが、同時に、それが能力でなく物質であるという確信に安心する。
それなら……私なら”通過”できるはず、そしてそれが出来るなら……本当はこの荊も”雲”であるなら消し去ることができるのではと過ったが、はるなが立ち上がった一番の理由が近づく音に、余計な体力は使えないと拳を握りしめた。

「あと9人と2匹!!!!」
「ワイパー!!」

白い檻の中で人が減っていく中、綺麗な女性の悲痛な声が遠くから聞こえてくる。
名前を呼ばれたワイパーは戸惑ったような声で首を向けた。
「よかった見つけた…!」
「ラキ……お前なぜここに……っ!?」
「エネルは森にいるんだ!カマキリがやられて!!あんたに伝言を…!!」
ラキは必死になってカマキリの無念を伝えるために近づいてきたために、背後に光る強い音を聞き逃したのだ。
ゆらりと幻影のように光は形を描き、物質へと象られていく。
「おいラキ……!!来るな!!ここを離れろ!!」
「え?ワイパー何言って……」

「私を呼んだか」


ラキが青ざめた表情で振り返る。ワイパーが遠くでその存在を確かめた瞬間、悲痛な叫びで指先に食い込む棘すら気にせず荊から見えるーーーラキの真後ろへと降り立ったエネルに懇願した。
「よせ!!!エネルやめてくれ!!!そいつは戦いを放棄したんだ!!!」
ラキは咄嗟に持っていた中で心臓を撃ち抜くが、冷たい表情をしたエネルは無言で体に空いた穴を塞いでいく。
「ラキ!手を出すな!!逃げろォ!!!」
はるなは両手をかざし、空気の粒子に集中した。
そうだ…このやり方は”ナミさん”が得意としていた…!
エネルは手のひらをかざし、ラキに向かって放電する。焦げた黒い煙があがり、ラキの身体は倒れていった。
ワイパーはそれをただ見つめることしかできず、…あえて荊の中にいる全員に見せつけるような振る舞いの後に、楽しげに喋り出す。
「……思ったよりアマいじゃあないかシャンドラの戦士ワイパー…女とて”戦士”挑んでくる子羊を私は差別しない……せいぜい死なぬ事だ……」
笑い声と共にエネルはまさに光の速さで消えていった。幸いだ。___もう数十秒でもその場にいられたらバレていた。
「くそっ……」
「ワイパーさん…大丈夫です」
「あ……?」
はるなが集中していた意識を解くと、ゆらりと陽炎のような空気の歪みが生まれ、そこにはさっき巨大な雷に打たれたはずのラキが、驚いた表情で、その綺麗な肌を少しも傷つけずに立っていた。
「なっ……」
「あっ…あれ…!?ワイパー私……」

はるなはオームがこちらに攻撃の体制を取るよりも先に、荊の檻からするりと体をすり抜けさせる。
神兵やゾロ達が驚く声を後ろに、ラキにも聞こえるように声を出した。

「……私は水…簡単にいえば空気を操れます…だから今ナミさんの真似でミラージュ・テンポでラキさんの虚像を作りました……みなさんが見ていたのは私が作ったラキさんです」

ラキはゆっくりと腰を落として、目の前に近づく少女を見上げた。
伸ばされた手を掴み、恐怖に震える瞳を交わす。
にこりと微笑まれた事で息をはいたのも束の間、はるなは振り向いて大声をあげた。

「ラキさんは私が守ります!!!だからゾロさん!ワイパーさん!!」
「……あァ!礼は後にさせてもらう…!」
「大蛇……まずてめェの腹の中に用がある!」

まるでその言葉が合図かのように、オームと神兵たちも刀を構えゾロたちに向かっていった。
距離を取れた事で少しの安心もあり、座り込んでラキの隣で大丈夫ですかと声をかけるはるなに、ラキは戸惑う。
「怪我…してませんか?」
「私の怪我なんて…!それより…ありがとう…あんたも不思議な力を持ってるんだね」
「…いえそんな事……」
「そんな事なんて!いまエネルに対抗したんだろう!?すごいよ!青海人にはそんな事ができるやつがいたんだね!」
ラキは希望を胸にそう告げて、荊の中で戦うシャンディアの戦士達に叫ぶ。
「ワイパー!!エネルは雷だ!!!だから物理的攻撃は効かない!!!!」

__そう、雷だから、ゴムも……”水”も効かないだろう。
だから…次こそ隠れているわけにはいかない、対峙しないといけないんだ。
はるなは込み上げる不安を抑える術もなく、ただ荒くなっていく息を飲み込んだ。



back



- ナノ -