今さらだけど泳げなくなったって思うと海怖いね




















Dramatic...13
































「ここでおっさんから何か教えてもらうなら――――俺は海賊をやめる」
ウソップの急ぎ過ぎた質問を遮り、ルフィの怒声が小さな店の中を何度も飛び交った。声は強く勢いに満ちていて、先ほどまで焦りに声を震わせていたウソップの顔も、その真剣さにすぐに声を荒げ反駁する。
「お、おれだって聞きたくねえよ!」
「おいおっさん何もしゃべんじゃねえぞ!」
口は焦ってはいたが、そのルフィの意思に意表を突かれただけで、誰もウソップを咎めよう物などいなかった。そんな事よりも、ルフィの瞳があまりに真っすぐで、溜息をつく暇も与えられなかった方が正しい。
「やれるかキミに…“偉大なる航路”はまだまだキミらの想像を遥かに凌ぐぞ!キミにこの強固な海を支配できるか!?」
「支配なんかしねェよ、この海で一番自由な奴が、海賊王だ!」
「……そうか、」
真正面で聞くと、余計に感動するなあ。なんて、柄にもその熱に当てられてしまうのは、ジャンプっ子の性分だろう。みんなが少しだけ心地よさそうに微笑んでいるのを目の隅で確認して、はるな自身も机の木目を見るふりをして、小さく口角をあげる。


さて話がひと段落ついたとして、レイリーは船のコーティングの為に店から出て行ってしまった。ゾロとフランキーの言葉の通り、それぞれがバラバラに行動し三日後に会う。今更ながらこんな淡々と進んでいても、はるなの心は周りに打ち解けずうやむやな言葉が咽喉の奥から零れ落ちんばかりだった。

「三日後に会いましょう、見送りに行くわね」
レイリーさんに渡されたビブルカードが、はるなの手の中で小さく震えている。
「相手は「大将」だ、誰か死なねェようにしねえとな!」
「縁起でもねェ事言うなよてめー!」
みんながそれぞれ浮足立つように歩き出す、出航の準備と考えれば、こんな愉快な島で寝泊まりできるのも楽しみなのだろう、そんな下らない想像を描いては掻き消して、はるなは一番後ろでその影を見つめた。
数ページ先の展開が、未来が、言葉ではなく脳の中に焼きついてしまっている。はるなはまごつくようにそれぞれに歩き出す背中を見比べ、咄嗟にナミの肩を掴んだ。
「っ…ん?どうしたのはるな、一緒に買い物行く?」
「大将が、きます……!」
「え?」
「もう大将は島に来てるはずです!早くここから離れて隠れないと……!」
「こっちに近づいてるの?大将が?」
「最初に来るのは大将じゃありません…!」
「何言ってるの、はるな……」



「誰だお前っ!!」


ああ、最悪だ、はるなはナミの視線を交わして、温い風の吹き抜ける森の中に悠然と立ち尽くすその巨体の姿を確かめた。遅かった。あまりにもやり方が悪かった、素直に原作の言葉を話させるくらいなら、頭の悪い冗談でも吐いて探知能力の一つや二つだと言い通して離れさせるべきだった。
はるなはゆっくりと手袋をはずしていく姿に目を凝らしながら、違う。と舌打ちをした。
何が話させる、だ!バカバカしい!自分が手を出す方がはるかに無意味だ!
事が悪化する以外の未来などあるものか!
瞬間、はるなの葛藤など意味もないかのようにくまの掌中から視界を奪われるほどの光がまばゆく広がり、それが数メートル隣のルフィの下で爆発音と共にひろがった。光の線上をなんとか目で追えた事に最低限の自分の戦闘力を理解し息を吐くと、それぞれが戦闘態勢に入り身を固めるのを見て、もう何も口に出す暇もないとはるなは口を噤んだ。
「もしかしてスリラーバークで後で来たって言ってた奴か!?」
「ああ!!コイツがそうだ、あの時は手のひらの“肉球”から衝撃波を打たれてえらい目に遭ったんだが」
「あそこでおれ達を全滅させたつもりだったけど、生きてる事に気付いてまた来たんだきっと!」

「“風来砲”!!!!!!」
逃げる間もない風の切れる音が響いて、フランキーの手からも衝撃破が放たれる。一度よろけるくまは、その能面の目を少しも崩さぬまままたゆらりと姿勢を戻した。その間もなくルフィが腰をかがめ、皮膚から湯気を立たせ息を荒げた。


「強ェとわかってんだから……初めから全開だ!!!」












何度も飛び交う光と爆炎の広がる草の原に、それぞれが散り散りに隠れながら目的の巨体を睨みつける。うかつに近づけばくまに見つかり攻撃を食らう、長距離戦が唯一得意そうなフランキーでさえ、間合いをとっていても見つかってからでは発射速度の差で劣っている事を自覚して構えた腕をくまへとかざせないでいた。
はるなもその姿を遠くの方から確認しながら、麦わらトップ3が構えているだろう事を気配もわからぬまま感じとり、ただくまのほうへと目を向ける。
……手をだすべきじゃないって見物人ヅラしている事に、まったくもって良い気がしなくとも。そんな脳の小手先で考えついてすぐに戦闘だのに狩りだせるほどはるなの体はできたものじゃなかった。体の奥に染み付いた一般常識は、地響きの鳴りやまない真正面の戦場にひたすら逃げろと警告してくる。漫画みたいに馬鹿をして死ぬ”普通”と、ギリギリの境界で生き伸びる”普通”を、咄嗟に見きれるほどの賢さも、そんなすぐに生まれてはくれなかった。

三人の攻撃は完璧に決まった、着地までもいつでも応戦できる間合いをとりつつ三人はそれぞれ互いを確認して次の攻撃の構えのまま地を踏みしめる。しかしその中で一人、ゾロが自分の腹をかかえて倒れ込んだ。不審に振り返るルフィを制し、サンジの声を合図に他のメンバーが技を繰り広げる、
ナミの電光槍テンポで止まったくまに、もう一度サンジ、ゾロ、ルフィのコンボが決まったのが見えた。それでも足が固まったまま、一歩も彼らの傍に近寄ろうと思えないのは、この先の恐怖がもう、自分の真上に見えているせいだった。
皆に声をかけようと思う間もなく、巨大な影ははるなの頭上を通り過ぎて、木々を揺らし降臨する。
「ほいさぁ!!!!」

地鳴りと共に言葉が交わされ、自分の背中のすぐそばに、近付いている事を悟る。
殺されちゃうな、きっと私。
くまに顔を把握された訳でもないと冷静に分析すれば、その答えに辿りつくのはあっという間だった。彼の任務に私は組み込まれていないだろう、完全な装丁範囲外人物。
黄猿の性格を考えれば、ここにいた私に生きる道は無い。

「ここは逃げるぞ!!――一緒じゃダメだ!!バラバラに逃げるぞ!!!」
ルフィの精一杯の張り裂ける声を聞いて、はるなは震える足を持ちあげ、みんなと共に走りだした、少し向こうでサンジさんがこちらを見て、必死なんだか喜んでるんだかわからないような声で叫ぶ。
「はるなちゃぁ〜〜ん!!!俺とおいで!!!!足がもげても守ります!!!!!!」
「サンジさん……」
よくこんな場でそんな事言うわ!!!
突っ込みとはウラハラに声が震えてろくに出なかったのもサンジさんはすぐ気付いたのか、その俊足で即座に私を抱き上げた。
「わあっ!」
「申し訳ないはるなちゃん!!君を守るため!!暫くこのままで!!」
「ううんそんな、ごめんなさい……!」
「はるなちゃんもナミさんにも……俺の命に代えても守り抜く!」
「命かける覚悟あるならお前全員の囮になれ」
「レディー限定だクソ野郎!」


「みんな!!三日後にサニー号で!!!」
「おう!!!!」
ルフィ!!
はるなが声を失ったままサンジの肩で遠くなるルフィの背中を見つめた瞬間。ウソップの放つ煙幕が木をすり抜けて戦場を隠す様に覆い広がった。その瞬間サンジさんに一段強く
捕まってしまい、また変な声が聞こえたのも、まあ聞かなかったこととします。

「うわああああああああ!!!!!」


「サンジさん……下ろして……!」
「はるなちゃん、駄目だ、今の声……!?」
「黄猿がきました……!!」
サンジの背からすり抜ける様に体を落とす事が出来たのも、煙幕を掻き消す様に広がった爆発と、ゾロの悲鳴のせいでサンジが走る足を止めたからだった。
ナミやフランキー達が見つめるその先に、ルフィの冷たい声が飛び、白いコートは躊躇なく姿を現わした。


「――――もう、手遅れだよォ〜……」










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