Dramatic...26











はるなとハンコックを乗せた軍艦は、モモンガの指示によりマリンフォードへ到着した。
門付近の浅橋にはインペルダウンに停泊していた倍の数の軍艦が並び、その前に並んだ兵士達は屈強な顔を連ね、重たそうな銃を肩に掛けている。軍艦から下りモモンガは別の指示へと回るため二人から離れ、ハンコックははるなと共に大広間へと案内された。長い廊下のたびたびにすれ違う海兵の顔は緊張か、硬直かのどちらで、その瞳に写るのは戦場と化す眼下の広場なのだろう、燃え尽きる海原に死体の散る軍の施設。マリンフォードは焼け野原になるのではないだろうかと、冷たい視線はその覚悟をはるなにまで見せつけ、思わずはるなはふるえるように身が引き締まるようだった。

大広間へと案内されたはるなとハンコックは2人を案内した海兵と入れ違いに、扉の両端に立つ海兵の勢いのある礼をうけた。海兵はゆっくり礼を下ろすと、ハンコックの数歩後ろで立っていたはるなへと目をやり、中へと入ろうとしたハンコックの前へ歩み寄り困惑したように手を挙げた。

「こ、こまりますハンコック様!いくら側近といえど、政府関係者以外の人間をこれ以上立ち入らせるわけには……!」

「そうか?それは、わらわが頼んでも……許されぬのか?」
「どっっっっどうぞ何人でもお連れください!!!!!」

まるでエビのように飛び跳ね、ハンコックの後ろで立っていた海兵までもが勢いよく頭を下げ退いた。鼻血の垂れるまま上げない頭のせいで、床にぽたぽたとおちる赤い反転が少し子気味悪くも見えてくる。

「あ、ありがとうございます……」
(ギャグ漫画だ……)

ハンコックの代わりに海兵二人に礼をしたはるなは、一瞬そのハンコックの振る舞いに気が抜けて、緊張の糸が解けたように思えたが、開けられた扉の向こうにいた面々が、こちらへと一気に視線を向けたことにより、更に心臓が硬直するかのように強く脈打ったのがわかった。

(王下七武海に、センゴクさんまでいるー!?!?)

「キシェシェシェなんだ!!女帝は子供連れか??」
「この大事にも、相変わらず好き勝手でいいねぇ女帝様!フッフッフ……!!」

第一声をあげたモリアとドフラミンゴの揶揄るような高い笑い声の前を素通りし、ハンコックは空けられた席にむかいすたすたと人の目を見ることなく歩いていく。

「誰に何を言われようとも、わらわは自分の好きにさせてもらう。はるな、こっちへ座れ」
「は、はいっ」
「ハンコック貴様!この大事なときにそんな子供を連れて!これから何が起きるか自覚しとるのか!!」
「わらわは収集に応じると言ったが、一人でこいなど伝令にはなかったゆえこうしただけじゃ、約束を違うてはなかろう?わらわが来ただけ感謝することじゃセンゴク」
「っ、くそ……!!」

センゴクは諦めたように横を向き、一度はるなへと視線を向けたが、何も言わずにどすんと席へ座り直した。他人の言葉を全てはねのけるハンコックの圧は、後ろにいたはるなにまでぴりぴりと伝わってくるようだった。
(かっこいい……!!)

(…………って)
(座れってまさか!!!)


(ミホークさんの隣に!?!?!?)


ハンコックが部下に用意させた席は、ハンコック自身の椅子と沿うようにぴったり置かれたが、七武海の大柄ではすまないサイズの巨体が隣にいくつも並んだ為か、ハンコックの隣のはるなのすぐ近くには、退屈そうに両足を机に乗り上げハットを深くかぶる、世界一の剣豪、ジュラキュール・ミホークがいた。

その静かでいて、その場のどの空気も全く身に触れさせない孤高の存在感は、なるべく目を合わせないようにしたはるなの心ごと浚うかのように、まるで自然にちらりと傾き、端正な高い鼻筋へと向けられた。

(ミホークさんに、モリアさん、ドフラミンゴさん、ガープさん、それに……黒ひげまで、揃う名が大きすぎて、もう驚いてる暇すらないよ……)

「小娘」
「はっ、はいっ!」

突然ミホークが品位にかけた食事と罵声の飛び交うこの場で、はるなにどうにか聞こえているくらいの声を出した。突然の指名に肩を跳ねさせたはるなは、恐る恐る彼の黒いコートへと目をやる。

「戦士ではなさそうだ」
「ぁっ、まっ、そう……でふね……(噛んだよもう!)」

ぱくぱくと緊張の色を全てミホークに見せつけてしまっているからか、正味ミホークの視線ははるなへと向けるものを緩やかにしたようで、はるなはなんとか細い息を繋いで自分と目を合わせるミホークの顔から反らさないよう必死だった。

「……これ以上誰の思惑がどう入り交じろうと、最早この混沌の中では気付くまい」
「…………思惑?」
思わず続いて、ミホークが目をすっとはるなから外すのと同時に言葉を返すと、軍の人間から書類を渡されていたハンコックの体がぴたりとはるなにはりつき、細い腕がはるなの胸の前を塞いだ。

「鷹の目!わらわのはるなに余計なことを吹き込むでない!」
「な、何も聞かされてませんよ!」

もし例え今のが軍の重要機密の片鱗を匂わせていたとしても、今のはるなにそれをこれから先の何か突き止める洞察力などあるわけがない。ミホークもそれをわかってたからこそ、はるなを見てそう漏らしたのだ。ハンコックははるなの前に豪華な料理をどんどん取り分けていき、海兵の説明を片耳に心配そうにはるなの肩をとった。

「これからまた面倒な戦いに付き合わねばならぬのだ、はるな、食事はここでしっかりとっておけ……」
姉の性分なのか、しっかりとした優しい物言いに、はるなは小さく頷きながら緊迫が声にならぬように返した。
「ありがとうごさいます、でも食欲がないので、大丈夫です」
「なんと……!?もしや、そなたも……恋はいつでもハリケ」
「違います」

ああ、この人やっぱり恋する女の子だ、と、はるなは頬を染めるハンコックを見て笑ってしまわぬよう唇に指先を押し当てた。








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