「そうです、そこで右側のアクセルを……」
「アクセル?これか?踏めばいいんだな!」
「ぅうわぁわ!おお!!走ったぞ!!!」
「ルフィ!」
激しい音を立ててウェイバーは走り出す。全員の視線がまるで鳥を追いかけるよう右往左往するが、案の定波を捉えられないルフィの腕は自由を奪われ暴れ馬の如く駆け出していく。
「わぁ!やったァ!!」
「ふぎ!!!!」
「わ────ルフィ!!」
「こけた」
「この上ない大転倒だな」
「大丈夫ですか────!??!」
たった10秒の間に起きた大事故に、はるなは慌てて駆け寄ろうとしたが足を踏み出した瞬間には両隣にいたゾロとサンジの足が雲の中に沈んでいった。そしてすぐあとに、…なぜかチョッパーが落ちていく。

「っ…何やってんだチョッパー!」
「わ────!!!」

慌ててウソップと2人ばちゃばちゃと足を踏み入れていく、2人がかりで抱えて陸地にあがるが、思った以上にチョッパーの体が重たいことを知った。

派手に大転倒を起こしたウェイバーは動力を活かすため非常に軽く造られており、初心者に優しくない乗り物らしい。
十年程訓練してようやく乗れる乗り物で、コニス自身も最近ようやく乗れるようになったくらい難しいと、 小さな波でさえ舵を取られてしまうため、波を予測出来るくらい海を知らなければならない。

「……でも、ナミさんには関係なさそうですね…」
「は? はるな何言ってんだ…って乗っとる!!!!!!」
ウソップが目玉を飛び出させるのも必然、ナミはものの数秒で自分の手足のように乗りこなしていた。

「んん!確かにこれはコツがいるわね、デリケートでルフィには無理 な代物だわ」
「さすがナミさん!素敵すぎるー!」
「何と…!あそこまで乗りこなしてしまうとは、凄すぎる!すみませ ん」

感心する男連中の横で、唯一ルフィだけは不満そうだ。「降り ろ!」「代われ!」果てには「沈め!」など不吉な事を言っているよ うに聞こえたが、サンジの踵落としで自分が沈む羽目になった。 はるなはまるで泳ぐように空の海を走るナミの姿に見惚れてしまい、気持ちよく走るナミに向かって手を振った。 ナミはそれを羨ましがっていると見たのか、まるで華麗なバイク乗りのように近づいてくる。

「あんたも乗って見なさいよ! 後ろに乗せてあげるから!」
「えっ…も、もしかしてお金がかかるとか……」
「あら勘がいいわね、でもこれくらいいいわ!乗って!」
「やったっ!」
華麗にウェイバーを寄せてきてくれた彼女の腰に捕まるように小舟の後ろに腰をおろす。重心の移動が大事な機体だ、自分はしゃがいんでいたほうがいいだろう。いくわよっ、声を張るナミは慣れた手付きで再度ウェイバーを発進させた。
「みんな先行ってて!おじさんもう少し遊んでていい!?」
「ええどうぞ 気をつけてください!」
真っ白な絨毯の上を滑るように、ウェイバーはナミの意思によって 自由に進んでいく。
エンジェルビーチと呼ばれる浜辺がどんどん遠ざかっていった。

「夢みたい!風向きも気にせず自由に走れる船があるなんて!普通の海でも使えるのかしら」
「ダイヤルがあればいいみたいだし大丈夫かもしれませんね…!」
「そうよね! 何とか手に入れて帰りたいな”ウェイバー”…!」
「買えるといいですね!機体…!」
でも…そういえばこれってこのままいくと私たちは…。
はるなはすぐに状況を思い返し大声を出す。
「ナミさん!!!引き返しましょう!!!!!」
「えっ?なにっ?なんかあった……て…何あれ……木…?」

しまった…!

2人の前に現れたのは、巨大な木々に覆われた島だった。
「地面があるわ……」

神の住む土地……”アッパーヤード”にきてしまった…!

この後の展開はわかっている、でもはるなは恐怖で様子を見るという方法よりもここを真っ先に離れる方に意識がもってかれていた。
「ナミさんっここ絶対危険です!戻りましょう!」
「そ…そうね!気味悪いし、離れた方が良さそうね…!」

急いでハンドルを切って走り出した途端、2人の視界に仮面の男が映った。すぐ聞こえてくる甲高い金属音。その姿は最初にメリー号を襲った時現れた男と同じ仮面だった。刹那、激しい爆発音が轟く。

「……!?!? 」
「ナミさん!ハンドル!!!!!」
「っええ!!!」

走り出した途端にすぐさまつんざくような爆発音がして、ナミにつかまったままはるなは後ろをむいた。段々と遠くなっていく島には激しい黒煙があがり、ついさっきまで自分たちがいた所が燃えているのが見えた。
「なに…私たちをねらってたの…!?」
「いえっ…違うみたいです…!争いがあったのかも…」
おそらくそこにいた”筈の”男のことは、考えない方がいい。
はるなは頭をふって必死にナミにしがみついた。
急いで岩の影に隠れると、すぐに別の男たちの声が聞こえてきて思わずナミとはるなは顔を見合わせて口元に手を当てた。

「…今、男以外の声があったような」
「ゲリラだ。逃げたようだが…おいおいその犬を黙らせろ!」
「しかしエネル様はどういうおつもりだ。結局自分でカタをつけると は…我々は一体何の為に…」

…おそらくこの声は”神官たち”だ 。
はるなは頭の中に浮かぶあの男たちと巨大な犬の鳴き声で確信する。
そして不法入国をしてしまった時点で、…逃れられるはずがないのだ、天上から見下ろす、あの神の意思に。

「時間切れというだけだろ」
「時間切れ?」
「次の"不法入国者"がすでにこの国に侵入 している。"青海人8人"を乗せた船だとアマゾンのばあさんから連絡があった」
「たった8人か、これではすぐに終わってしまうな」

男たちの声が遠ざかっていく。ナミは真っ青な顔ではるなのほうへと振り向いた。

「…"青海人8人"ってあたし達の事!?」
「……そうなりますね、これがおそらく”罰”……」
「はるなが言ってた事がこんな大事だったなんて…これじゃ仲間に会う前にあんたも」
「合流より先にこれをどうにかしないといけないみたいですね…」
「確かにこんなの…一体何が起きてるっていうの…!?」

空島に落とされた時から不法入国しか前に進む方法がないのは理解していた。それはつまり、空島編を生き抜かなければならないという事だ。
完全に島から人の気配が無くなるのを待って、はるなとナミは急いでクルー達の待つエンジェルビーチにウェイバーを走らせる。
はるなは唇を噛み締めながら……あの黄金が自分のせいで地上で待つ夢の男に届く事がないなんて事が起きないように、
それだけをただ、祈っていた。



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