Dramatic...15























































肉球でゆっくり弾かれて、地につく瞬間も痛みを感じる事は微塵もなかった。すとんと綺麗に下りたって、森に囲まれた辺りを見渡す、アマゾン・リリーという名の通り、自分の中ではテレビで見た様な南国の景色を思い重ねてしまう。
「……綺麗」
日本では見る事の出来ない様な鮮やかな花々に生い茂る木々の湿った青い若葉の匂い、立ち込める空気はどこまでも澄んでいて、まるで天国の様子だと喩えてもはるなには十分理解出来た。どこかに綺麗な鳥でも住んでいるのだろうか、動物園でしか見た事のない様な動物達もここでは自由にのびのびと体を伸ばし生きている事だろう。
勿論、そんな記憶に鮮やかな自分の思い出でに浸ろうと世界は変わらず、到底理解しかねるものがすぐはるなの目の前に現れてしまったのだから、自分の想像はすぐに打ち崩されることになったのだが。
「…………恐竜+イノシシって感じ」
土を引き摺る様に巨大な足をあげてはるなの目の前に現れたのは、ルフィと対峙したのと同じ巨大な獣だった。息荒く自分の体を見つめる瞳孔は鋭く、まるで鮫の様な丸く澄んだ瞳は絵の迫力とは到底同じに出来ない恐怖をさまざま見せてきた。
「…………あ、」
獣はゆっくりと足をふみならし、自分の体を見定め、どのように食らいつこうか冷静に考えている、恐らく相当利口な思考回路を持っているのだ、はるなはその冷静さにも心臓が掴まれる様な怯えが走り、まったく塊のように動かない足になんとか力をこめて揺れた。
体力勝負でどれ程の差があるか全くも検討がつかないが。これは運にかけるしかない。
自分の未だ把握しきれていない謎の能力と、この世界のレベルとを。
「―――――どんっっ!!!」
獣が一瞬揺らいだのを隙として、はるなは地を蹴飛ばしその間横を勢いよく走り抜けた、

一瞬の隙を突かれたとはいえ、俊敏さに長けたイノシシはすぐに体をねじりはるなへと勢いよく突進してきた。その様はまるで巨大な岩がまわりの木々をなぎ倒しながら来るようで、一度でも速度を落とせばあの鉄の様な角に一突きだろうと、ぞっとさえもした。
けれどある程度の障害をはるなのハンデにしてさえ、イノシシの走りにいくらか自分の能力が勝っている事に気付きはるなは安心した。けれどこのまま逃げ続けていたって、そのうち体力のないはるなの体が衰え追いつけられるのが目に見えて想像できる。正面から向かっても勝つことなど出来ないだろうと考えると、結局撒くしか方法がない。
「リアル鬼ごっこじゃあるまいし!っその前に私が迷子になっちゃうじゃない!!」
ルフィを見つける前にお陀仏なんて御免!!!とはるなが吐き捨てた瞬間、
突然自分の真正面から頬の数センチとなりを突き抜けた激しい鎌鼬のような風に、はるなは足がもつれそうになった。けれど今少しでも脚力を緩めたら間違いなく真後ろにいるイノノシの口の中にゴールイン!ゲームセット!なのは想像するのも恐ろしい、はるなはゆらつきながら今の一瞬を考えている余裕もなく前をむき直した、けれど次の瞬間自分の目線の真ん前に女性の下半身が現れて、それをよけるか止まるか判断する頃には、その巨大な体にひょいとぼろぼろの服ごとつまみ上げられてしまっていた。
「もう逃げないで平気だよ」
「へっ……?」
「あらら大きいイノザウルス、“巨大焼き肉の巻”ね!」
はるなが声の主と目の前の巨大な女性に記憶を結びつけたと同時に、上の木から矢を放っていたのか、新体操のような滑らかな動きでマーガレットは目の前に着地した。ゆっくとこちらを見る切れ長の明るい瞳を見て、はるなは体が宙に浮いたままごくりと生唾を飲む。
「あなたは……一体どうやってこのアマゾンリリーへ?」
咄嗟に、侵入者として処刑だの何だのの話にされてしまうのかと思ったが、マーガレットのそのやけに優しさの含んだ発言がルフィの時を思い出させて、そういえばルフィも女と間違われてたときまでは治療されていたなと考える。はるなは一拍間を空けて、余計なことを喋りすぎないように慎重に言葉を選んだ。
「えっと、その、あの……漂流?」
「女ヶ島の付近の海域は獰猛な海王類の住処、容易にたどり着けるはずがない……海賊なの?」
無理矢理押し切れるかというような設問も、マーガレットは相手が女性と言うだけで深く追求しようとする仕草は見せてこなかった。
「あ、い、一応海賊と旅を共にしてます…」
「なにその説明……しかし話通りなら確かにひどい格好もうなずけるわ、船はもう壊れてるの?」
「はい、もうぺっちゃんこ……」
マーガレットは大体を理解すると少し考え込むように首を傾げて、にこりと笑ってはるなに言った。
「とりあえず密入国ではなさそうだしその格好では蛇姫様にお顔をお見せすることすら許されないわ、着替えと風呂に入れてあげるから私たちに付いてきて」
「はいっ!」
「”帰還の巻“ね」
「いや、私とアフェランドラは一応役目を果たしてから帰還する、頼んだわスイトピー」
マーガレットはてきぱきと指示を下し、どんと胸をたたくスイトピーを見てまだ回っていないだろうジャングルを警備するために颯爽と消えていった。
「”責任重大の巻“ね……!」
「(漫画だ……)」
スイトピーも自分からしたら随分な巨体だが、先ほど目の前で自分の胴体以上のふとももを目の当たりにしてしまった分、抵抗はある程度出来ていた。けれどやはりこうしてスイトピーに連れられて隣を歩くと、何よりその巨体にぴったりと巻き付いた大蛇のほうがはるなにとって受け入れがたい真実なのだった。
コワすぎ……毒とかあったら即死かなあ、
「とりあえずいちいち獣に会ってたら面倒だから“走って帰還の巻”でいいかしら?」
「大丈夫です!」
スイトピーはにっこり頷くと、その大きな足を踏みしめて木の間を走りだした。はるなはそれを一定の間隔を保ちながらついて進む。近付き過ぎると先ほどからはるなをじ〜っと見つめ続けている蛇がいつ口をあけて噛まれてもいいような状態にしてしまうからだ。はるなはそのまま蛇の視線をかわし続け、女ヶ島へと向かって行った。
このあと、ルフィが別の所でキノコだらけになって発見されるのだろうと考え、はるなはひとつ得策を思いついた。
「あの、スイトピーさん……もしかしたらここにもう一人仲間がくるかもしれません、その子も悪い人じゃないので、保護して頂きたいのですが……」
「なるほど……今日はとっても珍しい日、”みんなに知らせなきゃの巻”ね」
「お願いします!」
うまくいけばいいのだが……兎にも角にもルフィにも暴れさせなければハンコックが来る前にここを出……
出?
出れない?
確かこの女ヶ島、遊蛇がついているハンコックの船が唯一の航海手段というらしい。つまりはこれから暴れたりせず大人しくして機会を窺っても、結果ハンコックの船に乗せてもらわなければならなくなるわけで…。
はるなの記憶は53巻で途絶えていた。ジャンプは毎週買っていなかったから、ハンコックがルフィに惚れて収集に応じるまでしか知らなかった。
勝手な推測で言えば、エースの処刑を止めるためにインペルダウンにルフィが向かい、ハンコックと共に奪還する事だろう。つまりは七武海唯一であるハンコックを仲間にする事は絶対必要で、むしろそれが一番重要になってくるのではと考えた。言ってしまえば恋をすることも必然な偶然だ。自分の存在で何がどうぶれようとも、このあとルフィとハンコックが会う事だけは邪魔をしてはならないのだ。
はるなは唇を強く噛み、ある程度の被害を想像通りとすることを理解した。
シャボンディ諸島でもそうだったのだ。何もかも必然と受け入れなければ、彼らを救う事すらできない。




















男子禁制女人国”アマゾン・リリー”。頑丈な岩に囲まれた要塞の様なこの島の王国。
近付く男はいかなる理由があろうとも処刑され、海王類の餌となり消えていく。
名前をきくだけでは随分と恐ろしい島に思えるが、実際に見るこの国は美しく、優しい人々がそれぞれ毎日逞しく生き、気品に溢れる世界に思えた。
「これってバラの香りかなあ〜っすごい!豪邸のお風呂見たい!」
はるなは着替えを用意するからと離れたスイトピーの代わりの女性に浴場へ案内され、自分の家の5倍はあるだろう広い浴槽にどっぷりと浸かっていた。外界から手に入れたりするらしい入浴剤の香りに癒され、甘いバニラのボディソープもフルーツのシャンプーも日本とは違う優しい匂いがいっぱいつまっていて思わず湯の中で寝てしまいそうにもなった。
「ふふ〜お風呂のあとはゆっくりしてられないもんな、ルフィと合流したらうまくこじつけて収集に応じるまで仲良くなればいいのかな、」
けれどはるなの呼んだ限りでは、ハンコックの”恋”はルフィの顔とかそういったものより、天竜人を殴り飛ばしたその生きざまそのものへの方が正しく思われる。
たとえこのまま闘いをせずハンコックと面会しても、突然それを見張りのいる前で話す訳にはいかないし、何より私はハンコックの過去を知らないままの顔をしていなければ、民衆を騙し続けながら生きてきたハンコックの思いを侮辱する事になってしまう。
つまりは、
何も知らなかったようにニョン婆にルフィのシャボンディの事件を言わせ
→ルフィの事をハンコックが好きになり
→インペルダウンへ向かわせる
ように仕向けなければならないという事だ。
「……なんだか知能犯みたいで難しそうだなあ、」
というよりも、人の恋心というものを操るって事自体、はるなには不可能な様にも思われたが、
「まあ、ルフィのあの性格がスキなんだから、私が何しようと止められるもんでもないでしょ!」
ザバアと湯からあがり浴室を出ると、アマゾンリリーの国民が来ていたあの水着のような衣服が上下、そして長いマントとブーツが置かれていた。
「……ついにコスプレを……」
ワンピースだから許されるような露出の高い格好も、今の体が少し変化したはるなの肉体には違和感は少しもなくフィットしていた。パンツだけのような下半身にこのままルフィに会うのを避けたい思いがフツフツ沸いてしまってはいたが、そんな我儘も言っていられない。くまに当てられた衝撃や地を這ってやぶけた服のまま集合する訳にもいかないだろう。
はるなは壁に付けられた巨大な鏡で全身を見、まあこの世界の人々の普通。普通って事と割り切ってドアを開けた。入る前に終わったら隣の部屋でスイトピー達と何か食事を用意して待っているからと言われているから、お腹に正直に行くしかない。

「………………………なんで?」





しかしドアを開けたはるなは隣の部屋に向かうどころか、そこから足を一歩踏み出す事すら出来なかった。なぜならば何人もの屈強そうな戦士達が蛇の形をした弓を今射んとばかりに強く引き、その先をはるなただ一人に向けていたからだ。
前に踏み出たすらりと長身の女の人が、重たそうな口を開いた。
「着替えもすんで休みたいところかもしれないが、お前を連行する」
「……どうしてですか?」
「お前の仲間と言っていたな……”男”が、私達の戦士一人を誘拐していったからだ、その行動、まさしく海賊!よっていかに女と言えど仲間であるお前も男と共に処刑する!」
「な」





なんですって?!?!??!?!












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