四方八方が敵であることを即座に理解したゾロは、すぐに両腕に刀を構えはるなへと視線を向ける。
「あの大蛇…とうとうこんなトコまできてやがる、おいはるなお前は隠れてろよ」
「も、もちろんもちろん…!怪我しないでね…!!」
「そりゃまァ……無理かもな」
「ひーっ!」
はるなが涙をうかばせゾロの元からも後ずさると、一部を怪訝な表情で見ていたワイパーが声を荒げる。
「あの青海人もか…絶対に出てくるなよ」
「わかってます…!」
2人の男に念を押され遺跡の影に座り込んだはるなは、彼女を隠すように立ち塞がるゾロとワイパー目掛け構えをとる大きな白い犬の姿を見た。
「ワイパーさん…そのっ…ゾロは敵じゃないからっ…2人が争わなくても」
「…悪ィが…黄金を狙う余所者はおれ達にとっちゃ全員敵だ……たとえお前の仲間であっても…まとめて消えろ!!」
ワイパーが銃を撃つと凄まじい衝撃が空気を切り裂き、オーム達は飛び上がり地形の変わる岩を蹴りつける。
ゾロは大きな銃口を睨みつけると姿勢を直し向き直った。
「厄介な武器だな…派手にやるとはるなにまで被害がいくだろうが」
「……てめェに言われなくても方角を見誤ったりはしねェ、昨日今日空へ来たお前らに渡せるもんはここいねェぞ!」
「空の事情はおれ達に関係ねェ!」
ゾロの一振りを足元で払うワイパーは、ためらいもせず銃口を再びゾロへと向ける。
はるなが入る余地などまるでない戦いの勃発に、煙を手のひらで払いながら頭を悩ませるしかなかった。
このままだとエネルがくる…!その前にワイパーだけでもゾロ達と一緒に戦ってくれればと思ったけど…
ガン・フォールも参戦し巴が重なる怒号の中、雲を突き抜けアイサを乗せたナミが雲の下から競り上がってくる音が聞こえた。
「そうだ…先にあいつらを…!!」
「待てメ〜〜!!!」
ボフンと雲から抜け出てきた敵達の姿を確認すると、はるなはゾロ達が振り向く前に空気中を駆け抜けナミの運転するウェイバーにするりと足を滑らせた。
「えっはるな!?」
「ナミさんそのまま前に進んで!!」
追いかけてくる敵を払うくらいならできるはず…!
戦闘の知識がないはるなにとって、向かってくるだけの相手をーー本誌と同じ動きをする相手なら対抗できると踏んだのだ。
どこまで確実かわからない…まさに雲を掴むようなイメージを手繰り寄せ、はるなは空気中の水を鋭い薔薇へと描いた。
「あいつらを止めます!!」
両手を前にかざした瞬間、空気の間からまるで天へむかって育ち続けるように薔薇の茎を模した氷が生え男達を捕らえた。
「ぎゃあああっ!??!」
荊は捕らえたまま雲の下……地上へと男達を引き摺り下ろし、抵抗も虚しく、すぐに声は地平の彼方へ消えていくように遥か下へと落ちていった。
空気を蹴るナミのウェイバーをそのまま気体の流れにのせ遺跡へと下ろすと、一部始終を見ていたゾロが一瞬ほっとしたのも束の間、焦り声をあげワイパーと共に叫ぶ。
「アイサ!!ここで何してる!!」
「ナミ!!てめェがなんでここに!!!」
「あっゾロ!?ありがとうはるな!えっと……みんなは!?」
「ワイパー!!」
ワイパーはナミに抱えられているアイサを見て怒りに銃を構えた。
はるなはすぐにウェイバーから降り2人の前に両手を広げ立ち塞がる。
打ってこないはずだ、という淡い期待を裏切らず、ワイパーは憎々しげに声をあげる。
「はるな!!アイサをこっちに渡せ!青海人め何を企んでやがる!!」
「まっ待ってワイパーさん!違うのナミはそんなつもりじゃっ……」
はるなの言葉も途中にジュラララとけたたましい鳴き声が再び襲い、はるなは振り返るとガン・フォールがナミ達を助けるべく掬い上げているところだった。
ーーーそれを阻止するためにそばにいたのに!!
はるなの期待を込めた反撃も虚しく、滑空する大きな翼にしがみつくナミ達はあっという間に地を這い首を伸ばした大蛇の口の中へと吸い込まれていってしまった。
「あのバカ…!!」
「アイサ…!」
「ッ……!」
呆然とするゾロとワイパーへと視線を向けるオームの存在を把握していたはるなは、展開通り胃の中へと落ちてしまったナミ達を心配する心を一旦置いて、すぐに両手を振り上げた。
この地上より遥かに湿度の高い…雲の上の世界がはるなにとって理想のフィールドであったのが幸いした。
気体を…水を操れるだけじゃない…空間に干渉できているんだっそれなら斬撃の衝撃を相殺できるはず!
刹那、予告なく振り下ろされたホーリーとオームの2つの衝撃をはるなは横から奪い去るように真空の嵐で打ち払った。
衝撃波がぶつかる音だけが雲を切り裂き、目の前でうち消えた閃光を捉えられなかった衝撃と、それを防いだのがおそらくーー遠くにいたはるななのだという事に気づく事に、ワイパーとゾロは僅か時間を必要とした。
「……まさかいまのを打ち消すとは…だが他人のことなど放っておけ!!どの道だれも助かりはしない」
オームの鋭い視線に息を飲み、はるなは両手をおろした。
「まだ……わからないから…!」
引っ込んでろといった2人の男に心の中で謝りながら、彼らと同じように、遺跡の上へと立ち上がった。


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