彼女と喧嘩した、なんてよくある話だ。そんなわけで俺は彼女と喧嘩した。ここまではよくある話だ


「…おう」


家に帰ると俺のベッドで彼女が寝ていた。

メリーさん睡眠中


先にいっておく、“彼女が寝ている”といっても緑間が先日ラッキーアイテムとして持ってきた少女漫画の“寝ている”とはてんで違う。そういう場合は「よく寝てんな…フッ、寝顔は可愛いぜ」(台詞引用、緑間の少女漫画)なんて声をかけるべきだと思う(あくまで一般の女子の希望という意味で)のだが、さっきいったように、少女漫画とは違うのだ。全く。

少し固めの俺の枕に頭をおき、長方形の布団は彼女の上に被さっていても形を崩していない、目はかたく閉じられている。
まだ表現力が無い子供が描いた様にきっちりとした、正に理想の寝方が俺のベッドで描かれていたのだ。
ぴくりとも動かず、布団の皺からみておそらく今まで寝返りすらしていなかったこの馬鹿は今規則正しく呼吸をしている。

…ああ、ああ、どうして毎度毎度こんな意味わからない事が起きるのか…ガンガン痛む頭を思わず抱えた。


ポジションとして俺の彼女、つまり恋仲である事に間違いない名字名前という少女は少しばかり発想が飛んでいる。

例えば今までバクバク食べていたポテトチップスをいきなり俺に押し付け「太るからいらない」と言い出したり、アイドルを可愛いといっても無反応なのにクラスの女子を可愛いというと不貞腐れたりする。
「アルパカの肉は馬刺みたいかな」とぶっ飛んだ発言した時は流石に熱を測った。
名前は冗談だと茶化すが全然冗談にならない、本気にしか思えないからどうにかして欲しい。特に馬刺。

アルパカの件を抜き、よく言えば照れ隠しの様なものだと俺は思っているしそうなのだろうと思う。
俺に幻滅されたくないからポテトチップスを押し付けたり嫉妬して不貞腐れたりという言動は非常に可愛い、可愛らしい。
けれど、年中、三百六十五日もそんなスカポンタンな言動されたら流石に困る、元々俺の沸点が低い事もあり、毎度のように軽い喧嘩はしたし(今回も)くだらない事でももめる。

俺達の間柄はそうだ、俺はそれに満足しているし、幸せである。喧嘩も付き合っていく上では大切な大切な事でもあると思う、むしろそうして腹を割って話せる仲というのは素晴らしいじゃないか。少なくとも俺はそう思う…



話が長い上に少し逸れた、まあ俺が言いたいのはつまり。


「起きろよ…」


喧嘩の腹いせにベッドを奪うなんて思考どうかしてるって話だ。


「おい」
「…」
「おい」
「…」


起きる気配は無し、すうすうと寝息をたてる。駄目だ、眠りが深い名前に何をしても無駄だろう。もし起こしたら

「もうっ宮地君のばかぁ!腹筋包丁で二十に分けるわよ!」

なんて即急で作った意味のわからないキャラで残酷な事をいうに違いない、こいつはそういう女だ。実際寝坊した時慌てて起こした時は「名前は激怒した」といきなり走れメロスごっこがはじまった。


「にしてもほんと起きないなコイツ」


鞄を床に置きかっちりとした態度で寝る名前の足の方にある隙間に腰を恐る恐る落とす、二人分の重みで軋むベッドなんて気にせず、相変わらず眠っていた。


そもそもこの馬鹿が眠り続けるのは俺所為なのかだろうか、喧嘩発端は彼女が俺の脇腹をどついた事からはじまるのだが俺が悪いのだろうか、だから彼女は今も眠り続けるのか。


「ごめんな」


たまに名前はこうしてわかりやすくふて腐れる、でもそれは俺が悪いんだ、だっていつも俺は彼女を優しく愛する事が苦手だから。


「……」
「……」
「……おはよう」
「おう、おはよう」


そしてこいつはいつも俺が謝ればすぐに機嫌がよくなる。今回みたいに寝てる時、果たして狸寝入りか否かは知らない。

もぞり、今まで絵の様に寝ていた名前が枕に肘をたて頬杖をつく、近くにあった俺の鞄を漁りスポーツ飲料を奪い取った。


「ねえ清志」
「なんだ」
「良い夢みてたよ、メロンパンと結婚する夢」
「それがなんだってんだ」
「でも私清志と結婚するから断ったよ」
「そうか、ありがとな」


夢にマジレスとかちょっと可愛いな、うん。


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