「そ…そうだホイッスル!ホイッスルを持っておこうチョッパー!」
「そうだな!これなら安心だ、船にあったよかった…」
「そうだね、大丈夫、これなら困った時に鳴らせば……」

「何だ殺していい生贄はお前たち2人か?」

ピィイイイイイイィィイィ──────

まるで綺麗なスローモーションを見せて、はるなの向かいにいたチョッパーが振り返りながらホイッスルを吹き上げる。
甲板にいたはるなとチョッパーの前に降り立った男が、ギロリと甲高い笛の音の中で睨みを見せたからだった。
「さて…まず先にこの船をどうにかするか…フザ!!」
2人を一瞥した男が声を荒げると、大きな翼を持った鳥は雄々しい鳴き声をあげながら翼を翻らせた、
嘴からまるでバーナーのように広がり燃え盛る炎が船へと吹き付けられ、目の前でそれを見ていたチョッパーとはるなは真っ青になって燃えるマストへと近づいていく。戸惑うはるなより早い反応で、チョッパーはマストを担ぎ力任せにへし折るとなんとか燃える炎を船の外へと放り投げる。
「もっ……もうやめてくれ!おれは船番なんだ!この船をよろしくと言われてるんだ…!ハアハア」
「チョッパー!」
はるなは急いで駆け寄るが、肌の毛が所々焼けてしまっている。躊躇わず守った代償の火傷を見て、はるなは怯みそうになる手のひらを握りしめ、チョッパーを守るように彼の前に立つ。
2人の様子を煩わしそうに見ていた男、スカイピア神官スカイライダー“シュラ”は、頭に手を当てながらため息をついた。
「仲間は襲うなという…船は傷付けるなという、己は死にたくねぇという、困ったな……!」
「あァわがままな畜生だ、実に腹立たしい」
男の眼光は鋭く、槍を突き刺し唸りあげる。
「そんなに生きたきゃなぜ弱いっ!!!」
「っ危ない!」
チョッパーめがけて放たれた槍は炎を帯びて船に突き刺さる、はるなは即座に手のひらをかざした、
もしかしたら、それくらいの意識だったが、幸いにもはるなは過去に飛ぶ以前の能力を失っていなかったのだ。そしてここは周りは雨の素となる雲の塊だらけ、はるなは雲の細かな水分を念じ、なんとか槍の周りに水鉄砲をかけるように大きな水泡を生み出し鎮火することに成功した。鉄板に水をかけたような激しい音がして、すぐにシュラは訝しげにはるなへと視線を移す。
「…妙な技を使うな、小娘」
「……船を燃やさないでと、お願いしてるじゃないですか……」
「はぁ…ったく…なんの犠牲もなく、お前たちは生きようと言うのか……?」
「それは…」
「誰かが生きるということは誰かが死ぬということだ、この世とはそういうものさ……お前たち、ここが生け贄の祭壇だと知っていたか?」
チョッパーは焦りながらも頷いた。
「ああ…!そんな事言ってた」
「そうだお前達の仲間の残りが今必死にここへ向かってるところだ……!!この島には我ら神官の司る4つのエリアが存在する、一つのエリアに標的が足を踏み入れている間他の神官は手を出さないルールだ」
シュラは首を傾げ、辺りを一度見回した後はるなとチョッパーを再度見下ろした。
「ーーだが、この“生け贄”の祭壇はどのエリアにも含まれないいわば、フリーエリア…誰が手を出そうが構わねェわけだ」
「そんな……」
「まァ聞け、それは「試練」を受ける者達が死んでしまった場合の話だ」
「え……じゃあ」
二人はパッと顔を見合わせた。
今ここに向かっているのは、あのルフィたちだ。
「その“試練”を受けた人たちが無事ここへ助けに来てくれたら……おれ達も逃げていいのか?」
「ああそういう事だ……逃げられるものならな、このフリーエリアから……」
「え"!?」
な…なんかいやな予感…。二人は青ざめながらシュラの続きをまった。
「それはつまり本来の”裁き”のルールであって例外の場合少々形を変える」
「例外……?」
「──そう、例えば…生け贄が3人向こうの森のつるを使って勝手に脱走してしまった場合」
「へーそんな場合か」
「そんなことならまあだい……」
犯人はあいつだ!!!!!!!!!!!!!!!

2人は目を見開いて固まった。言い逃れのしようもない。
あの華麗なターザンを見送った2人には、シュラの言葉がまるで天から見ていたかのように突き刺さる。
「あれ…止めなくちゃいけなかったの…?」
「もう遅い、誰かが逃げた罪は誰かが死んで詫びろ、“犠牲”という名のこの世の真理だーーまた帰って来るとすれば尚のこと…己の過ちをより深く知るために…お前の命を“神”に差し出せ!!!!」
「いっいやだァ!!」
「!避けてチョッパー!!!」
間一髪の所でチョッパーに向かって突き出されたスピアの先を水で弾く、これで2度目、次もうまくいくかはわからない。不意をついたことで阻まれ、シュラがはるなへと視線を変える。
「…先にお前から始末するべきか」
「ッ……神の僕なのに、攻撃的すぎませんかっ?」
振り上げた巨大な槍がこちらに向かってくる。どう防御すべきか?体を水にすれば、もしくは──…
自分が悩む暇もなく、突き出された鋒に目を見開いた瞬間、けたたましい音が響く。金属同士が鈍く打ちあう音、瞬きをすると、目の前に空の騎士が相棒に乗って浮いていた。
「少々待たせた」
「「空の騎士!!!!!!!!!!!!」」

チョッパーとはるなは涙を潤ませて白馬に乗った王子かのような優雅な鎧の男を空に見上げた。



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