Dramatic...35













「さァおめェら!!!待ちくたびれたぜやっと出番だ!!」



海軍の工作が幾重にも糸を張り巡らせ、海賊たちを全滅させんとその正体を現わしてゆく。
巨大な体は容赦なくエネルギーを放出させ、辺り一帯を平地に変える程の威力で人間めがけて攻撃をする。

「時々噂に聞くぞ!ドクター・ペガバンクが「人間兵器」を開発中で、色んな事件に度々実験体を送り込んでいると……!」

「左右は崩れても縦に挟み撃つ事はできる!予定通り傘下の海賊達から狙え!包囲枠から外れた者達から始末せよ! 」

機械の体では人間の砲弾や刀はまるで効かず、ただ逃げ惑うばかりだった。

「全隊直ちに氷上を離れろ!海賊達を決して広場に上げるなぁ!!全ての映像が切れた時点で包囲壁を作動!その後すぐにエースの処刑と共に敵を一網打尽にする!!」

「追いこめパシフィスタ!!」
「ああぁっ!!!駄目だ!!逃げきれない!!!」


海賊の一人が船から離れ転んだ所に、パシフィスタは容赦なく照準を定め大きく口を開いた。その場にいたそれぞれが、あまりに重たく、鋭く、討つ術のない相手に絶望し膝をついた。
そして、誰の目にもわかる確かな力は、唐突に彼らの前に現れた。



「………もっかいっ……!!」



地表を崩し現れた巨大な波は、氷河の奥からうねりをあげ沸き上がり、高い山の様にその丸い湾内から打ちあがった。突然の光景に海賊たちは見上げ、遠くのセンゴクも息を止めた。

「なんだあれは……!?」

はるなは、戦闘を避けるべくモビー・ディックの影に隠れながら、その波を思い切りパシフィスタの群れへとぶち込んだ。巨体はいくら重くとも水中では容易く持ちあげられ、まるで巨大なゼリーかのように形を留めている水の塊の中で、逃げる事も出来ずに硬直していた。

「オイオイ……なにが起きたってんだよ……!?」

戦桃丸は自分の目の前で高く沸きあげられたパシフィスタ達の無残な姿に眉をひそめ、戸惑いを隠せなかった。
命令をしようとも水中内にいるのではおそらく声も届かない、そしてその水は触れれば普通に通り抜けられる“物質”ではなかった為か、勢いよく振りかざした戦桃丸の斧を固まりはず
ぶりと呑みこみまた横へと促すだけだった。


「なんだこれは!?!?」


巨大な水に包まれたパシフィスタは、水中で静かに機能を停止さていた。





















モビー・ディックの甲板の上に立つ白ひげの後ろに、スクアードが慌てたように走り寄る。

「スクアード!無事だったか、さっきてめぇに連絡を」
「ああすいませんオヤッさん、後方傘下の海賊団はえらいやられ様だ……!」

慌てるよう大刀を振るスクアードに、白ひげは眉を寄せながら前へと向き直した。

「持てる戦力は全てぶつけて来る……!後ろから追われるんなら望む所だ、俺も出る!こっちも一気に攻め込むほかにねぇ! 」
「そうですね。俺達全員あんたにゃ大恩がある、白ひげ海賊団の為なら命もいらねぇ!」

そしてスクアードが一歩、白ひげへと振り返った瞬間、突如勢いよく二人の間に水飛沫が起きた。
雨の様に降り注いだ水に二人が目を凝らした時、その水の中に立っていたのは、たった一人の少女
――はるなだった。


「お前ッ……!?」


傷だらけで自分の前に再び立った女に、スクアードは驚き持っていた刀を強く握り返した。なぜ先ほど切り捨てた少女が再びこんな所まで来たのか、困惑と焦りでまるで理解できなかった。
焦燥感と同時にスクアードに襲うのは、咄嗟の勢いで討とうと思っていた右手の意志が、ふと思考を呼び戻して揺らぎはじめ、がむしゃらに体を動かせなくなってしまった事への混乱だ。

勢いで殺してしまおうとしていた思いを、一瞬の猶予で引き摺り戻される。

―――どうして、自分が殺さなければならないのか、どうしてそれは、自分は裏切られたのか。

淀みなく溢れる感情が言葉もなく瞳に映るのをはるなはじっと見つめ、ゆっくり彼に歩み寄る、囁く様に、静かに言った。

「スクアード、さん」

「お前、何で……ここまで……?!」
「大丈夫ですよ」

スクアードは、震えていた。
それはきっと白ひげもわかっていたのだ。
だからこそ、部外者である物を威圧するかのように、背中に感じる大きな覇気に必死に耐えながら、はるなは顔をあげた。

「もう、家族を恨まなくたって、いいんです」
「何を……!?」

にこりと笑ったその意味を、スクアードは知る事もなかった。静かに天上へとかざされた掌が、震えて空を掴むように揺れて動くのと同時に、パシフィスタ達を捕えていた水が歪んで形を変えていく……空中でひずみが生まれるかのように曲げられ、誰の想像もつかないかのように揺らめく姿に、目の前で見上げている者たちは恐怖すら感じていた。

何が起きているか、まったく理解が出来なかった。
ただ、海が全てを壊そうとしているのだと、能力者たちは体中の神経で感じていた。



はるなは空を仰いだ、目に見えなくとも、最早体中が感じとっている。
今自分は海だ――“水”と、同化しているのだ……空の様に青く澄んだ波の零れそうな音が、耳の中で静かにさざめいた。

高く伸ばした右手を、強く握りしめた。











―――捕えろ








(誰も、傷付けさせるものか)


















―――――壊れろ

―――――――全て壊れてしまえ



















「………沈めッ……!!!!」



はるなが片腕を振り下ろした瞬間、柱状に立っていた波柱はそのまま姿を津波に変えて、パシフィスタを捕まえたまま湾内の海へと向かい突き進んだ。








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