ただひたすらにリングを目掛けてボールを放る。その後ろ姿をいつも見ていた。

才能のあるシューターでありながら、努力は絶対に怠らない。態度や性格にちょっとだけ問題があるけれど、みんな彼を認めている。…そして、彼も。

その姿が、その心意気が、私は全部大好きだった。



「…52本目」


今日も彼はボールを放る。彼の言葉を借りるなら『人事を尽くす』ためだ。
私はコートのすみっこで、そんな彼を見つめるだけだ。


「…53本目」


こっそりとカウントするゴールの数。ボールを構えて放つまでの流れは機械の様に精密で、耳に届く音もテンポよく心地よい。

…そう言えば、昨日ちょっとだけ夜更かししたからな。

少しずつ重たくなる目蓋。抗おうとしても三大欲求に勝てるわけもないわけで、


「ちょっとだけ…」


襲い掛かる睡魔に身を委ねた。




xox




「…なぜ寝ている」


静かな体育館に似つかない静かな寝息。人事を尽くし終えた俺が目にしたのは、鞄を枕にして気持ちよさそうに眠るマネージャーの姿。


「だから、帰れと言ったのだよ」


白い肌に残る寝不足の跡。
妥協を許さず人事を尽くす名字だからこそ、無理が祟ったのだろう。


「…気づかないわけがないのだよ、バカめ」


色素の薄い髪をクシャリと撫でれば、彼女の眉間に薄らとシワが寄る。

…起こしてしまったか?

微動だに出来ない俺の心配などよそに、また規則正しい寝息を立てる名字。
あまりにも無防備過ぎる姿に、溜め息が溢れるのは仕方のないことだ。


「人の気も知らないでいい身分だな」


起きている時では絶対に触れない、白く柔らかな頬を撫でる。見目に違わず柔らかな肌は、俺のものとは全く違う。
こんな時、コイツは女なのだと思い知らされる。


「このままでは風邪を引くな…」


まだ残暑の残る季節としても、風邪を引かないとは限らない。申し訳程度に、手にしていたジャージをかける。
気休めにしかならないだろうが、なにもないよりはマシだろう。


「少しは息抜きを覚えるのだよ。…………名前」


部員は全員呼んでいる名前。彼女が寝ている時でなければ、呼ぶこともない名前。
こんな状況でもなければ名前すらも呼べない自分が腹立たしい。

だが、今は…


「…後10分だけだ」


あどけない顔で眠る名前の隣に寄り添っていよう。




眠り姫に奥手のナイトを

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