Dramatic...19







「蛇姫がこの国の“皇帝”並びに九蛇海賊団の船長となったのは11年前…あのコはまだ若かったがたった一度の遠征でその首に“8千万”の懸賞金をかけられた元々轟いておった九蛇の悪名と相まって中枢の者たちは即座に蛇姫を警戒し“七武海”への加盟を勧めてきたニョじゃ…―――だが、今やその称号も剥奪の危機、」
ニョン婆の言葉をどこまでルフィの頭が整理出来ているかわからなかったが、その後に続く、蛇姫への召集の意味と、動きだす本部と白ひげ海賊団の状況を聞いて、ついにルフィは驚きの声を零した。
「ちょちょちょちょ、ちょっと待てよ色々一気に聞きすぎた!……七武海と海軍本部が…白ひげ海賊団と戦う!?!?何だそれどうなるんだよっ!!」
名前だけなら知っている兵の名前たちに、流石のルフィも困惑した顔を隠せないまま立ち上がった。そこへお茶をはるなたちみんなの分持ってきたマーガレットが現れたので、はるなはお盆を受け取るとルフィをニョン婆の前へ座らせ、お茶を渡し自分もその隣へと静かに座った。もう肉をゆっくり食べていられる余裕のないルフィの顔が、少しづつ曇り始めている。
「呆れた男じゃ……無知にも程がある!――ただその話はな、あくまで予測じゃ、しかし十中八九戦いは起こる!――世界政府は打って出たのじゃ…“白ひげ”は仲間の死を決して許さぬ男、それをしっていて尚――……“白ひげ”の優秀な部下ポートガス・D・エースの”公開処刑”を発表した……!!」
お茶を啜っていたルフィの指がピクリと動き、その手が止まった。
「……誰……?!」
「エース…“火拳のエース”じゃ……」
「どうしたの…?」
「エースが処刑…!?」
ルフィは震えそうな腕で湯呑を机に置くと、目をゆらつかせながら新聞の文字を追うニョン婆の元へとゆっくり近付いて行く。
「何でも“黒ひげ”という海賊団が“火拳のエース”を討ち取る事で新たに七武海に入ったとか……」
「黒ひげ……」
「中枢の者たちは突然手に入った大物エースのという海賊の身柄を大きく利用し今回の――」
「バーサン…バーサン!!」
立ち上がったルフィは勢いよくニョン婆の両肩を掴むと、焦った顔で訴える様に大声を出した。
「兄ちゃんなんだよ……!!エースはおれの兄ちゃんなんだ!!!!」
「!?」
突然の言葉に驚いたニョン婆は、新聞をグシャリと握りしめて切羽詰まった様に言葉を出すルフィを見た。
「まことか!?そなたの兄?!」
「捕まってたなんて知らなかった……処刑ってなんだよ!もう逃げられねェじゃねェか!」
「ウ〜ム…この戦いに“白ひげ”が勝てば、救われる道もあろうがニョう」
「どうしよう…公開処刑ってどこでやるんだ!?」
ルフィの言葉でバサリともう一度新聞を大きく広げると、並んでいる字面をニョン婆は強くはっきりと読んでいく。
「ああ……海軍本部を有する町”マリンフォード”の広場…一週間後とあるニョで今から実質“六日後”か」
「えー!?……すぐじゃんか!」
「ここからシャボンディ諸島まで何日かかるんだ!?」
「……まあ一週間以上はかかると思ったほうがよいな……」
ルフィの形相がますます険しくなり、出る声は震えていった。
「――そんなにかかったら仲間達に会う前に、エースの方が全部おわっちまうよ!!」
「……」
ニョン婆はどうする事もできないといった面持ちで、ルフィの声を黙って聞いていた。いてもたってもいられないルフィは解決策もわからないまま、必死になって言葉を続ける。
「…じゃここからエースのいるところまでは?」
「幽閉中のインペルダウンへじゃと…海賊船なら一週間、海軍線なら四日……!」
「何で?海軍の船はそんなに速ェのか?!」
「世界政府専用の海流があってニョう……」
ニョン婆が説明を続けるが、正直ルフィの頭には届かないという現実だけが、重く何度も響いているだけなのだ、「エニエス・ロビー」「海軍本部」「インペルダウン」その三つの海流は頭脳と知識、そしてずば抜けた航海技術がなければ逃げだす事すら出来なかったことも、W7のことをルフィはきっと把握していない。今ルフィ、となんの技術師でもないはるなが二人では、とても海賊船でぶつかっていくわけにはいかなかった。
「どうしたらいいんだ……!」
「どうしたいのじゃ」
ルフィは帽子の布に縫い付けてあったエースのビブルカードを徐に取る。焼けついて今にも形を無くしそうなそれに、ニョン婆が声を荒げた。別名命の紙といわれるそれは、持ち主の“方角”と“生命力”を示してくれる筈のもの。それが今もただ焼け続けている。
「――貰った時は十倍くらいあった」
紙の意味するエースの状況に、四人は声を詰まらせる。
「エースにはエースの冒険がある、強い兄ちゃんをおれが助けたいなんて…エースに怒られるだけだ――でも……」
誇りより大事な者の事を、ルフィは何よりも知っている。ルフィは胸の中にいるみんなに向かって言う様に、焦りを振りきり強く声を張った。
「悪いみんな……!!おれちょっと寄り道してくよ!!!!おれエースを助けにいきてェ!!」
「……!!」
ルフィの性格を大凡は把握していても、今回は飛びぬけて例外だ。向かうは本部、どれほどの戦力が揃っているかは、一般市民でも理解できる筈のものだった。おまけに移動の最中ではなく幽閉のその張本人の元へ向かおうと言うのなら、ただの海賊ではどうしようもないはずだった。ニョン婆は事の重大さを細かにルフィに説明しようとするも、ルフィはそんな言葉の注意などではまったく納得できないと言った顔で反駁する、夢の様な話でもとにかく力押しで行きたいと言うルフィを制して、呆れかえった様にニョン婆は座り直し、しっかりとルフィ、そしてはるなに向けて言った。
「――これもまた可能性がうすいが…今日まで頑なに断り続けておる“七武海”の強制召集、蛇姫がもしこれに応じてくれれば…それに乗じておぬしを軍艦に乗せる事が出来る」
「エースを助けに行けるのか?!」
「軍艦でインペルダウンにまで向かえば、時間はまだ間に合うってことだよ、」
はるなの付け足しに、ルフィは拳を強く握った。
「海軍の船があるんだな!じゃおれあの女に頼みに行く!!」
「時間は無駄にできんな…行くぞ!九蛇城におるはずじゃ!!」
「行くぞはるな!」
「はいっ」
立ち上がって二人の後に続こうとしたもの、勿論二人、高い屋根を飛び越え向こうの木々へと渡ろうとするものだから、はるなは柵の前で立ち止まり、これは付いていけないとルフィに待つよう言おうとしたが、二度目の腕がはるなの体に巻き付いて。ああまたかと思う間もなく、ルフィの肩まで一気に引き摺りこまれていった。
「あぁあああぁっ!?こわいっ!!!」
「急げ!!!」
そうなんだけど!!ジェットコースターの数倍は恐ろしいこの気持ちをどうかわかってほしい!とはるなは目をぎゅっと閉じて細いルフィの首に腕を回した。ビュンビュンと風を切る音が耳に響いて、はるなはすぐに終わる終わると何度も唱え、泣きそうになるのをなんとか堪え続けつた。






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