「は〜〜〜!!!ここは何なんだ!!冒険のにおいがプンプンすんぞ!!!!」
「うぅ………」


足下がおぼつかない、ルフィが目の前で可愛くはしゃぎ回っているというのに、そこに私も!と飛び込みたいのに!
(とは言っても、ルフィは私の事を覚えていないのだからまだそんなに馴れ馴れしく出来ないのだろう…寂しい……)
大人しくはるなは自分が今座り込んでいる浜辺をぺたぺたと触り、薄く息をはく、湿った雲を目の前で掴むと、思わずぺろりと舐めてみた。

……………しょっぱくはない。
霞を食べると言う言葉を感じることができるのなら、それはこういう感覚なのかもしれない。


「ビーチなんて久しぶりだものっはるなもいつまでも怖がってないできなさいったら!」
「わ、まって……」

そんな はるなを無理に引き上げ、明るく並が浜辺へと誘う。ぱしゃぱしゃという音も無く、泡風呂のような波間を抜けて奇麗な砂浜をゆっくりと歩く、濡れてしまった靴にしみる水のような感触より、つい先程思いっきり水の中に入ってしまった所為でびしょびしょになった上のほうが今は遥かに心配だ。はるなは腕を前で組んで忙しなくナミの後ろをついて歩く。

「おいウソップ木の実やるよ」
「いてェなてめェよしそこで待ってろ!!」
「ねえチョッパー、はるな見てあれ何だろ」
「ん?」
そう言われて近づくと小さなテラスのような小さな場所には椅子がおいてあり、それもどうみても雲のような見た目をしていた。
ナミはチョッパーを抱えて思い切ってそこに腰掛ける、つづいてはるなもえいと体重をかけると、まるで柔らかいパンのような弾力が体を押し返す。
「わっ…このイス雲で出来てる!」
「ほんとだ!気持ちいい!すごい……!」
「ナミさんはるなちゃんお花〜〜〜」
「まふっとしてるぞ!」
サンジさんがこっちを見てるのを気づいてなのか、ナミは気にもしないままソファの上で腰をゆらしている。
「ナミさんはるなちゃんお花〜〜〜〜〜!!!! 」
「あ…ありがとうサンジさん!」
「いいのよ放っておいて」
「あ…あはは……」
その時、私たちの周りに優しいハープのような音色が響き渡った。全員が思わず顔を向ける。
すぐそばの雲…まるで丘のように盛り上がった雲の重なりの上に、1人音色を奏でる女性。
幻想的とも思える光景と、美しい音色から目が離せない。
「何の音だ?」
「おいあそこに誰かいるぞ!!」
「笛!!笛は!?」
ウソップが恐々と声を上げるが、すぐにサンジが目をこらし、声を上げた。
「待て違う!…………天使だ!!!!」
「…………へそ!!」

振り向いた女性は、本当に羽を生やした“天使”そのものだった。





彼女は驚く面々を見ながら笑顔で丘から降りてきた。
「青海からいらしたんですか?スーこっちへおいで」
そう呼ばれて、スーという狐のような小動物はぴょんと彼女の胸元に飛び込んでいく。
「………下から飛んできたんだ、お前ここに住んでんのか?」
「はい、住人です」
にこりと彼女は微笑みながら、丘を降りてルフィたちの前へと歩み寄る。
ルフィが持っていたココナッツのような木の実を見て、目を細めた。
「ここは“スカイピア”のエンジェルビーチふふっ…それコナッシュ飲みたいんですか?」
「ん?」
「上の皮は鉄のように硬いから噛んでもだめですよ、これは裏から……はいどうぞ、」

ココナッツだ、絶対。多分…
はるながそう思いながら見つめていると、カコっと簡単に繰り抜かれた実をコニスはルフィへと手渡す。
ウソップと並びしげしげと様子を見つめていると、ルフィは躊躇いもなくついてきたストローで啜り上げ、たまらなそうにのけぞって目を見開いた。わかりやすいくらい、目がキラキラしている。

「んんんんめへへへへへエ〜〜〜〜!!!!!ヤバうま!!!」
「何ィ!!?そんなにか!?おれもおれも」
「私はコニス、何かお困りでしたら力にならせてください」
「おいこれも開けてくれ!」
チョッパーがはしゃいで渡すコナッシュも笑顔で受け取る様子を見つめながら、はるなは少しだけいいな、なんて気持ちになっていた。

何回でもいうけども、やはりワンピースの料理は全て美味しそうだからずるい。
そんな事を考えていたなんてもちろん知るはずのないルフィが、嬉しそうに3口目を飲みこんですぐさまその丸い身をはるなにずい、と押し付ける。

「 はるなも飲んで見ろ!!!」
「ええっ!?」

かかかか、かっ間接…………!?

思わず真っ赤になっているというのに、ルフィは何?と目をくりくりさせている。無垢ってずるい。
一瞬たじろいだ胸元にん、と渡されつい両手で抱き締めてしまった。まだ中身のたっぷり入ったコナッシュは、ストローが挿しこんであり、はるなはもう一度だけためらって。観念したかのようにパクリと咥え込む。鳥が餌を啄むように唇で挟んで吸い上げると、甘い樹液のような、ソーダのような爽快感、柔らかくて滑らかな舌触りが口に広がって、
思わず飲み込むまで黙り込んでしまった。

「おいっ………しい!!!!」
「だろっ!!!!!」
「空島、すごい!!!」
「空島すげええ!」

思わず叫ぶ彼女に便乗して、ウソップ、チョッパー、ルフィが騒ぐすぐそばで、怪訝な表情だったナミがコニスへと歩み寄る。

「知りたいことがたくさんあるのよ、とにかく私達にとってここは不思議な事だらけで……」
「はい何でも聞いてください」
ナミと並んでまさに天使を絵に描いたような少女コニスと話をしていると、ウェーバーに乗ったコニスの父がテンポよく雲をかき分け乗り上げ、激突していった。
(うわあ!?大事故!!!!!!)
なかなかの音量だったのだが、起き上がる仕草がやけに軽快で、あれは自分だったら痛いのだろうか……とどうでもいい事を考えてみたりしてしまう。

「みなさんおケガはないですか」
「おめェがどうだよ!!!!」
むくりと起き上がりながらわりと、平気そうな顔でこちらにくる老人に全員が思わず声を荒げてしまった。

「お友達ですかコニスさん」
「ええ今知り合ったんです父上、青海からいらしたそうで」
「そうですか、それは色々戸惑うことばかりでしょう。ここは“白々海”ですいません」
「え!?いやそんな」
ウソップが思わず首を振る。
「申し遅れましたが私の名はパガヤですいません」
「いやいやこちらこそ」
口癖の謝罪のせいでウソップが慌てながら会話をつなぎつつ、コニスの父パガヤさんは漁に使ったであろう籠からとれたての伊勢海老のような真っ赤なエビを見せてにこりを笑う。
「そうだちょうどいい今漁に出ていたのですが“白々海”きっての美味中の美味!“スカイロブスター”など穫れましてね、家にいらっしゃいませんか“空の幸”をごちそうしましょう」
「いいのか!!!行く行く!!!」
「空島料理か!!おれも手伝わせてくれ!!」
「その前に聞いていい?これどんな仕組みなの?風を受ける帆もないし漕いでたわけでもない……何で海を走ってたの?」

「………まあ、“ダイヤル”をご存知ないのですか?」
「“ダイヤル”?」

コニスの驚いたような顔に、思わずルフィはこてんと首をかしげた。


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