大空が思ったよりも、遠ざかって行くようには見えなかった。そりゃあそうか、
元々空なんて飛んだ事もないのだから、距離感なんて感じることは出来ないのだ。
けれど、だんだんと下には近づいている、落下している。それだけを体中に触れる冷たい空気の壁を、いとも容易く破っていく感覚で確かに感じ取る。
そのときふと木の影が視界に入り込んだ、風が眼の隙間すらも潜り抜けるからうっすらとした目蓋の隙間にだったが、その姿に、地上が近いという事を、認識させられる。
そして、ぶつかる様に張り付いてきたのは、水気のある膜のような感触……。

「―――…しゃぼん玉!?」

けれど、滑り台よりも何倍も速く、そして鋭く体は空気を切っていく。
島の木々の間をすり抜けて、マングローブの枝に何度かぶつかりながら、ついに地面が見えた。

地面なら体のこの早さではどうやっても衝撃は抑えられない。無理だ、ぶつかる……!

……助からない!!


眼を固く閉じた、必死で頭はと、腕で抱え込むように縮みこむ。

その先が何も考えきれなくなり、そして――…








Dramatic...1

















「あぶない!!」


一瞬、耳に確かに届いたその声。

そして、何か大きなものに、力が分散されて、そして抱え込まれた。
驚く事に、衝撃ではなかった。とても柔らかな迎えが、自分を守っている。
頭の手を固めたまま、しばらく止まっていると、自分の背がしっかりと重心を持ちその場に留まっている事に気付く。
浮遊感は無い。ましてや今度こその死な訳でも。

そうだ、これは形がある。
地上の――まるで布のように、自分を支え返す力の証。
おそるおそる、はるなは瞳を開いてみる。
痛みがないその温かなぬくもりに目をやって、……思わず。口にした。

「……くまさん?」
「大丈夫?ずいぶんと上から落っこちてきたみたいだなお前」
「あ、しゃ、…しゃべって……!?」

―――ベポだ!!ベポが目の前にいる!

この、しゃべる動物(おまけに二次元)の姿を、形として受け止める日が来るなんて、想像すらしていなかったというのに。
はるなは目を見開いてまじまじとその容姿を確かめた。
ふさふさと、まるで絵本のようにおだやかで美しい毛皮と、丸く黒々強い瞳。
全てが想像通りなのに、それは紙面ごしに眺めていた形とはまた違う。感覚は確かに現実として目の前に再現された。知っているという領域を侵してしまっている、こうして触れてしまった!
何もかもが理解出来ないまま自分を支えている毛に触れる、鮮明に感じられる事が、最早自分の意識が確かな事を何より現わしていた。 はるなは確信せざるを得なかった。
ここがワンピースの世界であると。



「どこか打ったの?痛いのか?」
「……あ、ううん、平気だよ。ありがとう」
その言葉にベポは優しげに、よかったと返した。そして自分の体をゆっくり地に立て直してくれた。
少しだけ久しぶりである、その土はやはり想像通り湿っていて、土臭く、はなにつく水気のまとわり…。
本物だ。マンガで描かれ、自分の脳で想像していたあの通りの場所にいる。この、地球では存在してすらもいない摩訶不思議な泡を放つ地面、空高く生い茂る鋭い木々、私が普段友達や頭の中で描く世界が、妄想が、私の実感を持っていとも安く崩壊されてしまった。
(なにこれ………)

「それで…どうしたんだお前?いきなり上からおちてきて…」
「えっ、あ、う―――…」
しまった。そう、思う頃には少し遅かった。
ベポの純粋に心に問いかける言葉に、つい、本当の事を話すべきかと思ってしまった。

”実はここは漫画の世界で、私は現実世界からやってきました” とでも?

――――いえるか!!


「…わからないの?」

けれど、はるなにとってはとっさの判断で相手をうまく誤魔化す能力も、況してとっさに逃げる脚すら持っていない。
そして、間を置くこともまずいと考えなんとか選びに選び抜いて、結果的に一番楽な方法であろう、その策をとった。

「……なにも、思い出せない…」

(うわ…、こんなありがちネタでいいのかな…なんかすっごくだめな感じが…)

「そんなっ…!やっぱり落ちてくるときにどこか打っちゃったんだな!」

大変だ!どうしようどうしよう……!?
まるでベポが自分の事のように焦り出して、なんだがすごく罪悪感がわいてきた、そして同時に、このベポが、自分の為に今悩んでくれている事で、その先が段々と見えてきた。

優しいベポが、
恥ずかしがり屋のベポが、
そして海賊であるベポが。

一人のクルーであるベポが自分だけで何かの判断を下し、単独行動をとる事はない。

つまりベポは―――…


「よし、キャプテンに言おう!!」



やっぱり!!











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