突然激しい揺れに襲われたメリー号は、はるなの予想通り船体が大きな地震に囚われたかのようにぐらりと傾くと、急旋回で浜辺から離れ突然猛スピードで動き出した。遠ざかるエンジェルビーチにいるウソップたちが驚いて声を荒げているのもあっという間に遠ざかっていく。
「ちょっと待って何これっ…一体何なの!?」
「ナミさん気をつけてっ!これは…っ”白々海名物超特急エビ”です!!」
はるなのエビという単語に驚いたナミが船底を覗こうと身を乗り出すと、そこには巨大なエビがまるで餌を運ぶかのように船をはさみで持ち上げ走り出していた。
ゾロは急いでナミたちへ指示をだす。
「どこかへ連れていく気だおれ達を!!おい!全員船から降りろ!まだ間に合う!」
「だって船!?船持っていかれたら…!」
「心配すんな!おれが残る!」

「…いいえ、そんな事も出来ないようにしてあるみたい」
ゾロの言葉も虚しく、ロビンが向けた視線の先には、船の後ろ…超特急エビの後方から追う獰猛な魚たちの姿が見えた。
牙を剥き出しに大きく口開けて、船からこぼれ落ちる肉片を食いちぎるのを今か今かと追いかけている。
「うわあジョーズよりこわい…!」
「飛び込んでも勝ち目はなさそう…おそらくもう始まっているのよ」
「"天の裁き"か…追っ手を出すんじゃなくおれ達を呼び出そうってわけだな、横着なヤローだぜ」
その言葉に思わずはるなとナミは顔を見合わせた。
「じゃあ…またあの島へ!?」
「そんな…!」

あの大地を破壊する、恐ろしい光、男たちの”罰”…。
祭壇に掲げられる生贄として争う術もなく船は進む。ゾロは恨めしげに刀に手をかけたまま前を見据えた。
もう、戦いは避けられないと海賊の血が理解していた。







「あァウザってェ!!!」

そういって焦りながら拳で殴り倒したと思うと、ゾロは階段を苛立ちをあらわに登ってきた。
もちろん、祭壇から逃げる事は叶わなかった。

「ハァ…まいったな…これじゃ岸にも渡れねェ…つーか一体どこなんだここは…」
「間違いないのは"神の島"の内陸の湖だって事」
「まるで生贄の祭壇ですね…」
はるなが重たいため息をはくと、ゾロは怪訝な顔でその表情を追う。
「お前なんか知らねえのか?ここから出る方法とか」
「っ…そうですね…とにかく…動かないことが一番かと」

海に落ちたことで濡れた服を脱ぎ、絞りながら何事も無かったように会話するゾロに伝えるが、正直なところ誘導としては二手に別れなければロビンが”歴史の本文”の一端に触れることができない。鐘のヒントだって必要だ。
だから出来ることなら何も知らないふりが一番なのだが…どうしてもこの先の展開を思うと、何か助言ができたら、と思ってしまう。

「下手に動いたらそれこそ相手の思う壺です、ルフィさんたちがこちらへ向かってくるなら…ここを合流地点としたほうが」
「いや…ならおれは森に入る」
「はっ!?ゾロ何言ってんのよ!」
渡された着替えのタンクトップに首を通しながら発せられた言葉にナミが思わず声をあげた。
「船底がこの有様じゃ船降ろすおわけにもいかねェし、とにかく船をなんとか直しとけチョッパー」
「え!?おれ!?わかった!」
「で…この島には神がいるんだろ、ちょっと会ってくる」
「だっダメですゾロさん!」
「そうよあんたはるなの忠告聞いてないの!あんな恐ろしい奴にあってどうすんのよ!」
そうナミと顔を揃えてゾロに言うが、その必死な形相すらもゾロには愉快に感じられたらしい、はるなの怯えた瞳を見下ろしてわざとらしく歯を見せて笑った。
「さァなそいつの態度次第だ」
「ゾロ…神様より偉そうだ」
「やる気満々じゃないですかあ……」

せめて一緒に抵抗してくれるかと思っていたナミも、ロビンの宝石の言葉につられてあえなく探索の準備に進んでしまった。
…状況はわかっているが、チョッパーを1人ここにおいて置く事はできない。

「えっ、はるなあんた残るの?」
「はっはい…あまり探索とかは慣れてなので、ルフィと合流するのを待とうかと…」
その言葉は非戦闘員のはるなの発言だからこそ説得力が出ただろう、ナミたちも祭壇は生贄という認識であったからこそ深く追求することなくつるを使って向こう岸へ渡ろうとした。

「じゃあ船番頼むぞ!チョッパー!はるな!」
「おう!分かった!無事帰ってこいよ!」
「お気をつけてー!!」

声援を送りながら、三人の後姿は森のジャングルの中へ消えていく。
船の上は再び静寂が戻るが、チョッパーとはるなは漂う不安をなんとか拭おうとお互いあたりを見回しながら船の修繕用の箱を手に取る。

「みんな勇気があってすげェなァ」
「神のいる森に挑むなんて……危険すぎるのにね…」
「ナミはゾロ達が付いてるから大丈夫だぞ!…おれは怖くて無理だ。だけど…おれもその内勇敢になれるか な…!」
不安そうな声、チョッパーにそんなふうに声をかけてもらえると思わなくて、ひなは思わず眉を吊りあげしゃがみ込む。チョッパーの視線に合わせて、拳を見せつけた。
「なれるよ!だってチョッパーもゾロさんに仕事頼まれてたじゃない!」
はるなの言葉にチョッパーの瞳はぱあ、と途端に輝き出す。
「おう!おれは今やれることをやろう!」
「やろう!」
「危険な森で船番なんて、信頼されている証拠だ……!」
「そうだよ!こんな危険な森で2人きりで…」


「…………」
「…………はっ」


一番危険なのおれ(わたし)達だっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


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