Dramatic...40












「あれは間違いなくインペルダウン『LEVEL6』の死刑囚達!!」
「なぜあいつらがここにいるんだ!?」
錚々たる顔ぶれに海軍達が驚きを隠せなかったのは、現れた黒ひげ海賊団がただの珍客なのではなく、かつて海軍が死に物狂いで叩きのめし、なんとか海底に幽閉する事で抑えられていた悪夢を引き連れ、再び目の前で大きく笑い現れたからだった。
「どいつも過去の事件が残虐の度を超えていた為に世間からその存在をもみ消された程の……世界最悪の犯罪者達……!!」
「一人たりとも絶対に世に出してはいけないはずだ……!!」
動揺は声と共に広場中に広がり、戦っていた海賊たちですら一度は見た顔の並びに額に真新しい汗が流れた。そして中心に立つ全ての元凶であるティーチを、悪魔を見るかのように睨みつける。
「海賊『巨大戦艦サンファン・ウルフ』!!」
建物の横から顔を出す巨人ほどの大きな姿を、知らない海兵はいなかった。
「あ、見つかっつった上にバレっつった……!」
同じくティーチに並ぶ面々は、一人一人それぞれが恐ろしい過去と異名を持つ曲者たちで、海兵はまるで手配書を並べるかのようにその名を叫んだ。
「『悪政王アバロ・ピサロ、大酒のバスコ・ショット……若月狩りカタリーナ・デボン!!――そして、インペルダウンの『雨のシリュウ』看守長!!!」
「一体どうなってるんだ!!?」
彼らは全員、そこにいるインペルダウンの看守によって厳重に拘禁されているはずだ。センゴクは意気揚々と達葉巻を銜えるシリュウを見上げ、その冷めた表情に怒鳴りつけた。
「シリュウ貴様……!!!マゼランはどうした!?インペルダウンはどうなった!?貴様らどうやってここへ来た!!」
「後でてめぇらで確認しな……ともかくおれは……こいつらと組む。以後よろしく」
状況の把握できないまま、悪寒が胸を走るセンゴクの険しい表情の前に、海兵が血相変えて現れ荒い息のまま膝をつけた。
「センゴク元帥!!お伝えするチャンスがなかったのですが……先程再び”正義の門”が開き認証のない軍艦が一隻通ったと報告が」
「……それがこいつらか!!――どういう事だ、動力室には海兵しかおらず、異常もない筈」
厳重に守っていたはずの警備の秘密を、ラフィットは楽しそうに口を割った。
「ホホホ!!申し訳ない単純な話……!!私が出航前、動力室の海兵に”催眠”をかけておいたのです……『正義の門』に軍艦を確認したら全て”通せ”と。他の方々の役にも立ってしまった様ですが……」
「海賊団として政府に敵視されてちゃあ世界最凶の囚人たちの巣窟、インペルダウン潜入は不可能、”七武海”に名乗りを上げたのはただそれだけの為だ……!称号はもういらねぇ!」
「そいつらの解放が目的だったのか! 」
「ゼハハハハ、そうとも、初めからそれだけだ、そしてこれが全て!今にわかる」
完全に作り上げられたシナリオに、全く気付くこと無く乗せられた事を思い知らされ、センゴクはどうしようもない程の悔しさと怒りに苛まれた。黒ひげを引き入れる事を承諾した話に、センゴクはもちろん大部分で関わっていたのだ。未知数であるその存在を、エースの処刑に目がくらみ深入りせずに了承した。思惑も何も考えることをしなかったのは、目前にエース投獄と公開処刑が控え、それに関わる白ひげの危険度の方に目を奪われていたからだ。その隙こそ、その時誰もがエースに目を向けている時こそが一番危険だったと言うのに、考えればあまりに容易く紐溶けていくティーチの言葉に、最早今センゴクは放つ言葉もなかった。
「ティーチ!!!!」
そしてティーチが余裕綽々と笑みを見せていたその時、容赦なく放った白ひげの一撃が黒ひげ達の立っていた処刑場を足場もろとも破壊した。
「ッ!!……!容赦ねぇな……!あるわけねぇか! 」
「……てめぇだけは息子とは呼べねぇな!ティーチ!俺の船のたった一つの鉄のルールを破り……お前は仲間を殺した!手ぇ出すんじゃねぇぞマルコ!4番隊隊長サッチの無念!このバカの命を取って俺がケジメをつける! 」
白ひげと同じく地に降り立ったティーチは、白ひげの威勢をまるで待っていたかのように笑い受けとめた。
「ゼハハハハハ、望むところだ……!」
ついに見せる、サッチを殺し奪い取った力。ティーチは手を地につけ”闇穴道”を放った。白ひげや辺りの海賊も海兵も巻き込むように、地に影よりも深く蠢く闇が広がっていく。
「サッチも死んだが……エースも死んだなぁ!オヤジ!俺はあんたを心より尊敬し……憧れてたが……!アンタは老いた!処刑されゆく部下一人救えねぇ程にな!バナロ島じゃ俺は殺さずにおいてやったのによぉ!」
白ひげは左腕をあげ振動をティーチにぶつけようとするも、それはティーチの”闇水”によって無効化された。闇に引き摺りこまれた振動は消え、白ひげは笑うティーチにすぐに悪魔の身での攻撃では通らないと悟り、すぐさま片手に構えた薙刀を振り下ろす。

「アアアッ?!痛ェエ!!畜生ォ……!!」
「過信……軽率……お前の弱点だ……」
肩から思いきり切り裂かれ血を吐き喚くティーチへと、白ひげは手をのばし小言を吐くその顔へ容赦なく振動の塊をぶつけ破裂させる。歪みを生む振動がティーチの中で揺れ、爆発し、体中の骨が軋み吹き飛ぶような痛みにティーチは顔をゆがめ呻いた。
「!!!……ア……あ……!!この……”怪物”……がぁ!!死に損ないのクセに!!……黙って死にやがらねエ!やっちまえ!!! 」
黒ひげたちは容赦なく、手に持つ銃を白ひげへと放った。
最早それからは惨劇としかいいようがなかった。たった一人の大海賊に、笑いながら男たちが銃を向け放っていく。そこは血が雨の様に降り注ぎ、暴虐の笑いはまるで一瞬の様に白ひげ海賊団の前で打ち広がり、そして消えた。
割れ目の向こうで走るはるなにまで届くほどの発砲の音と低く鉄の軋み肉が壊れる音を――耳をふさぐ事すら出来ない程はるなは泣き震え、倒れそうな体を意地だけで動かした。
(こわい――)
はるなは、胸の中に押し込んだその感触が、今にも自分の体の自由を奪いそうな事に気付き、必死になって押し込めていた。いま思い出してはもう二度と立ち上がれなくなる。今倒れる事は、何もかも失う事を意味するのだ。
(まだだ、まだ倒れちゃだめだ――)
人がこんな風に容易く、子供の玩具によって壊されるように死ぬ事を経験するなど、はるなには思いつくことすら今までなかった。残虐な、胸を抉るその笑い声がどこまでもはるなの体を浸食していく、走れば走るほどに影は自分の足元を這っているかのようで、はるなはそれからも逃げる様な気持ちで息を切らした。

「……んあっ弾切れだ……」
ティーチの銃が最後の弾丸を白ひげへ打ちこんだ所で、海賊たちはぞろぞろと剣を下ろしその血まみれで立ち尽くす老体を眺めた。死んでいると思ったのだ、数えきれない程の穴をあけて、至る所に刺さった剣はそれほどの惨劇を現わしていた。
けれど白ひげは目を閉じることもせず、まっすぐにティーチを睨み、口を開いた。
「お前じゃねぇんだ……」
「……まだ生きてんのかよ!! 」
「ロジャーが待ってる男は……少なくともティーチ、お前じゃねぇ……ロジャーの意思を継ぐ者達がいるように、いずれエースの意思を継ぐ者も現れる……”血縁”を絶てど、あいつらの炎が消える事はねェ……そうやって遠い昔から脈々と受け継がれてきた……。そして未来……いつの日か、その数百年分の歴史を全て背負って、この世界に戦いを挑む者が現れる……!」
その声を、ルフィとはるなは聞く事がなかった。
全ての答えを――物語の結末を意味するその言葉の意味を理解できるのは、その場にいるセンゴクだけだったのかもしれない。世界政府の最高機関によって抑えられているその秘密を、Dの意味すらも白ひげは知っている。それが漏えいする事もセンゴクにとっては最悪だったが、最早微かな息だけで死線を彷徨うその声には今になって事を壊す気などないのはわかっていた。白ひげの声は次世代へ受け継がれる意思を紡ぐためにあるのだ。海賊の終わりを、その姿をセンゴクは目を凝らしてただ眺めている事しか許されなかった。
「センゴク……お前達 世界政府は……いつか来る……その世界中を巻き込む程の”巨大な戦い”を恐れている!!興味はねぇが……あの宝を誰かが見つけた時……世界はひっくり返るのさ……!誰かが見つけ出す、その日は必ず来る……」
世界中に、その声はこだまするようだった。


「”ワンピース”は実在する!!!

「!!!貴様っ!!! 」
あまりに雄々しく、世界をまた揺るがさん勢いで放たれた一言に、場は立ち尽くし、言葉の途切れ、静まり返った戦場に仁王立ちするその姿に息を呑んだ。


―――享年七十二歳、かつてこの海で”海賊王”と渡り合った男、白ひげ海賊団船長”大海賊”エドワード・ニューゲート 通称”白ひげ”
マリンフォード湾岸にて勃発した 白ひげ海賊艦隊VS海軍本部 王下七武海 連合軍による 頂上決戦にて 死亡。






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