Dramatic...16





















































蛇の紐というのも漫画的で面白いと思っていた。現実自分にふりかかるまではね!!!
はるなは真っ青な顔で素肌にからみつく蛇のビー玉のような目を視界に入れないように、必死に顔を逸らしたまま隣でさっきからずっと不思議そうにあたりを見回すルフィを見た。
「何だこの国……本当に男が一人もいねぇんだな」
「どうして誘拐なんてしたの?!普通にしていればこんなことにならなかったかもしれないのに!」
「はるながいるっていうから会わせろって言ったのに!あいつら檻のおれに向かって攻撃してきたんだ!」
「うぅ、もう……」
「ていうかおめェなんでそんなカッコしてんだ?」
「あーやめて!!!しょうがないの!為り行きなんだよう……」
ルフィは不思議そうに首をかしげたが、結構コスプレの経験を持っていた所為か(映画版とか、映画版とか、映画版とか……)そこまで気に留める事もなく前へと向き直した。
ルフィの事情はよくわからなかったが、このアマゾンリリーでは男性が異を唱えることすら反逆に見えたのかも知れない。
(見たことない男、それも初めてがルフィじゃあ、しょうがないのかな……)
はるなはうなだれるように息を吐くと、自分の隣をかつかつと高い音を響かせながら、目の前へ現れた二人の能力者へと目を向けた。
遠い玉座に座るハンコックが、滑稽そうに鼻を鳴らしてはるなとルフィを見下ろす。
「―――では聞くが男、それに小娘、そなたら何の目的でどうやってこの島へ入った……?」
(ひえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜美人さん……)
はるなは思わず遠くにいるハンコックの長い足から漆のように艶やかな髪、そして端正な人形作りかと思われる顔を見渡した。
(ミスユニバースってレベルじゃないなあ……芸能人に生で会ったらこんな感じなのかな?いやいやそうじゃなくて……)
「だからおれもよくわかんねぇんだよ!あっと言う間に空飛んで……気が付いたらここにいたんだからよ!」
「ウソをつけ!そのような滑稽話で誤魔化されはせぬ…狙いがあるハズじゃ……」
「狙いっつーなら船をくれ!送って貰うのが一番うれしいんだけど……とにかく俺はここを出ていきてェ場所があるんだよ!お前一番偉いんなら頼むよ!海へ出たい!」
ルフィが必死で頼み込むものの、国の長に対しての口のきき方としては最低だった、(いやまあアラバスタでもそうだけど権威に振りまわされる子ではないからなあ……)周りの民衆からは慌ただしく”男”に対する罵詈雑言がひしめいていく。ハンコックの鋭い視線も変わらないまま、その声は闘技場の二人に届いた。
「……生きてここを出られると思うな、“死”は免れられぬ……!」
「は、はなしを聞いてください……」
はるなが恐る恐る重たい口を開けて遠くのハンコックへと叫んでみると、ハンコックはその覇気もない声量に軽く咽喉を鳴らす様に「聞かぬ」と笑って返した。
「外界から猿がきたと言われ見れば、随分と幼稚そうな生き物ではないか、せめてわらわを楽しませてもらうぞ」
ふんぞり返った姿勢でもまあ驚くべき美女なのだが、ルフィにはそんな考え微塵も沸いていない。今にも噛みつかんとばかりに暴れている。
「うるせぇ!」
「ルフィ!……あの、私たち間違えてここに来てしまったんです!本当にこの国に危害を加えるつもりはまったくありません!」
「黙れ小娘、貴様の意見など聞いておらぬ」
(怖すぎ!?!?嘘でしょ……!これがハンコックの普段の姿なの……)
余りに圧倒する様に他人をねじ伏せるハンコックの圧に押されて、はるなはたじろいで言葉を返す事が出来なかった。同じようにルフィもそのまったく折れる気の無いハンコックの瞳を睨みながら、どうしたらいいか唇を噛んでいる。
「お待ちください蛇姫様!」
「マーガレット!?」
突然ざわりと声が一際立ち上がったと思えば、席から飛び立ってきたのはマーガレットだった。この冷たい雰囲気の中入り込むなんてきっと並大抵の勇気では出来なかった筈だ。マーガレットは意を決したように震えた拳を強く握り、声を高くあげた。
「……こ、この者はおそらく、ウソを言える様な人物ではありません!言っている事は全て本心……!この国に害を為す様な者とはとても思えません!!」
ルフィはぱあっと顔を輝かせて蛇の紐など気にも留めず跳ね上がった。
「おー!お前!そうだ言ってやってくれよ!」
「護国の戦士か、」
「マーガレットといいます」
ハンコックは至って冷静に首を傾け、強いまなざしを向けるマーガレットを見下ろした。
「男子禁制のこの国に侵入した時点でそこの男の”死罪”は確定、なぜかばう?」
「…負い目を感じています…!この男と、彼女の入国を認めたのは私です」
「マーガレット!!なぜ……」
かばうどころか罪を全て請け負う様なもの言いに、周りの仲間達が声を荒げた。スイトピーとアフェランドラも、マーガレットに続いて前へと出る。
「入国させた罪ならば私たちにも責任があります!!」
「やめて二人とも!村へ連れてくと言ったのは私なんだから!」
「私なんて”お風呂に服まで貸してしまったの巻”!!」
「みんな……」
「何だおめェらおれを殺そうとしたくせに、実は優しいんだなーししし!」
そんな場合じゃない!って突っ込む言葉も出なかった。三人の必死な形相とは裏腹に、冷たい顔をしたハンコックが、ゆっくりと階段を下りてくる。その表情にどうしようもない絶望を感じたマーガレットは、両手を下げて頭を下げた。
「二人を入国させた罪は私一人で!!!」
「もうよい……!」
鋭く言い放った一言には、その場にいた全員を沈黙させる鋭さがあった、目の前に立つハンコックの姿を座ったまま見上げていたはるなは、近くでみるその風格に生唾を飲んで息を止めた。
(……背たかすぎ……!???!190超えてるでしょ…………)
「面をあげよ……正直なマーガレット、」
ハンコックの声にゆっくりとあげられるマーガレットの前には、ハートの形を模したハンコックの両手が掲げられていた。その意味を勿論知っていたはずだろうマーガレットの見開かれた目が、はるなの視界に映る。
「メロメロ甘風」
……まるでメデューサと喩えても可笑しくない、その圧倒的な素早さと相手をねじ伏せる力に、ルフィも一瞬目を疑った。あまりに刹那の出来事だった、三人は石へと姿を変え、その見開いた目を写真に残しているかのようにそのまま時を止められている。
(……すごい、心を奪われるとかじゃなくて、もう石化する能力事態が凄まじいんだ、……畏れや平静なんて関係なしに…)
「え、なんだ!?お前らどうした!?返事をしろよ!どうしたんだよっっ!!」
「ハンコックの能力だよ……」
はるなが震える唇をゆっくり開いて、目の前に聳える三体の“石造”を見上げながら言う。
「能力…?これが……石にされたのか……?」
ハンコックが言葉もなく背を向けると、ルフィがそれを追う様にきっと目をあげた。
「おいお前っ!おれの命の恩人だぞ!!」
「そう―――そなたらを助けたが為に、罰を受けたのじゃ」
「待て!!!」
ルフィが鋭い声を向けると、カツカツと高く響いていた靴の音がぴたりと止んだ。窺うように視線をはるなとルフィへ向け、徐にこちらへ再び歩み寄る。

「小娘、」
低い声が耳に落ち、はるなは固まった体をゆっくり動かして、目の前に立つ女帝を見た。
「は、はい……」
「お前の命運はここの男にかけてみよう」
「え?」
「余興じゃ、 」
ハンコックはそう言うと、ゆっくりとはるなの前に両手を向けた、その意味がわからないほど、私はバカじゃない。ハンコックの鋭い視線は海賊のように冷たく、そしてまるで鎧のような堅さで私を射抜いている。
私なんかがとても立ち入れないような所に立つ彼女の雄々しさは、美しさなんかでは計り切れないような力で私を圧倒した。
「メロメロ甘風」









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