ベッドを背もたれに眺めるディスプレイの中で男と女が抱き締め合う。校舎の屋で重ねた唇に、合わせて流れ出すエンディング。人気アイドルが歌ったこの主題歌は、当時から切なく甘いと女子に人気だ。

なんとなく見送ったエンドロールが終わったところでDVDを取り出そうと手を伸ばすと、かくん、と肩にもたれた彼女が大きく傾いだ。


「……名前ちゃん?」


お決まりの、突っ慳貪な"なんですか"は返ってこない。よく見てみればすうすうと、健やかな寝息を立てていた。

俺の膝の上で。


伸ばした手はとりあえず、停止ボタンをクリックするだけに止める。それから、彼女の頭へとそっと移動させて。するりと梳くように指を滑らせると、んううと小さく身動ぎした。


「普段あんまり見ると照れちゃうからなあ、名前ちゃん」


見慣れたようであまりじっくり見たことのない、彼女の顔。丁度いい、今のこの機会に堪能しようではないか。

長めの前髪から覗くまぶたはどこか脱力しているように見え、指先で撫でたくなったけどきらきらと粒子の輝くアイシャドウがそれを許してくれなかった。
くるんとカールしたマスカラも細く引かれたアイラインも、なくたって俺は充分、名前ちゃんは可愛いと思うけど。学校のときはカラコンしかしてないわけだし、化粧をしていない顔も見慣れてるわけだしね。


まあ、名前ちゃんが俺に会うために化粧をしてきてくれた、と思うと悪くないなと思えるけど。だって精々マンション内の一つ下の部屋に来るためだけに、なんだ。悪くないというか、嬉しい。めちゃくちゃ嬉しい。俺の彼女めちゃくちゃ可愛い。


ああ、それから。


「チークは可愛いよなあ」


空いていたもう片方の手ですべすべの頬を撫でる。ふんわりとピンク色のようなオレンジ色のような、柔らかな色付き。可愛いね、と言うと必ずここを真っ赤にするんだ。馬鹿みたいなこと言わないでくださいなんて、やっぱり突っ慳貪に言いながら。



時折呟く俺の一人言と、彼女の呼吸音。
昼下がりという時間のせいか、はたまた家族が俺以外出払っているからか、俺達を取り巻くのは存外静かな空間だった。

するすると彼女の髪を梳くように頭を撫でる。薄いピンク色の唇が開いたり、閉じたり。なんだ、彼女が寝ててもなんだかんだ楽しんじゃってるよなあ、俺。



「も、り……やまさん……」
「ん?」
「ばかあ……」
「……夢の中でまで何してんだ、俺」


思わず溢れた苦笑い、それでも彼女が穏やかな表情を浮かべているので擽ったいような。ああ、もう、本当に可愛い俺の彼女。

前髪を退かしてどうにか屈んで額に唇を落とすと、まぶたをぎゅっと閉じられた。


「やあだ……」


やだって、おいおい、名前ちゃん。


今さっきまで穏やかだった表情はどこへやら、険しいと言うよりは鬱陶しそうな。前髪を戻してまたするりと黒い髪を梳くように指を滑らせると、またまぶたがゆるりと脱力した。


「こっちなら、嫌じゃないかな」


一人ごちたその言葉と共にゆるく開かれた薄いピンク色の唇を撫でる。柔らかなそこへ、さっきよりももう少しだけ屈んで口付けるとどこか鼻にかかった声が小さく漏れた。
思わず反射的に、離れる。


なんだなんだ、今の声は。
心臓の音が、やけにうるさい。



不自然な体勢で固まる俺の膝の上で、彼女がゆっくりと目を開ける。



「……もりやまさん……?」
「うん? 名前ちゃん、起きた?」
「うん……あれ、えいが……」
「名前ちゃん途中で寝ちゃったんだよ。気持ち良さそうだったから起こせなかった」


ぼんやりとしながら何回か瞬きをする姿を眺めながら、どうにか固まった体を解す。動揺を誤魔化すようにさらりと指通りのいい黒髪を撫でると、気持ち良さそうに目を細めた。


「森山さんのゆめみてたんだけど……覚えてないや……」
「はは、寝言で"森山さんの馬鹿"って言ってたよ」
「んー……」


首や腕をなんとなく伸ばす様を猫みたいだなあと思いながら眺める。くたり、と再度俺の膝に頭を預けて手招きするので軽く屈むと、まだ眠気の残ったとろんとした眼差しが俺を見つめる。黒い瞳に、俺が写っている。

後頭部に伸ばされた腕に引き寄せられ、唇が重なった。さっき見ていた映画の二人よりも軽く、短く。


「森山さんもいっしょに、寝よ」
「……じゃ、ちゃんとベッド上がろうか」


くつくつと笑いながら一度彼女の状態を起こすと、投げ出された脚、膝裏と首の後ろに腕を伸ばす。そっと持ち上げると、ぎゅうっと首にかじりつかれた。



あー、俺の彼女まじ可愛い。
どうしようもないくらい、可愛い。




マイルームエデン
(俺だけが知ってる、俺だけの)






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