最強主人公ではありません!








Dramatic...42













「本部基地が崩壊するぞォ〜〜〜!!!!!」
「持ち場を離れろ!!ここはもう駄目だ!!!!」
音をたてて崩壊していく本部の城塞を、海兵たちはただ為す術もなく見過ごしそこから逃げ惑うばかりだった。何百年も海の中心で世界の平穏と仁義を守り、悪行から民間人を守り抜いてきた鉄壁の城。それを突然現れた懸賞金も知らない男により容易く手折る様に壊されていく。崩壊寸前となった瓦礫の上に立つティーチは、それが愉快でならなかった。
下らない時間を食いつぶして生きていく憐れな人間たち全てを見下ろすその巨体は、もう一度白ひげから奪い手に入れた右手を振り上げる。
「どれ手始めに、マリンフォードでも沈めていこうか……」
心酔したように過信しゆったりと下ろすその腕がもう一度地表を砕いて行く寸前、仏化し巨大化したセンゴクの衝撃破がティーチだけでなく一帯の海賊たち全てを巻き込むかの勢いで撃ち落とされた。
「―――要塞なら、また立て直せばいい。しかし、ここは世界のほぼ中心に位置する島マリンフォード、悪党どもの蛮行を恐れる世界中の人々にとってはここに我々がいる事に意味があるのだ……仁義という名の正義≠ヘ滅びぬ!!!軽々しくここを沈めるなどと口にするな青二才がァ!!!」
激高し叫ぶセンゴクには今仏の名を裏切らぬ誇りが頭上高く君臨しているかのようだった。
そしてその姿すらも窘めるように、ティーチは不敵な笑みを消さなかった。
「じゃあ……オイ……守ってみろよ……!!」



「イナズマさんっ!!」
「イワ様ァ〜〜っ!!」
「ジンベエ……渡さんかい、ドラゴンの息子を……」
先ほど猛攻をしかけたイワンコフとイナズマを一蹴し、赤犬はなお表情一つ変えずにジンベエへと近付いて行く。目の前に近付いた船へはあと少しとなり、海へ出ればマグマも届く事はない。ジンベエは倒れる同士を厭わず走りきり防御壁を飛び越えた。
「海へ出ればわしの土俵じゃ!!逃げ切れる!!」
そのジンベエの微かな望みは裏切られ、飛び出た先に広がるのは真白の氷結だった。凍りついた地面ではジンベエは逃げる事はおろか、空中で動けない状態にさせられた。
「すまんねジンベエ……」
遠くで青キジがひとつ呟くも、それはジンベエには届かない。すぐさま後を追う赤犬が勢いよく右手にマグマを溜め、近付く海賊たちも燃やしつくしジンベエへと近付いた。
「ダメじゃ……!」
ジンベエは己の拳が届かないのに気付き、ルフィを庇うように赤犬へ背を向ける。
マグマの塊がジンベエごと貫こうとしたその瞬間――
聞えたのは蒸発するマグマの烈しい音と、破裂する様な石の爆発音だった。
「なんじゃァ……!?」
マグマが勢いよく蒸発したのは、地表を割って噴き出た噴水の勢いによってだった。
「ルフィ君!!!」
周りにちらばるマグマの塊を不運にも腹に受けたルフィは、意識を失ったままその顔を青くさせる。けれどそれでも重傷にまではいかなかったのが幸いだろう、腹に直接受けていたら、即死は免れないはずだった。その肝心の赤犬の一撃は、能力者の天敵である水によって相殺されたのだから。
「……随分見せつけてくれるねェ」
青キジが目を据えて少し楽しそうに笑みをこぼしながら、自分と反対の方で赤犬の気付かない程静かに立っていたはるなへと目を向ける。誰も気づいていない筈だろうが、この能力は間違いなくはるなのものだった。自分が氷漬けにした海の遥か下から沸き上がらせる水圧の勢い、それを思いのままあんな手安く持ちあげた能力の真髄、海軍側としてあくまで手を出すつもりだった青キジも、睨むようにこちらを見ていたはるなの視線を受けて、気易く謝る様に両手をあげ抵抗をやめた。
彼女を逃がすことも――赤犬に彼女が目をつけられるよりはいいだろうと考えたのは、単に青キジの好奇心が突然現れた少女への独占欲に押され生まれた考えであって、それが自身の立場からは得策でない事も、青キジは自覚していた。
「誰の仕業じゃァ……!!」
赤犬が一瞬ジンベエから目を逸らしたとしても、凍りついていては海に逃げる事も出来ず船に乗っても戦いは続く、もはや打つ手なしの状況にジンベエは焦り、赤犬が謎の妨害の犯人を探そうと辺りを見回し、はるなのいた所へ目を向けそうになった瞬間、砂の刃が赤犬の体を二つに割り、クロコダイルははるなの前へと現れ赤犬の前へ立ちふさがった。
「クロコダイル!?」

「てめェみてえな小娘が赤犬にぶつかって無駄死にでもしてェのか?」
「……っ」
「――砂嵐!!!=v
クロコダイルが巻き起こした砂嵐に掴まり、ジンベエはルフィもろとも空高く飛ばされた。後ろにいる海賊たちに怒鳴るように、クコロダイルは罵声を飛ばす。
「守りてえもんはしっかり守りやがれ!!これ以上こいつらの思い通りにさせんじゃねえよ!!!」
巻き上げられた砂が目指した空中で、不本意にもその場にいたバギーがジンベエの体を受けとめる。
「キャプテン・バギーが!!」
「ジンベエと麦わらを助けた!!」
共に逃げ惑っていた囚人たちも、その男の行為は完全に二人を助けるためのものと見えたのだろう。信仰の様に崇めていた人間が起こす海賊らしく、そして誇り高い姿に魅せられ、その場の囚人たちは揃いに揃って息をのみ感激に身を震わせた。
「あんた逃げると見せかけて脱獄の同志麦わらを助けるなんて……眩しくて尊いよォ!!」
そして肝心の二人を掴んでいたバギーはその存在の意味に気付き、眼下で巻き起こっていた戦いに怯えを隠せなかった。
「ぎゃーマグマー!!!」
追い詰める様に飛ばした赤犬のマグマの拳を避けて、自覚もなしに二人を助け逃げるバギーは、瀕死のジンベエの頼りない声に荒い声で怒鳴りつける。
「すまん赤鼻≠フお……助かった……しかしルフィ君には早く手当てが……」
「助けてほしいのは俺だバカ野郎!!手当てなんてこんなところで―――って誰が赤っ鼻≠セクラァ!!!」


遠くへ行くジンベエ達を見送り、はるなはまたしても自分の前に現れたクロコダイルの姿を見上げ、荒い息を沈め出来るだけ冷静に話した。
「ありがとうございます……」
「……誰もてめェの事なんざ考えて行動してねェよ……見ろ、ジジイの残党がケジメをつけにいくぜ」
そう言われクロコダイルの背から一歩前へと踏み出ると、マルコやハルタ、他の隊長格が揃い、最終決戦を迎えるかのように船の前へ並び立った。対峙する互いの誇りは、たった一人の少年の命を巡るもので、その命が後の時代を変える光であると――白ひげたちは意思を託すかのように強く吠え、拳を握った。


「さっきの能力はてめェか?」
戦いがはじまっているというのにまったく興味のなさそうなクロコダイルは、近付く海兵を片手で薙ぎ払いながらも、隣で遠くジンベエ達を見ながら肩を抑えるはるなを見た。
「……水を操れるので、氷塊の下から引き摺りあげました……」
「成程、イヤな能力だ……」
自身が水を尤も嫌う能力だからだろう、クロコダイルは鼻で笑う様にはるなを見、天敵である能力者があまりにも小さく幼い顔で遠くを見ているのが少し滑稽にも思えたのか、そのまま言葉を吐く事もなく前へと向き直した。

「海は氷漬けだ!!!このままじゃ船じゃ逃げきれない!!」
「オイジンベエお前気ィ失ってねぇか?!お前コレどこ行きゃいいんだよォ!!」
青キジによってマリンフォード近くの海は全て氷の平地に変えられたのだ。このままでは船で出航する事は出来ず、海まで逃げたとしても、最早重傷を負ったジンベエでは能力者を抱えて別の島まで逃げきる猶予は残されていないだろう。
「……ッ……」
はるながふと、籠った様な幼い声を漏らしたのを聞いて、クロコダイルは隣を見降ろした、最早興味など失せた戦争で、少女が一度一度に場に姿を現わしているのは知っていたが、その力は同時に彼女の体についている傷にひとしく多大な影響を及ぼすものだった。――結果的に運命を何一つ変える事の出来なかった少女が、この場で空しく息絶えるのだろうかと黙って見ていれば、自分たちの立っていた場所から遥か遠くの氷塊が音を立てて割れ、突然、津波が高く舞い上がり氷が海の中へ沈んでいくのが見えた。
割れた氷地が海にのまれ沈み、氷の塊は次々に“意思のある波”によって崩されていく。
それにより海賊たちは次々に突然の幸運に驚く間もなく船に飛び乗り仲間を助けあげていった。氷塊は崩れ、逃げ道が出来たのだ。
始終を見つめていたクロコダイルは、呆れる様な意味を含めて、低い笑みを零した。
「―――乱暴な女だな」
「加減が……できないんです……」
片手を下ろしたはるなには、あの力を操る精神力も経験も馴染んでいるようには見えなかった。行き当たりばったりの力なのか、海賊たちに連れられるままに来た不可抗力なのか、力に不釣り合いの涙の後を残す表情が起こす、無茶に近い行動の数々にクロコダイルはかつて自分を打ち負かした、あの子供の無鉄砲でいて何もかも変えていく底のない力を思い出した。
ほんの数秒、クロコダイルがはるなを見下ろしていると、力を使った反動なのか、元々の負っていた傷がそれほど深くまで浸食していたのか、はるなは突然足をもたれさせ力なくクロコダイルの胸元へ倒れ込んだ。咄嗟の目眩だったのだろう。意識もなくぶつかるようにこちらへきたせいで、クロコダイルは無意識にその腕を掴み顔を上げるはるなと目があった。はるなはすぐに頬を触れさせていたそのクロコダイルの胸の下から顔を離し、勢いよく少し弱っていた瞳を開き顔を染めて目をそらした。
「ごっ、ごめんなさいっ……私っ……」
「死ぬなら目的くらい果たしてから死ぬんだな」
強く唇を噛んで、返答することも出来ずただ自分から離れる少女を見ながら、クロコダイルはもう言葉を出す事をやめ――赤犬たちの戦争を見届ける事もなくその場を去っていった。
黒ひげも、目の前の赤犬すら討ち取る事を望まないのは、敵討ちをする性分でもなく、白ひげを倒したいという願望が果たせない今となってはこれ以上留まる理由もなかったからだろう。それならばあの時ルフィを助けたのは、――単なる気まぐれではないのだろうと、はるなはその影に声をかける事もせず、静かに後ろ姿を見つめていた。


「うわあああっちじゃセンゴクと“黒ひげ”!!!」
「こっちじゃ赤犬と隊長たち!!戦いが終わらねェ!!」
逃げ惑う海賊の船が人を団も傷も関係なく乗せていく中、突如壊れた氷塊の上へ姿を現わした潜水艦に、船へと逃げ込んでいた海賊やバギーの後を追っていた囚人隊は眼を見張った。
「潜水艦!??!誰の船だ!?」
「麦わら屋をこっちに乗せろ!!!」
「てめえ誰だ小僧!!」
船の扉が開き出てきた男は刀を担いだまま大声で叫んだ。
「麦わら屋とはいずれは敵だが悪縁も縁!こんなところで死なれてもつまらねェ!!そいつをここから逃がす!!一旦おれに預けろ―――おれは医者だ!!!」








back



- ナノ -