Dramatic...30






「怯えは消えたな」
ミホークは刀を下ろしはるなを横目で見ると、小さく言った。

「……はい」


はるなが正面へと顔を向けたとき、真上から突然流れ星の如く落ちてきた光が、無数の流星となって氷山へ向けて飛び散った。その中に白いコートのシルエットを浮かび上がらせ、黄猿が両手を構え” 八尺瓊勾玉“を白髭へと放つ。

「おいおい……眩しいじゃねえか……」

二度目の攻撃はまた阻まれ、白ひげの前で光は焔と交わり消えていった。飲み込むように光線がゆらゆらど火の中でゆらめいて、中から強気な笑みを見せる。

「いきなりキングは取れねぇだろうがよい。」
「コワイね〜“白ひげ海賊団”」

光線を受けて穴だらけとなった火が一度、水の様に滑らかな青を立ち上げ燃え広がる。鳥の姿へと形を変えながら青白い尾を引いて黄猿へと向かい、鋭い蹴りで黄猿を吹き飛ばした。14人の隊長たちの進撃を防ぐため、後方を守る巨人部隊が斧を振り上げた。体格差で推し勝てない事をすぐに悟った2番隊隊長のダイヤモンド・ジョズは目の前の氷を鷲掴みすると、その自身の何十倍もある氷塊をいともたやすく持ちあげ巨人たちへと放り投げた。勢いを無くさずぶつかってくる氷を、唯一席を動かなかった赤犬が右手を振りかざし巨大なマグマで蒸発させる。跡形もなく消えていく水の音が真上で弾け、名の通り噴火の様にマグマのかけらが至る所へと容赦なしに落ちていく。
白ひげはその溶岩を薙刀で一つ突き刺し、嘲笑するようにゆっくり笑みを見せる。

「誕生ケーキにでも灯してやがれ、マグマ小僧。 」
「フフフ……派手な葬式は嫌いか”白ひげ”」


巨人たちの猛攻に押されていくのを見、後方からどの巨人すらも見上げる体を推し進めてきたオーズにより、場はさらに騒然と荒れ広がっていく。刀の混じる音も、砲弾の飛び交う音も、いつはるなは自身へと来るか目でどれを追えばいいのか目線を泳がせただ崩れていく城壁と確実に自分の方へと近付いて行く海賊たちを見た。


「オーズに気を取られてると攻め落としちまうぞ!!」

戦いに参加する気配を見せなかったハンコックを隙と見て、海賊の一人が砲弾を放った、それをハンコックは唇に触れた指から生まれた能力の一つ“虜の矢”によって全て石へと変えてゆく。幸いにもはるなにもぶつかった筈であろう鉛も石となり、高台に届く前に地へと落ちていった。

「はるな、すぐ戻る」
「えっ!?」

言うや壁から降りていったハンコックは、目の前の海賊たちを華麗になぎ倒していき、その姿を石へと変えさせていく。メロメロメロウでなくとも、纏っている覇気の力がどんな能力者だろうが容赦なく体は脆く砕けていく。
唖然とその様子を見ていたはるなは、自分の数メートル隣でくまが構えを取っていた事にまるで気付かず、その両腕から放たれる“熊の衝撃”の波動で崩れた足場から、一瞬の混乱の所為で逃げ切る事が出来なかった。

「えっ、え、ひえゃああああっ!?」

周りの石畳がまるで砂場のように脆く粉々に散っていき、はるなはその石と共に真下へと落ちていく。不意に捕まる所と周りを見渡した所で、はるなの周り全てが崩れてしまっているのだからどうしようもなかった。はるなは動かない体で石作りの地面を見やり、体を強張らせた。

(ぶつかっちゃう……!!)

はるながぎゅうと目を瞑り両腕を顔の前で覆ったと同時に、するりとはるなの腰に腕が回って、衝撃が来る筈の数秒間、何も体に痛みが起きない事にはるなは驚き、ゆっくりと目蓋を開けて顔を上げると、はるなの体を抱いて崩れた瓦礫の上に立つ、ミホークの横顔が見えた。
はるなは自分の体をまるで赤子の様に軽く身に触れて抱えているミホークの体に咄嗟に焦り、彼が自分の方へと目を向ける前に忙しなく離れ慌ただしい口を開いた。

「す、すすすっすみません……!!」
「戦う事もせずに、この戦場に立つことの意味をお前は分かっているのか」

ミホークは黒刀を静かに構え、はるなの目をまっすぐに見つめ言う。思わずその金色の目が自分すらも射殺すかのような錯覚に捕らわれ、はるなは震えそうな体をなんとか堪えた。

「……っ、戦争なんかに、私はもとから興味ありません」

はるなは自分がその言葉を吐きながらも、見つけられない自分の弱さを自覚し惑うように瞳が揺れたのをわかっていた。ミホークも恐らく全てを見透かしている事だろう。二人の会話など隙にしか見えない海賊たちが“七武海”ミホークを我が倒さんと息まいて襲ってくる。走り刀を抜く海賊達を見る事もせず、ミホークは一つ刀を撫で切り捨てると、まるでそこに一本の道のような筋が生まれそこに立っていた海賊たちがばたばたと倒れていった。

「……ならば走れ、お主のすべき事をなせ」
「――っはい……!」

答えを求めるべきじゃない、今するべきことは出来る事だけだ。
はるなはその道をまっすぐと駆けだした。

七武海側という嘘が成り立っているのなら、まだエースさんの元に届くかもしれない。戦えなくてもいい、上手くあの高台だけでも崩せたのなら、ハンコック様の錠で、彼を逃がして――!!

はるなは唇を噛み塔の裏側から侵入するべく走りだす。処刑台は幸いにも木製だ、あのローグタウンでルフィに起きた事のように破壊さえすれば逃げだす手段は見つかるはず。
それしかない、それしか――自分に出来る事は。

唯一の利だった足のお陰で海賊の隙を掻い潜り弾を避け走るはるなの前に、ふと眼鏡をかけた女性兵が見えた。彼女も普通の格好で武器も持っていない自分を見て目を見開き、刀を構えることなく不思議そうに叫ぶ。

「あなたも白ひげの仲間!?」

(やっぱりそっち側に見えるか!)

「違う!けどっ、ああもう教えません!!」
「なっ!待ちなさい」
「ごめんなさい!」

わかりにく説明をしている暇などない、少し遠くに見えるスモーカーさんまでもが自分のほうをちらりと見たのに気が付いて、はるなは止めていた足をまた強く踏み走りだす。姿を追う事も出来ないたしぎの横を通り抜け、人の少ない通路へと入り込んでいった。




「……シッ、動かないでください……!!」



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