ちょっとしたネタ2 2011/11/03 01:36 「お前の兄さんが、十三階段裏切ったらしいぞ」 「は。」 僕が初めてそれを聞かされたのは、学校から帰って来て家の玄関で靴を脱いでいる最中だった。 靴を脱ぎかけたままの状態で声の主を見やる。 彼はうち(肆家)の一番、つまり僕らの代で一番優秀な人。 先代の一番に就いたのは僕の父で、彼のお父さんは二番に甘んじた。 先代一番は息子も大変優秀らしいとの事で親子続けて一番になるだろうと目されて来たのだが、それをまんまと裏切ってみせたのが、僕の兄だ。 変人集団と名高いこの肆家においても群を抜いて抜きん出て抜群に、変人だった。 兄は普段から遺憾なく変人振りをアピールした結果、かなり危ういところで十三番に決まった。 それをいつまでも引き摺って僕らに突っかかって来るのが、今目の前に居る、彼である。 またその話なのだろうかと話の続きを待っていると、彼は、またおもむろに口を開いた。 「十三番、あいつな、 人を喰っていたらしい」 「…はあ」 あまりに突飛な発言に思わず間の抜けた返事を返す。 いや、ただ驚いただけでもないのだ。 兄ならやりかねない。 何となく、そう思ってしまったのだ。 「おかしな奴だとは思っていたが、まさか人間を喰う趣味があったとはな。」 なにか嘲笑を含んだような物言いでそれだけ言うと、彼は僕の横で靴を履き、出て行った。 そういえばここは僕の家だった。彼が随分と我が物顔で立って居たので忘れていた。 脱ぎかけていた靴を脱ぎ、漸く我が家に足を踏み入れる。 居間に父と母の姿を確認し「ただいま帰りました」と一声かけただけで、自室に向かった。 まず制服から私服へと着替えるため常からそうしているのだが、今日は幾分か早足になった。 話を聞かなくとも判る。 両親の話題は、兄だ。 自室で着替えを済ませるが、やはりなんとなく部屋を出るのが億劫になる。 おかしな奴だとは思っていたが、まさか人間を喰う趣味があったとはな。 先の一番の言葉を、頭の中で反芻する。 本当に、まさか、だ。 僕の居るこの部屋のすぐ隣が兄の部屋だったが、暫く帰って来てはいなかった。 今回の地方担当になっていた事もあるだろう。 何故かそうっと部屋を出ると、兄の部屋へと侵入した。 暫く帰って来ていない、そして、恐らくこれからずっと返って来ないだろう部屋の主。 何故なら今頃主は、十三階段から逃れる為、どこか遠くにいる筈だからである。 少し肌寒く感じるのは、季節だけの所為ではない、そんな気がした。 兄の部屋、勉強机の上には、 大変な量の僕の写真が 写真立てに入れられて、大事に大事に飾られていた。 そう、兄は変人なのだ。 戻 |