Dramatic...21











ここで、はるなの記憶は途切れていた。
単行本派というのがこんなところで響いてきたが、逆にこの先を知らないでいるからこそ、思いもよらない方向へ傾いた時の、運命を変えた歪みである自身への自責の念を重く感じる必要はなくなったのだろう。
けれど……その“想定外”が原作通りなのかどうかも、自分は知る事が出来ないのだから、ここからは完全にワンピースの“一般市民”という立ち位置にすぎなくなったのだ。何人かの能力を知っていても、最早それも先の展開には役に立つ事は無いだろう。
ルフィと共に港まで案内されると、目の前に佇む巨大な遊蛇2体が船体を支える様に出来ているその大きな船に、二人してぐっと小さな背を見上げて口を開けた。

「……サニーよりずっとでけェな」
「七武海だもんね……」

ぽかんと見つめているだけのはるなだったが、おもむろにルフィがその遊蛇の角へと手を伸ばしがしりと掴むと、はるな!!と声を上げてはるなへ向かってもう片方の手を差し伸べた。
「ちゃんと名前呼んでくれてありがとう……」
「ん?そんなやだったのか」
「怖いんだもの……」

手を掴んで案の定ぎゅんとゴムを縮めヘビの頭の上へと乗る。正直、蛇にすら触れた事も現実では一度もなかったのに、捕まるわ巻きつかれるわ頭に乗るわと、爬虫類のあまり好きではなかったはるなも、流石にいちいち怯える事もなくなってきてしまっていた。
蛇も大人しくハンコックがやってくるのを待ち、その間に降りてきた村の皆と談笑を交わしながら、出航を待った。



「――条件は電伝虫にて話した通りじゃ」

九蛇の船に乗って海へ出ると、九蛇よりも大きな軍艦が海に留まっており、そこにはその船ほどありそうな海王類がゆらゆらと顔を半分浮かべながら死んでいた。あれも美味しいのだろうかなんて事は、考えてませんよ!
ゆっくりと軍艦へ、一切の隙も見せずに降りてゆくハンコックの後ろにひょこひょことついていくはるなの姿を、中将モモンガがきっと見つめた。
「乗るのはお前とそこの小娘――それとヘビだけだな」
「ああ」
「“大監獄インペルダウン”に立ち寄りたいという話なら…上官の許可はなんとかおりた……!」

ぶちりと持っていた骨から肉を引きはがし噛み下しながら立ち上がり、言葉を続けた。

「本来七武海とて海賊は一切近づけてはならん場所だ今回は特例、時間もない、長居はできんぞ――さァ乗れ!」
モモンガの背中について船の中へと進むと、後ろから村のみんなから声が高く響いた。

「じゃあ姉様どうかご無事で!!」
「ご武運をおいのりしています蛇姫様!!!」
「はるなちゃん!!無茶しないでね!!」

思わずぱっと振り向いてぶんぶんと手を振ると、みんなの強い笑顔に心が励まされた。
ハンコックはそれを一通り聞き届け、凛とした声で島中の女性に言う。

「行って参る――しばし国を預けるぞ」
「はいっ!!」

(かっっこいい……)

となりで高い背をすらりと魅せて、まるで臆せず海軍の船の上で達振舞う彼女の姿は、凛々しくとても美しかった。モモンガの頼みで石化した海兵たちを元へ戻すと、ハンコックはすたすたと静かに用意された自室へと入っていく。

「はるなもわらわの部屋で休め……今くらいしか、休める時間もないだろう」
「わたし、少し風にあたってきますから、……ルフィと休んでいてください」

こそりと、ルフィにも聞こえない様にハンコックに耳打ちすると、あからさまにハンコックの顔が赤く染まり、目をぱちぱちと瞬かせながらぐう、と言葉を躊躇った。

(とっても可愛かった)

「……いや、その、はるな……わらわはそなたも疲れておると思うてな……」
「ありがとうございます、でも大丈夫ですよ、少ししたら戻りますから、ルフィもお腹が空いていると思うし、海兵さんにご飯の用意をお願いしてきます」
「……頼む……」

じぶんより頭ふたつ大きな体が柔らかく部屋の中へ入っていく。その様子をそっと見つめ、やがて食事を取りに足を進めながら、はるなは軍艦へと向かう前に、ルフィ達と話した会話を思い出した。




「……はるな、おれはすぐにあいつらと合流出来ねえ、エースを助け出すまでは、……インペルダウンはよくわかんねェけど、強ェやつらがいっぱいいるらしいんだ、だからおれはお前を無理に連れて行かねえ」
「うん……」
どうしたらいいか、はるなも迷って俯いた時、話を聞いていたハンコックが二人の乗る蛇の頭へ近付き、少し考えた様に顎に手を添えながら言った。
「では……はるな、そなたはわらわと中枢へ共に行くのはどうじゃ?」
「え?」
「わらわの側近として中枢まで赴き……白ひげと対峙する際にも海軍はわらわ一人にわざわざ厳重な警備を張る事もあるまい、場が戦場となれば、その時そなたが逃げだす隙も必ずある。エースを救うきっかけを作れるかもしれぬし、この先インペルダウンでエースを奪還する事ができたら、わらわ達は戦うこともなくまたこの女ヶ島へ戻るだけじゃ、その時あらためてまたシャボンディ諸島へ送ろう」
すらすらと言った一言一句を聞いて、はるなは思わず蛇から飛び降りてハンコックの前に立った。
「いっ良いんですか!?そんな……貴方の権限を利用する様な……」
「今更何を……はるな、そなた達の力になれるのなら、わらわは海賊として行うことすべてに躊躇いはない、」
ゆっくり微笑んで、ハンコックははるなを抱きとめた。思わずその甘い匂いにはるなはふらつきそうになり、慌ててルフィへと振り向いた。
「ルフィ、私……海軍本部へ行くね!」
「ああ!」
ルフィの顔がしっかりと頷いたのを見て、はるなはもう一度ハンコックへと顔を上げた。
「お願いします!私を……本部へ連れて言って下さい!」
「勿論じゃ」





これなら――インペルダウンで起きるであろう戦いにはるなはルフィの重荷にならずにすむ。
話で聞くだけではルフィ一人で向かわせるのは不安な気もしたが、戦いの場に自分がいるよりは遥かにいいだろう、はるなは広い船内の壁に背をついて、自分の真っ白の細い指先を見詰めた。
能力かどうかもあの時は判断しかねたが…恐らく何か悪魔の実の力を持っているのだろう。素早さに見た目の変化が同じ理由であるのならば、動物種の可能性が高いが、ゾオンは本来純粋な力が尤も発揮される能力であり、応用と変化のパラミシアや、自然や自己防御力が著しく高いロギアと比べて難点が多い様にも思える。戦い方を速く把握しなければ、まともに一般海兵と闘う事も一般市民のはるなには不可能なことだ。

「はぁ……」

目の前で、あんなに雄々しいまでもの強いハンコックの力をみたせいだろうか、はるなな少しうなだれる様に首をもたげ、重々しい溜息をだした。
「……力になりたいなんて、簡単に言えることじゃないのに……」

どうか、足を引っ張る様な事だけはならないでほしい。
彼の運命を傷付けるなんて、そんな事になってしまうのなら、一緒に航海だって……きっと――









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