(ルフィ?)

























Dramatic...32


























「助けにきたぞォーー!!!」

水からあがったばかりのびしょ濡れの姿のまま、両足で構えルフィは遠くに待つエースへ向かって張り裂けんばかりに吠えた。そして彼と同じように上空から降り立ち並んだ屈強たる脱獄囚達、誰もがその名だたる海賊の登場に目を見張った。

「ガープまた貴様の家族だぞ!!」
「ルフィーー!!」
「ジンベエ!クロコダイル!革命軍のイワンコフまで!!」
「インペルダウンの脱獄囚達だ!!!」

予想を上回る強敵たちの参戦に、センゴクも最早強気に顔をあげているばかりではいられなくなる。それぞれが戦争のうねりを変えんとばかりの勢いに声をもらし、中には感嘆の表情すら浮かべる者もあらわれた。
休む暇もなく攻めかかる脱獄囚たちに場面はまた混沌へと引き摺りこまれ、席から降りた黄猿やくまの攻撃で地は脆く崩れ戦場は見る間に形を失っていった。





(ルフィの声がする)





「来るな!ルフィ!!わかってるハズだぞ!俺もお前も海賊なんだ!思うままの海へ進んだハズだ!俺には俺の冒険がある!俺には俺の仲間がいる!お前に立ち入られる筋合いはねぇ!お前みてぇな弱虫が俺を助けに来るなんて、それを俺が許すとでも思ってんのか!?こんな屈辱はねぇ!帰れよルフィ!何故来たんだ!! 」


ついにマリンフォードまで押し寄せたたった一人の弟に、エースは悲痛な声をあげる。どれだけの犠牲が自分の命ひとつに掛けられているのか、今まさに目の前で今まで守り抜いてきた絆が、自分の力も顧みず向かってくる。エースは悔しくてならなかった。どうやっても彼らを止められない自分に、歯がゆさで体の痛みなど感じないほどだった。

「俺は弟だ!!! 海賊のルールなんて俺は知らねェ!!」

そのルフィのまっすぐすぎる目を、誰よりもよく知っていた。

エースはかつて思い出の中で見せた何より大事な“絆”が、今彼を立たせていると言う事実を受け止めきれず、撥ね退ける事も出来ず、ただ唇を噛んで俯いた。

「わからず屋が……!!」

歯がゆさが体を蝕み、痛みは何度もエースを思い知らせた。ちっぽけな自分の体で、誰にも縛られる事もなく、そう帆を張った強い意思をもう二度と戻れなくなるほどに粉々に砕かれそうになり、エースは重たく息を吐く。
瞼の裏で飛ぶ血の音が、自分を見ているという恐怖が胸を裂く、自由であってほしい、そう願っていた心のどこかで、一人ではないと感じる事の喜びの全てが、今ここで清算されようとしているのだ。

自分が――自分ひとりが望んだ事は、それほどに愚かな事だったのだろうか?

目指したものは、それほどに大それたことだったのだろうか?

ただ、この広い海のどこかで……
  









「何をしてる!たかだかルーキー一人に戦況を左右されるな!その男もまた未来の有害因子!幼い頃エースと共に育った義兄弟であり、その血筋は”革命家ドラゴン”の実の息子だ!」


ルフィ達の参戦で熱をあげたモリアが死んだ人間たちを目につく限り配下にしてゆく、島中に轟くルフィの父親”ドラゴン”の存在。突然舞い降りた青年の正体に誰もが驚き――そしてその意味を理解する。

ルフィは大槌を振り上げた巨人を一発の拳で打倒し、ざわめく海兵たちを振りはらわんばかりの声を張る。

「 好きなだけ何とでも言えぇ!俺は死んでも助けるぞぉお!! 」











(ルフィ、?)









例え、自分がそれを望んだとしても、彼らは諦めやしないだろう。
そういう奴らだった。いつもそうだった。自分の仲間は――家族たちは、
それがどれほどの事だったのか、何でもない様に装って、当たり前の様に前に現れて、躊躇いも迷いもなく手を差し伸べようとする。
こんな時に限って、思い出は当たり前の日常と繰り返して瞼に映される。それが、それがいつか自分が求めていた姿の中に当たり前に存在してくれている、受け入れる事が出来なかった人生の全てが、今この目の中で開かれていく。

低い声が遠く響き、微かに自分を呼ぶ声が聞こえた。もう捨てる者など、これ以上ないと思っていた。

ゆっくりと、エースは顔をあげる。自分の目の前で倒れていく家族たちを、自分が家族でないと否定する事など、自分がしていいはずがない。

「……どうした」

「……もう、どんな未来も受け入れる。差し延べられた手は掴む……!俺を裁く白刃も受け入れる……。もうジタバタしねぇ、みんなに悪い。 」


逃げては駄目だ、家族が家族を救う事に、理由なんてあるものか。
覚悟を決めたエースの瞳は、死も生も拒まない全てを待つ一人の男だった。
両端に座る海兵センゴクもガープも、その姿を貶す事など出来なかった。

確実に迫りくる処刑を前に、畳みかける様に真実が暴かれ、電伝虫の向こうではその一時一時がこの後幾年も語り継がれるべき”運命の日”になるのだと息を呑み、見守る事しか許されていなかった。








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