Dramatic...14







































「ゾロ―――――――――――!!!!!!」
ルフィの咽喉が裂けんばかりの声が聞こえて、その光は眩くちりぢりに消えさった。光の中で向き合う二人の男が、溢れんばかりの覇気をあてあい、静かに見つめ合っている。

「――…あんたの出る幕かい、“冥王”レイリー……!!」
「若い芽をつむんじゃない……これから始まるのだよ!!彼らの時代が……!!」
「おっさーーーーーん!!」


二人の会話は最早ルフィの耳には入らなかった、目の前で見せつけられる圧倒的な力の差、ルフィの事などお互い赤子の様に視界にも入れず、目の前の強敵だけを敵と見定めて息をしている。何度も経験したこの心を巣食う絶望感にルフィは息をのみ、あたりで息を直そうと足をもつれさせる仲間を見渡した。
「全員!!逃げることだけ考えろ!!今のおれ達じゃあこいつらには勝てねえ!!!!!」
「潔し……!腹が立つねえェ〜」

黄猿が窺うように逃げ惑う船員たちを見つめて、余裕を振りまいている隙にフランキーの限界の風来砲がうなりをあげてくまへと突き刺さる。再びサンジに抱き上げられはるなは言葉も出ないまま散り散りの仲間を見、背中を追おうとする光の刃が、レイリーの剣により流星のように散らばって落ちて行く。高速であり、光線でもあるその筋をいま読み切って捌けるのは、この場において彼だけだろう。むしろレイリーがこの場に居なかったら、青キジの二の舞であることははるなだけでなくみんなの脳裏に浮かんでいたはずだ。
「PX−1!!ロロノアが虫の息だ!そっちから行け!!!」
最悪なのはこの場は大将一人というあの時よりも、敵が二人も多いことだった。戦桃丸の指示を機械の様に処理し、目線はすぐに重たい音を立てて逃げ惑うウソップ達の背中へと向けられる。離れていたサンジはすぐにそれに気付き、唯一の戦力のゾロが瀕死ではどう考えてもあの戦闘を押しきるどころか逃げきる事すらも無理だと判断し、すぐさま私をそっと下ろすと足を飛ばした。
「フランキー!!ナミさん達を頼む!!先に行っててくれ!!」
「サンジ君!?」
「サンジさん!!!」

「止まれェクソ野郎が!!」
サンジの限界の足技も、PX1を一瞬足止めできただけで、その場にいた面々へと向けられる鋼鉄の視線は尚も怯まなかった。サンジが足を抑え倒れ込むのを見て、ウソップ達も逃げるに逃げられなくなる。
ルフィも戦桃丸に苦戦を強いられ、チョッパーの強硬手段もむなしく、そこへまた大木の様な影が押し寄せ、バーソロミュー・くま。本人が現れた。
ゾロもそれを即座に感じたのか、怯む事もなくその目線をしっかりと受け止めていた。
私を支えてくれいたフランキーの隣で、ナミが言葉を発しようとした瞬間。くまは大きく腕を振り上げゾロの体を叩く様に弾く。一瞬のことだった、その刹那は誰もが攻撃だと思い体を震わせゾロを思うしか出来なかった。はるな以外、誰もゾロが消えてなくなる事だと理解するのに時間がかかった。
ルフィの壮絶な声がくまに向けられる中、ナミは青ざめたまま乾いた唇で話しだす。
「間違いない…今能力見た事あるもの、スリラーバーグで女の子が一人…ああやって消されて二度と帰ってこなかった」
「!??!」

ルフィの言葉に快活に答える戦桃丸をよそに、くまの腕は止まらなかった、誰もがそれの恐怖を実感し、己を、まわりに逃げる様に戸惑い走り回った。

「ブルック!!」
「ウソップ!!」

サンジも、フランキーも飛ばされた。
別々に走りだしたナミのほうへと腕は振り下ろされ、ルフィの悲痛な呼び声も空しく、その腕の中に消えていく。微かな理性が暴れのた打ち回るチョッパーの鋭い蹄を弾き、くまはその巨体も遥か遠くへ飛ばして行った。最早加減の無い力には、ロビンに手を伸ばす猶予すら与えない。
……ゆっくりとこちらへ向けられた視線を感じて、最早私の中途半端な能力では逃げる事など無意味だと悟らされた。
「やめろォ!!!はるなは海賊じゃねえ!!!!!!消さないでくれ!!!!!」
「……旅行するなら、どこに行きたい?」
くまはルフィの乾いた叫びをまるで体で羽飛ばす様に、くまは姿勢を崩さないままその聖書を持ち直した。悠然とした態度はもはや私が麦わらの仲間であろうとおかまいなしなようだった。それはそれで有難い。いても黄猿に殺されるだけだ。
「……ルフィと同じ所」
私の言葉を聞いて、振り上げた手が一度ぴくりと止まった、黄猿に応戦するレイリーも、戦桃丸から避けてこちらに来れないルフィもその一瞬の震えを確認する事は出来なかった。
「ありがとう、くまさん」
……くまさんはないな、なかったな。
「お前は、……」
「絶対、ルフィは殺させないわ。貴方のしたことを、無駄にはしない」
はるなの言葉を聞いても、驚く事もすでに出来なくなった様なくまの表情は変わらなかった、けれどそのまま挙げられていた腕を下ろしていく最中、くまは、微かに、ほんのかすかにだけ微笑んだような気がした。私なんかでは到底分かり得ない様な思想の果てで、少しだけ見せたその揺らぎに、なぜだか勝手に安心させられた。
お疲れ様、なんて言葉は気休めで言えなくて、はるなはその覚悟を負う事は出来やしなかったが、少なくとも自分の言葉を最後に聞けて、くまの落ちて行く優しい腕の力のすべてが、自分に対する回答の様にも思えた。
体にぱちんと柔らかいものが当る音がして、呼吸が一瞬抑えつけられるように止まる。
優しい力と浮遊力が体に押し寄せて、意識が遠のいた。










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