「大丈夫かお前ら…なんかすげェ青ざめてんぞ」
「……色々…あったんです…ねえチョッパー…!」
「ウウ"ッ!別におれは"っ…怖かったワケじゃ…!!」
はいはい、ゾロは宥めるように歯を食いしばって涙を浮かべるチョッパーの頭を撫でる。

あのあと、空の騎士とピエールを救出し、船の中で安静にさせてからというもの、チョッパーとはるなはいつ新しい"神官"がくるやもしれぬと怯えて船内に隠れ続けていたのだ。
ぞろぞろとメンバーが再集合していくさまを見るだけで、身体中に安堵が沸きはるなはチョッパーの手を繋いでへたりこんだまま、不思議そうに見下ろす面々にぎこちない笑みを見せた。
一方でウソップは、船内の荒れ果てた様子をみて恐ろしそうに焼け跡のマストのあった焦げ目に触れている。
「ま、マストが無え…!」
「あ…」
チョッパーはすぐ気まずそうにウソップの元へ駆け寄った。あの惨状を伝えるには相手の力は異端すぎた。本当はチョッパーだって絶対に、傷つけたくなんてなかったのだ。はるなは目を細めて狼狽える小さな背を見る、ウソップに励まされ、決意に燃える彼を見つめる。
とっさの防御ができるはずなのに、戦闘に対しての不慣れさは明白だった。
……私が、もっとちゃんと戦えていれば…!
ぎゅう、とやぶれた服を握りしめていると、思い詰めた顔に気づいたのかナミがはるなの体を押し女子部屋へと連れていく。
「ほら!これ着て! 部屋で着替えてきなさいよ、貸してあげるから私の服…」
「あ、ごめんなさい…ありがとうございます」
「もちろん"貸し"だからね?」
「………はぁい…」
特別に借りたナミさんのTシャツに着替え部屋から出ると、どうやらキャンプのために全員外で食事や宿の準備をしているらしかった。空の騎士と側で包帯にまかれいくらか落ち着いたピエールを撫で、船外へと出ていった面々を見送っていると、ナミは振り向いて自分の後ろをついてこようとするはるなの前に手を向ける。
「はるなは寝てていいのよ、お客さんだもの…守るって言ったのに、こんな怪我までさせちゃったし!」
ナミは顔を曇らせ、綺麗に消毒がされ包帯が巻かれた肩を見つめる。はるなは慌てて肩を抑えながら言葉を返した。
「ナミさんそんな!私は別に……」
「いい!? しっかりしなさいよあんた達!!!!!!」
「「「「ええッ!?!?!?」」」」
びしぃっと指を突き刺してキャンプの支度をする男達に告げる、ゾロは着替えたはるなを一瞥すると、彼女に見えるように指先をくいと曲げて船から降りるように命じた。ナミが忙しそうに出て行ってしまって、そのまま船内に戻って寝るのも引け目があったはるなは、ゾロの視線を受けるまま大人しく彼の元へと走り寄っていく。
「ゾロさん! 何か私に出来ることでも…」
「……ああ、…そういうんじゃねェが……」
「え?」
「船内にいられたんじゃ守れねェからな、なるべく近くにいろ」
「……! は、はい…」
きっと、ナミに指示されたからなのもあるのだろうけど、はるなにとってゾロの無骨でありながらさりげない優しさは、お客として迎え入れられた立場としても、頼れる背中があるという心持ちが安心させた。
「で、でも何もしないわけにはいかないので…薪拾い付き合います!」
「おう」
ゾロはそっけない声で、だがはるなにしっかり聞こえるような声で頷いた。





「よし…できた!じゃあみんな!明日どう行動すべきか!作戦会議を始めるわよ!」
「おォ!!!」
サンジによってあとはもうすこし煮込むだけというところまできたシチューの大鍋を前に、ナミが一同を集めた。ナミの手元にある地図を覗くと、航海士の腕を初めて間近で見られた感動と同時に、あまりに正確な図面にはるなは瞳を輝かせる。
「すごい…!ナミさんの地図!」
「これくらいの広さならお手のもんよ!」
ナミは眼鏡をくいとあげサービスのウインクをはるなに見せた。

「んまいですね〜〜〜〜このシチューはまた」
「おめェはさっき空サメ丸々一匹食ってなかったか」
「まァあれはつなぎだな」
バクバクとあっというまにシチューを平らげながら、三者三様のリアクションを見せる。
「う〜〜〜〜おいしい!!!」
「口にあって嬉しいぜはるなちゃん」
絶品の料理に感激に震えながら、木の根を椅子にとろけた野菜と肉(なんの動物のかは最後までわからなかったけど…)のシチューに舌鼓を打ちながらサンジの笑顔に思わず頬が緩む。
「サンジさんの料理が食べられて光栄です!」
「んは〜〜〜〜無邪気なはるなちゃんの笑顔たまらねェ〜〜!!」
「黙れエロコック」
「ああ"!?」
「やかましい!!!!!」
ナミは思わず一喝をあげたのち、持っていた羽ペンをくるりと回して焚き火を囲む面々に指を指す。
「いい? まずノーランドの絵本のおさらいよ。彼が初めて黄金郷≠見たのは400年前。それから数年後、再びジャヤを訪れた時には…もう、黄金遺跡はなかった」

…もちろんはるなには、そのすべての経緯がわかっていた。
雄大で、偉大な黄金の姿も、まるで夢物語の様に自分も夢中になって読んでいたのだから。

「──つまりその数年の間に、ジャヤの片割れであるこの島は上空へやってきた」
「突き上げる海流≠ノ乗ってか」
チョッパーがサンジからもらった皿を運びながら思い出した様に言う。
「ええ、それしか考えられない。海底での爆発位置は毎回違うとクリケットさんが言ってたから」
「あの規模だもんな…島も飛ぶぞ」
 ゾロは当たりを見渡しながら怪訝そうに言葉を挟んだが、ロビンが並んで補足する。
……そばで聞いていると面々の記憶力や知識量に圧倒されてしまうくらいだった。
「──でもよ、ジャヤでおれ達が入った森とこの森が同一とは、とても思えねェが」
「それは…きっと海雲≠竍島雲≠作る成分のせいね。この空島を包む環境は動植物を異常な速度で育む力があるみたい、…だとすれば森にのみ込まれた文明にも納得がいくわ」
「空の騎士を助けてくれたサウスバードもこんなにでかかったんだ!なあはるな!」
「そ、そうそう!翼もこれくらいで…!」
2人が並んで手を広げて見せると、サンジは訝しげに2人を見る。
「それだが…なんでそのサウスバードがはるなちゃんとおめェを助けたんだ?」
「それがわかんねえんだ。サウスバードはみんな、空の騎士を神様≠チて呼んでて…」
「神!?」
ルフィは思わず寝そべる老人に向かって目をまんまるにして指を刺した。
「じゃ何だ、このおっさんブッ飛ばしたらいいのか!?!?!」
「いいワケあるかァ!!! このスットンキョーが!!!」

そしてナミが自ら書いた比率を合わせた地図をみんなに見せると、ジャヤの謎が浮き彫りになった。
大冒険を意味する宝の地図をまさに描いたそのものに、ルフィが手を掲げお宝と声を張る。

「間違いない!!この場所で莫大な黄金が私達を待ってる!!!!」





ルフィの提案で焚き火からキャンプファイアーへと様変わりしまるで祭りの様に夜が更けていく真夜中。
はるなはナミに借りたタオルケットを片手に寝床を探して木の幹をうろうろと歩いていると、ふいに腕を捕まれ柔らかい地面に腰をつく。その側に刀を抱える様に座り込んだのはゾロだった。
「ここで寝てろ」
「えっでもお邪魔じゃ……」
「後ろ」
「えっ……ひゃああ!?」
言われるまま何の気無しに振り向くと、小さな蛇が足元に這っていた。はるなが驚いて体をよろけさせると、ゾロの刀は刃を見せることもなく先端で放る様に森の奥へと投げ捨てられる。よろけた体はそのままぽすりと、ゾロの隣で寝転ぶ形になってしまっていた。
見上げると特に意も介せず刀をまた腰に戻したゾロが、はるなの抱いていたタオルケットを奪いばさりとはるなの体に覆い被せる。
「噛まれたくねえなら丸くなって近くで寝とけ」
「……なんだかゾロさんに頼りきりですみません…」
「エロコックはナミが却下したしルフィたちは爆睡するからな、まあ妥当だ」
「うう……」
「おら、さっさと寝ろ…」
ぽんぽん、とゾロらしくもない優しい手に混乱する頭をなんとか振り切り、はるなはタオルで顔を隠す様に照れた赤みを気づかれない様に意地を張った。
「子供扱いしないでください……」
ゾロはにやりと笑っていたが、悔しくてはるなはそのまま瞳を閉じて眠りについた。




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