ちょっとしたネタ1

2011/07/21 01:42



『それは登校中の事だった。
 一羽の鳩が、路面に散らばる白い物をしきりに啄んでいる光景に出会した。瞬時に不安が過った。
 人間の棄てたゴミ、例えば煙草の吸い殻を、食べ物と勘違いして突ついているのでは無いか。
 紙屑は粉々になれば、鳩の口にも入り易い。
 しかしそれは、よく見れば台風の風雨に洗われた、嘔吐物であった。
 安堵すると同時に感慨深く思った。都会と呼ばれる街だからこその風景だと。
 不思議と不快感は無い、恐らく嘔吐物そのままでなく、一度水に晒されているからなのだろう。
 今日は風が強い、時折雨も混じる。
 帰りには、雄の鳩が胸を膨らませ、雌の鳩に求愛していた。』




「……前田くん。」
皆にひげじい先生の愛称で親しまれている現国担当の教師は、その名の通り、口元に白い髭をたくわえた初老の男性だ。
「前田くんの作文とっても面白いんだけどね?」
「はい。」
ひげじい先生の慈愛に満ちた口調に、淡々と前田が応じた。
現国の授業が終わった休み時間。ひげじい先生は、時間はとらせないからと前田を呼び出した。
「たしかねえ、僕がこないだ出した宿題ねえ、」
うーん、と、記憶を手繰る素振りを見せながらひげじい先生は続けた。
「はい。」
「たしか僕がこないだ出した宿題は、
『最近読んだ本、または映画の感想を400字詰め原稿用紙1枚程度』
だった気がするんだよねえ」
「はい、確かにそういう課題でした。」
うーん、髭を軽くさすりながら、ひげじい先生。
「前田くんの作文、とっても面白いんだけどねえ」
「はい。」
前田はただ淡々と応じた。


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