戦争がはじまる











Dramatic...29










「オヤジィ!!」



エースの声が広場を切り裂いていく、処刑台に座ったたった一人の仲間を見据え、白ひげは大きく口角をあげる。周りの兵達全てに見せつけるかのように、そのまま両手を前に突きだし、強く握りしめたまま両拳を左右に振りかざした。姿のない”何か“が亀裂を生み崩れていく感覚に、広場が少しずつ揺らぎ始める。


「オヤジ……みんな………俺はみんなの忠告を無視して飛び出したのに、何で見捨ててくれなかったんだよぉ!俺の身勝手でこうなっちまったのに……! 」


勇ましく、畏れなどないかのような威厳を見せつけ現れた家族に、エースは喜びよりも恐怖が胸を引き裂きそうになった。これほどの相手を前に、家族が求めるのは自分たった一人なのだ。その為に何が起きるか、考えることは恐ろしくてならなかった。
しかし白ひげはその声を黙って聞くと、笑うこともなくまっすぐエースを見返した。

「いや……俺は行けと言ったはずだぜ息子よ。」
「!?……嘘つけ……!バカ言ってんじゃねぇよ!あんたがあの時止めたのに俺は……」
「俺は行けと言った……そうだろマルコ。 」

隣に立っていたマルコも、海軍たちに睨み付けるかの目で強く言い切った。

「ああ、俺も聞いてたよい!とんだ苦労かけちまったなぁエース。この海じゃ誰でもしってるはずだ。
「俺達の仲間に手を出せば、一体どうなるかって事くらいなぁ!!」


大声で雄叫びをあげる海賊たちの声が響き、やがて地面が強く唸る様に揺れた。地鳴りの様な音が響いてゆくと床が裂けんとばかりに動きだす。

「何だこの地鳴りは……!?」
「勢力で上回ろうが勝ちとタカをくくるなよ!最後を迎えるのは我々かも知れんのだ……あの男は、世界を滅ぼす力を持っているんだ!! 」

突然、広場に巨大な岩盤がぶつかるような地鳴りが起き、ふと視界をあげたときには、マリンフォードを覆う大津波が左右から沸き上がってきた。水がとてつもない力をぶつけ人を飲み込まんと落ちていくのを見、誰もが一瞬の困惑で体を硬直させた。

「なんて力だ!まさに伝説の怪物!!フッフッフッ!」

混沌が今目の前で血と塩水を混ぜ泥のように生まれていく中、一人高く子供のように顔をあげて笑うドフラミンゴの笑顔が、はるなには恐ろしくて目を向けることも出来なかった。
まるで血を浴びているかのように両手を広げ笑い出すあきれるほどの邪悪さが、声を聞くだけで心臓へ絡みついてくる。
両端から落ちてきた大きな波は、青キジの“氷河時代”によって巨大な氷壁へと姿を変えた。

「青キジィ……!若造が……!」

動きを止められた海賊船は、このままでは砲弾の格好の餌食となり蜂の巣にされることは明白だった。銃を構え走り寄る兵士に迎え撃つため、白ひげの配下、隊長格全員が白ひげの声を合図に総力をあげ船から飛び降り総攻撃を開始した。氷となった足場では能力者も海を恐れる心配はない、敵も味方も獲物を構え、獣のような唸りをあげて飛びついていく。

突然眼下が戦争と化した光景を唖然と見下ろして、はるなはぎゅっと両手を握った。震えるのを隠す余裕すら無く、左隣のハンコックに見えないように小さく俯く。

(……赤犬さんをかわさないと、エースさんには届かない。ルフィはくるのかな、こなかったらどうしよう、……私一人で、あの人を救い出すなんて、白ひげさんの役に、どうやったら立てる……?)

錯乱していく思考が足下の視界をぐにゃりと曲げそうになったとき、コツンと石を叩くような足音が目の前で落ち、はるなの前へ塞がるようにミホークが一歩前へと出ていた。

「ミホーク、さん……?」
「フフフッ、なんだ、やんのかお前……」

伺うドフラミンゴの興味深そうな黒いサングラスが妖しく光る、ミホークは視線を変えず、黒刀を静かに構えた。

「推し量るだけだ……近く見えるあの男と我々の本当の距離を……」

振り下ろされた斬撃は、岩も鉄も容赦なく切り裂きながらニューゲートに向かって真っ直ぐに下りてゆく、勢いすら落ちない世界一の一太刀が止まったのは、三番隊隊長ダイヤモンド・ジョズの体によってだった。半身をダイヤに変えた究極の硬度を見せ、ミホークは納得したように軽く頷いた。強者が現れなければ、弱兵達のぶつかり合いなど虫の喧嘩と変わらないのだろう。

そのたった一撃を試す瞬間を見、はるなは小さく息を飲み、前を見据えた。役に、など邪推にも程があると考えを打ち消した。自分の事だけを考えろ、自分に出来る事を、あの戦いに自分など不必要な事が、あまりに明白に自覚できたのだ。








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