グルメレポートばっかりとか突っ込みはナシですよ
























Dramatic...18















(ルフィ、はるなといったな……出航は明朝、九蛇の海賊団にシャボンディ諸島まで送らせる、今夜は航海に向けて骨を休めておけ)
そのハンコックの言葉を聞いて、本来は食事を頂いたら綺麗な寝室でゆっくり休めるはずだったの……ですが!!
「ばかかはるなおめェ!来た事ねえ国の料理だぞ!ぜんぶ食わねェと勿体ねェだろうが!!」
やっっっっっぱりね!!!

先に休もうと席を立ちかけたはるなのうでを掴み、ルフィは食事をどんどん口へと運びながらどんどん気品あった広間を椅子も机も関係ない宴の席へと変えていく。面白かったのは、はじめそのルフィの食いっぷりと食べながらべらべら喋る男らしさのかたまりみたいな野生さに呆気に取られぽかんと口をあけていた周りの面々も、その楽しそうな声に惹かれ次々に後を追い立ち上がり歌い出し踊りをはじめる。
「だからよおめーらくーだよっ!!くーーっ!!」
「くーー!?」
「くーだ!!」
「くーね!!」
「何て品の無い踊りなの……」
「“男”はおハシを鼻から口へつっこみ……ザルを持って……」
皿を鳴らすなんて品の無いことも宴の前では関係ない、皆が皆心の底から楽しそうに声をあげて笑っている。ハンコックが心を許し生かした二人の存在は、気付けば国への不思議な珍客なのだ。訳を聞かずとも、屈託ないルフィのご飯を頬張る笑顔を見れば、怪しむ気などおきやしない。
「ん?こりゃうめえ!!はるなも食えよ!」
「ま……まだ食べるの…!?あ、おいしい……こりゃ食べれる……」
ルフィの前に出されたパスタのようなものをフォークで摘まみながらくちへ少しずつ色々なものを食べる。魚介類が豊富にとれる事が島の様子からわかっていたが。初めて食べる“海王類”の美味しさにはるなは思わず頬を抑えた。
(あーもうっ!なんでこんなおいしいの!!海王類って哺乳類的なアレかと思ってたのに……!)
もちもちの肉は鳥ともマグロとも言い難い新しい触感で、平凡な日本食三昧だったはるなには、高級食材を食べているかのような錯覚が起きるほど、並べられる料理に口を蕩かした。
「ん?ゴルゴンなに?!」
「“海王類入りペンネゴルゴンゾーラ”女ヶ島の名物よ!」
「へぇ〜サンジに作ってもらえるかなァ?」
「レシピ聞いておいてあげるね」
「おう頼むっ!!」
大皿のゴルゴンゾーラを丸ごと咽喉に押し込むと、ニカッと笑いすぐに次の料理へと手を伸ばした。本当に伸びて行く手を見て周りがきゃあと声をあげ楽しそうにその腕をつまみ、驚きながら周りで騒ぎ笑っている。
「わーっホントに伸びた!」
「はいもう終わりよ」
「え〜〜もう一回」
「……いやあこの海王類うめ……」
口の端を引っ張られてたべかけの肉のかけらがぽろりと口から落ちたのを境に、ルフィが勢いよく皿から口を離した。
「食いづれェな!何だ人の体つついたり伸ばしたり」
「仕方ないじゃないあなたたち明日出航でしょ!?記念に一度“男”に触りたいってコ達に…ホラ大人気」
「お前何勝手に商売してんだよ?!??!」
おお、クルーがいなくてもルフィがツッコミを。
目の前で繰り広げる騒ぎに笑いながら、はるなも周りの女の子達に話をふられる。
「ねえ、そとの海には男たちがいっぱいいるんでしょう?」
「うん、海賊は殆ど男の人だから」
「やだ……海ってこわそうね……私は海辺で魚をとるだけだから……外海には行った事もないの……」
その言葉が、少しだけこの世界に踏み入れたばかりのはるなの心に似ている様にも思われて、はるなは膝をかかえて小さく言った。
「冒険したいって、……女の子も思うよね、どこか遠くに見た事もない素敵な世界が広がっているのなら、自由にそこへ目指したいって……」
「うん……」
女の子は大きく目を輝かせて、頷いた。
「私も、実はルフィとはまだ会ってそんなに日は経ってないの、…でも、これから先どんな冒険が待っているかわからないけど…ワクワクしてとまらない!きっと信じられない事がまってるはずだもの!」
「冒険…」
「あなたもいつかきっと外へ出れる。その時は自由に行けばきっと新しいなにかに出会えるよ!それがつらい事でも…困難でも……海が続くかぎり……終わりじゃない」
「……あなた、とても楽しそうに話すのね、」
女の子が静かに微笑んでそう言うのを聞いて、はるなは思わずあはは、と軽く笑った。
ワクワクしているなんて、これから先の事を考えれば言えるはずもないのに。現実から飛び去った自分が自由で、今このワンピースの世界の中思いのまま生きているというこの実感のすべてが、はるなには愛しくて堪らなかった。憧れただけの漫画の世界は、目の前にすればまるで広い冒険の始まりだ、ルフィのではない、踏み入れた時点で、私だけの旅が始まっていたのだ。それに胸が騒いで鳴りやまない。色んな思いが溢れてワクワクしてしまう、出会いも、別れも、――何もかも楽しみで、はるなは目を閉じて泣きそうになる瞳を隠した。
「私も……冒険がしたいな、知らない土地を歩いて……世界を見て…」
「出来るよ!きっと出来る――」
はるながぱあっと笑って女の子の肩に手を乗せようとした時、ふいに自分のこしに長いゴムみたいなものが絡みつくのがわかった。腕だ、ルフィ、と思う頃には、ものすごい素早さで自分の体が引っ張られた。目の前の女の子の驚いた顔と、同じ顔を私はきっとしていた。
「うえぇぇえぇぇぇえぇ!??!?!?!」
まわりから高い声が響いて建物が音を立てて崩れる音、砂埃、やっと目を擦って前を見れば、自分を片手に抱え大きな肉の塊を高く持ったまま走っているルフィが映った、少し必死そうな顔にはるなは驚いた。
「なに?!どうしたのそんな慌てて」
「落ちついて飯が食えねェんだよ!」
「はじめから落ちついてなんてなかったでしょ!」
ていうか!私を連れなくても?!
「くっそ〜」
目の前にいたマーガレットがひそひそと体を隠しながら先導してくれたおかげで、二人はなんとか追手から逃げきることが出来た。
「……よかったね、仲間の所へ帰れる事になって」
「ん?ああ……なんかお前いろいろ迷惑かけて、悪かったなァ石になったときはびびったよ」
「――でも庇ってくれたんでしょ?私たちの事色々聞いたわありがとう!ルフィ」
マーガレットが優しく笑うのを聞いて、ルフィは気にすんなよと両手を塞いだままあっけらかに笑う。……まだ私を下ろしてくれる気は無いようなので、はるなは大人しくぶらんとルフィに掴まっていた。
二人は村の奥の見張り台の様な所へ何とか逃げ切った。外を見ながら新聞を呼んでいたニョ婆が、少し驚いた様子で三人を見る。
「どうしたニョじゃマーガレット!」
「ルフィが村の女のコ達に大人気になっちゃって…」
「おー”豆バーさん”!」
「まー男ニャど珍しいからニョー…ここは村の片隅ゆっくりしてゆけ……おぬし”豆”て!!!」
私を自分の隣に置くと、目の前にどすんと肉の塊を置いて、躊躇なしに食事を続行したルフィを見て、ニョン婆はさして咎める事もせずまた新聞へと視線を戻した。
「食糧持参か…茶でも淹れてやりニャさい…」
「はい」
マーガレットが奥へといくと同時に、ルフィは肉を噛み切りながらやっと落ち着いた様に喋り出した。口の周りには相変わらず…いろんな食べカスがついたままだけれど。
「ルフィ、鼻にもついてるよ」
鼻の先にちょんとついた先ほどのペンネのクリームを指で拭きとると、ルフィはもぐもぐと口を忙しなく動かしながら笑った。
「おお、よしはるなにも少しだけだけど分けてやるぞ!うめェんだ!」
指で千切った肉のかけらを前に、一瞬はるなはえ、と声を出したが。その指が止まらず自分の口元へ向かってきたので、咄嗟に唇にぶつかる前にはるなは口を開いて肉を噛んだ。
「どうだ?!うめえだろォ〜!?これもサンジに作ってもらえっかなァ〜」
「……こ、これはこの海王類が捕れないと、難しいかもね……」
「おーしっ、俺が仕留めてやるぞ!」
ルフィは意気込んでまた新しい肉塊を口に詰めたが正直はるなの頭には、はっきりと“あーんされた”の言葉がふよふよ浮いて。恥ずかしい気持ちに顔が赤くなるのを押さえるので必死だった。
(ルフィだし、ルフィだし、ぜったい何も考えてないのはわかってるし……けど、あぁ〜〜!やっちゃった!!!)
両手を顔で覆ってぶんぶんと振っていると、隣のルフィが真剣そうな顔で新聞を睨むニョン婆を見て、歯先で肉を噛みながら言った。
「バーサン新聞好きなんだなー」
「“凪の帯”のはニュース・クーが来んニョでな…なかなか手に入らニュが……我が国の皇帝が“七武海”である以上この世の情勢くらいは知っておかねばまずかろう」
聞き覚えのある七武海の単語に、会話半分だったルフィの顔が新聞へと向けられた。
「“七武海”??誰が?」
「ん?蛇姫じゃ……」
「ええ〜〜?!?!」
ルフィはなんとか食べていた口の中を拭き出す事はしなかったが、勢いよく後ろに跳びはね目玉を飛び出しそうなほど広げている。はるなはその一部始終をわかっていたので、念の為少し離れた所で様子を見守っていた。
「……あいつ“七武海”!?じゃあ戦ったらスゲー強ェのか!?」
「…そなた海賊ニャのにわからんかったニョか」
「わ…わからんかった……」
「新聞ニャど読んどらんニョか」
「おォ読んどらん」
思わず似た様な言葉を反復するルフィの慌てぶりが可笑しくて、はるなは木の柱に背をかけたまま体育座りで静かに話の続きを聞いた。







back



- ナノ -