ガタガタと揺れる船体にしがみつくことが精一杯で、辺りを見渡す余裕なんてない..

はるなはルフィに捕まる手をぎゅっと強め、流れて行く雲の景色と冷たい風に目をつぶる。

「どうなってんだこりゃ……!!!!」
「雲が帯状になってまるで川みてェだ……!!!」
段々と風を追い越して見えた先の文字を叫ぶウソップの声が、はるなの耳を通り抜けた。
「何か書いてあるぞ!!」

「出口だ!!!」

ついに……ついに入ってきてしまうのだ。



「神の国────スカイピア?!!」
「出口じゃねェよ!!入り口だ!!!」

言葉が言い終わるのと、その入り口から射し込む光を全員が浴びるのは同時だった。




────白々海───

神の国“スカイピア”





「“空島”だーーーー!!!!!」
たまらずに叫ぶルフィが先陣を切り、ウソップ達もわき上がる興奮を抑えられないといった、顔で船から飛び出す。

「うほー!!!この島地面がフカフカ雲だ!!」
「ギャーーー空島〜〜〜〜!!!」

はるなはただ目を凝らし、目の前でルフィ達が走りまわる様子を見つめていた。

本当に雲に立てるのだ。子供の小さな思いつきを画用紙に広げたような世界を、はるなはまた、思い知らされるように圧倒的な美しさで広がる世界に立ち尽くすしかできなかった。

「………本物……………」



ここは、神の国、あのエネルがいる………

……あんなに色んな事があったのに、どうして私、この人たちと一緒にいると……



「おい錨はどうすんだ!?海底がねェんだろここは!!?」
びくりと はるなが肩を震わせ、隣を見た。
ズルズルと巨大な錨を引っ張るゾロが甲板にいた はるなの横からルフィへと叫んでいた。
「んなモンいいだろどうでも!早く来てみろフカフカだぞこの浜辺は!!」

「どうでもってお前……」

つと、思わずそのゾロの横顔を見ていたら、すぐに後ろから大きな翼の叩くような音が響き、走るように逃げてきたナミが頭を押さえながら姿を表した。

「痛い痛いっごめんごめんっ!!ほらっ」

鎖を外され自由になったとたん、今までの鬱憤を晴らすように鳥は大きく翼を広げ、はるなのほうへと突然真っ直ぐ向かってきた。勿論、ものすごい剣幕で。

「ひっ、」

はるなが一瞬のことに目を開くしかできなかった数秒、体を強ばらせ、その形嘴が自分の顔に触れる刹那。ばさりと翼は何度も音を立てはるなの目の前ではためきを繰り返した。目の前に広がる大きな手のひらが、その嘴を鷲掴みにしていた。

「おら、さっさと飛んでけ……」

そう言ってゾロは手に掴んだ嘴をゆっくり空の方角へ離す、言われるまま体を投げ出された鳥は、少し不服そうに、でも一目散に快晴の青へと姿を消した。
たった一瞬の出来事に上手く理解が追いつかなかったはるなは、片手でズルズルとまた錨を引っ張っていくゾロの後ろ姿へ急いで声をかけた。

「あの、ありがとうございます!」
「……ああ」

ゾロはちらとこちらを見やったが、すぐにナミが階段を駆け上がりはるなの体へと抱きついてきたので、それ以上の会話にはならなかった。

「ごめんはるな!怒らせちゃった!逃がすの忘れてたから……怪我してないわよね?」
おろおろとはるなの体のあちこちを見るナミに、はるなはあわてて手を振った。

「全然!大丈夫です!ゾロさんに助けて貰ったから……でもこんな所で逃げて、どこにいっちゃうんだろう……」
「人も住んでるみてェだ、別に生きていけるだろ」

ゾロがそう言うと同時に、その言葉を聞いて近付いてきたロビンが、甲板の下からナミに向かい声をかけた。
「……ねえ、“スカイピア”って……」

「ええ、ルフィの見つけた地図にあった名前よ!空から降ってきたあのガレオン船は二百年も前に本当にここに来てたのね、あのときは正直こんな空の世界想像もつかなかったけど……」

ナミは言うや、何の躊躇いもなく船から下りる。

全く怖くもなくまるで海に飛び込む子供のような無邪気な顔で、大きく笑いこちらに振り向いた。

「ほら!ハハ……体感しちゃったもの!疑いようがないわ!おいではるな!!」
「へ?!」

飛び降りろと!?


「大丈夫大丈夫!怖くないわよ!」

そうは言われても、未だ目の前の光景に上手く馴染めないのだ。本当に雲に?自分が?
もし自分だけ立てないとかだったらこの上空何千という空から真っ逆さまなのだろうか?
「うう……」
よけいな妄想を膨らませてしまうはるなに、ゾロが不意に声をかける。
「手伝ってやろうか?」
「ひゃ、いっいいです!平気です!今下りますから!すぐ………って」
気づけば
「泣くんじゃねえぞ」
ゾロさん何で私を掴んだまま足をあげてるんですか!?!?
声になる前に、ゾロは勢いよく船から体を離す。
「ヷーーーーーー!???」
「うぉ゙ッ!?」

二人が雲の中に頭から突っ込み無様にひっくりかえるのは、そのすぐ後だった。

「ゎわつ!ゾロさん!!ゾロさん!?何やってるんですか!!」
「てめェが邪魔で……」
いや明らかに一人で頭から突っ込みましたよいま。
はるなが呆れ半分でそれを見ていると、ゾロはむくりと徐に立ち上がり、恥ずかしさを隠すようにはるなを鋭い瞳で睨みその体を確かめた。

「……怪我はねえみたいだな」
「むしろ殺されるのかと思いましたよ」
「…………」

ずるりと雲の中へ腰が浸かっていてたはるなを、首根っこを掴むようにして引き上げる。み゙、と地味な声を漏らすはるなを引きずるようにしてずかずかと浜辺へ歩き出すのだが、完全な八つ当たりだ。

「ゾロさんの意地悪」
「なんか言ったか?」
「いーえっ!!」


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