Credo ut intelligam.


(ベポ)


キャプテンが見つけた女の子は、よくわからないけれど、キャプテンの知ってる子じゃなくて、それで殺すわけでもなくて、とりあえず地下の倉庫に閉じ込めておく事になった。

初めて見た時は他のクルーがいっぱい見ていてちゃんと見る事が出来なかったけれど、キャプテンの指示で俺が地下に連れて言った時、全然動こうとしないから捕まえて運んだのに、捕まれても全然逃げようと抵抗しないから、もしかしてこいつ、すごい弱いヤツなんじゃないかと俺は思った。

部屋に入れて、俺は鍵を閉めてまた洗濯に戻らないとと思ったのに、はるなはありがとうなんて言うから、俺は変な奴だと思った。
そういえば、こいつ俺が喋ってるのに全然驚かない。クマなのに。
不思議に思って聞いてみれば、変な事を答え出した。人間のほうがこわいだって、クマですいませんって、そう言えなかった。

それに、はるなは俺が優しいやつだと言ってきた。何もしてないのにそんな事を言うなんて、こいつやっぱり海賊じゃないな、と考えてもみたけれど、前にも憶測で判断するなってキャプテンに怒られたばかりだから、それをそのままキャプテンに言う事は出来なかった。
でも、なんとなくだけど、優しいって言ってくれた時のはるなの目は、すごく好きだった。
どう言葉にしていいのかわかんなかったけど、はるなは、俺のことをすごくまっすぐ見ていた。ぎこちない顔で眉は下がってて変な笑顔だったけれど、威嚇してる匂いなんてしなかった。
たぶん本当に、俺の事優しいやつだとおもってるんだ。


キャプテンに渡された鍵で厳重に閉めたことを確認して、甲板にあがって、洗濯物を干しているとき、キャプテンがペンギンとはるなの食事の話をしているのが聞こえた。

「食わせますか?」
「いい、餓えてる方が抵抗する力もでねェし楽だ」

そんな二言が聞こえて、キャプテンははるなにご飯をあげないんだ、というのがわかった。
なら、自分の分をあげても良い気がして、明日の朝ご飯をあげようと俺は思った。はるなが海賊じゃない事を知っているのは自分だけだから、きっと俺しかあげる奴もいないはずだ。


「ベポ、あの女どうだった?」

そしたらシャチが、口先だけすごく興味深そうに笑いながら、濡れた服をバサリと広げて紐に掛けて言ってくる。
風が気持ちよかったから、俺は機嫌よく答えた。

「いい子だった」

言ってみると、シャチはふと笑っていた口を止めて、ぽかんとこちらを見あげてきた。

「なんだそれ……なんか喋ったのか?」
「ちょっとだけ、でも、おれアイツ好き」
「好きって……マジで言ってんの?」
「うん」
「はぁー、いや、……言わねえけど、さ……」

どうして、その時シャチが困った様にうーんと唸ったのか、俺にはわからなかった。
でも、はるなが良い奴だってことを知っているのは俺だけなんだなと思うと、しょうがないなと思ったし、なんだか少し嬉しかった。
はるなは俺が優しいって言う、俺もはるなが優しいってわかる。
それは不思議な秘密のようだった。


「……あまり入れ込むなよ、ベポ」
「ペンギン」

俺とシャチの間に、キャプテンと話を終えたのか、ペンギンが入ってきた。
ペンギンもシャチみたいに口先だけきゅって閉めて、少し厳しい声で言う。

「情けをかける必要なんてない」
「そうだな、うん……そういう事だ、ベポ」

どういう事だろう、そう思ったけれど、二人ともはるなと話した事がないからしょうがないや、と考えた。別に、なさけ、とかそういうんじゃないとも思ったけれど、人間が怖いって言ってくれたはるなは、人間じゃない、俺がこわくないってはっきり言ったのだから、俺だって、はるなが怖くもなんともなかったのだ。

「ペンギン、おれはるないいやつだと思う」
「……そうか」

ペンギンは、シャチの時とは違って、少しだけ考え込むように口を閉じてしまった。








(私は、理解するために信じる)

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