(えーっと、今のところはうまくいってるのかなあ……?何もこっちに連絡がきてないから監視に見つかっていないんだとは思うけども……そのまま辿りつけるとはとても思えない……心配だ……)







Dramatic...23










はるながふとリフトのほうを振り返っても、中からは重苦しい男たちの叫びがこだましては落ちていくだけ、正直怖気がするってレベルではないのでそれも聞いてはいたくない。
はるなはたらたらと落ちる汗がこの階のどこかにある“焦熱地獄”の火の海のせいか、それとも冷や汗かもわからないまま、気を必死で監獄へと向けないように無心に微妙な表情をしたままハンコックの後ろへついて歩いた。

「本当にここは暑いな……」
「壁の向こうは火事の様なものですから」
なのに汗かいてるの私だけじゃない、
とはるなは言葉とは裏腹に顔色一つ変えず進んでいく前の人間を少し恨めしく思った。厚いコートを脱ごうともせずに、モモンガは辺りを見渡している。

「署長はまだか」
「署長マゼランは毎日その日の10時間程お腹をくだし……お手洗いに籠るのが日課です。睡眠は約8時間とられますので食事と休憩を差し引いて勤務時間は4時間ほどになります」
「――それで署長が務まるのか……?」
モモンガの軽いツッコミを流すかのように、ハンニャバルが誇らしげに声を張った。
「いざとなれば頼れるお方です……お待たせしました、出てこられます!」
「言い忘れましたが署長はドクドクの実の能力者「毒人間」です、充分にお気をつけくださ い……」


「あ〜〜、客人だな、署長のマゼランです!」


随分と大きな水の音と共に出てきたのは、ここにいた人間よりさらに倍に大きな男だった。
少し陽気な話し方をしているが、今度こそ本当の悪魔だ、はるなはついに首が疲れ過ぎて見上げるのもしんどくなり、あきらめてマゼランの顔を見るのをやめた。大人しく隣のハンコックの側近らしく目を閉じて黙っていようと口を噛む。

「ああ眩しい……!!なんて眩しい部屋だ、もっと暗く閉ざされた空間にいたい。できれば心も閉ざしていたい……」
「バカな事言ってないで署長……モモンガ中将と王下七武海ボア・ハンコック殿がお待ちですあっ、この子はハンコック殿のお付きのコ」

つついと指で刺されている視線を感じたが、面白そうな空気にはるなは頑なに見まいと目を閉じた。
「急いでいるんだマゼラン署長」
「ああ、申し訳ない、少々腹をくだしましてね。どうやら朝食の毒のスープがあたったらしく……」
「毒だからだと思いマッシュけど」
「毒人間のおれは毒が大好物だんだ……こんな事を言うじゃないか……毒をもって毒を制す」
「制してないからゲリになるんでしょ」
(何でそんな!漫才みたいなやりとりするの!ここ監獄でしょ!?)

笑いのツボが浅いせいか、はるなはそんな二人の間の抜けた会話に一人笑いを堪えんと最早寝入っているのかという程に視線を地に向け必死に唇を噛みしめた。
(ワンピースのギャグ好きだから笑いそう……笑っちゃだめだ……つらい………)

「お前は相変わらず毒舌だな、ハンニャバル」
「早く署長のイスから滑り落ちて下さ……あ、間違えました。早く火拳のエースに会いたいそうで」
「ひどいな、今の間違いひどいぞ!おれには何という心ない部下がついてしまったのだ、はぁ〜〜〜〜 〜〜……」

明らかにマゼランの溜息と共に靄らしきものがゆらゆらとゆらめいたのではるなは急いでガスマスクを口につけたが、鼻で軽く吸いそうになり、思わず咽喉が詰る様に声が漏れた。
「けほっ……」
「はるな!?大丈夫か?」
「だいじょうぶです……!」

少しでも吸ってたら私なんて即死だったとおもうけども……
「あーほらもう!!ちょっとため息気をつけてくださいよ!!あんたの息、本物の毒ガスなんだから」

まわりが焦る様にマスクをつけているのがよほど滑稽だったのか、マゼランは怒って詰め寄るハンニャバルの顔をみながら心底楽しそうに笑いだしている。こんな場所で陽気ってもんじゃないでしょ……とマスクの中息を整えながらはるなは思った。

「何ツボに入ってんですか!!!」
「ザマァみろ、バカな部下め」
「毒吐きやがった!!!」
「……!!そなたわらわのはるなまで危ない目にあわせ……一体何を吸わせておるのじゃ無礼な!!」

はるなから離れるとハンコックはあまりに茶番のような空気に嫌気がさしたのか、何のためらいもなしにマゼランを押すとその上に立ちあの見下しポーズをとりながら叱咤したが、この空気ではハンコックの振舞いは逆効果のようになってしまったのか、マゼランは反省の色ひとつみせずにハンコックの顔をまじまじと見つめ目を見張った。

「うお!!何という美女!!!好きになった」
「ハンコック様やめてください!時間がないのに……」
「おお!こっちも美少女!!好きになった!」
「わらわのはるなを汚れた目でみるな!!」

マゼランの“美少女”という一言に思わず「えっ」とはるなは顔を赤くしたが、すぐにハンコックの長い足がマゼランの顔へと飛んだ。粗相にもマゼランはまったく効いていないようで目を爛々と輝かせ目の前の女性二人を見ている。まるでそれから守る様にぎゅうと自分の胸元へよせるままはるなはハンコックに抱き寄せられていたが、先ほどから“わらわのはるな”となっているのはなぜなのか、はるなは少し不安そうに眉間に皺を寄せた。



「急いでいるんだ……!!」


ハンニャバルとドミノの雑談も一緒に見ていた所為か、モモンガは深刻そうに顔をしかめて、そこにいた全員にはっきりと言った。


(ごめんなさい……)



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