第1話

夜の時間が好き。

誰にも怒られず、何をしても許されるようなそんな気がする、特別な時間。

夜が更けるのはいつも惜しい。

明日は嬉しいことに祝日だし、と浮かれて酎ハイとおつまみを用意した。

好きな音楽を流しながら、スマホでSNSを眺めつつ、そろそろ4月も終わりかと、ふと思う。

年を重ねるごとに月日の流れが早くなるというのは言い得て妙だ。

この調子であっという間に夏が来て、曖昧な秋が過ぎ、気づいたら冬でもう年末だとボヤいてる自分は想像に容易い。

取り止めのないことを考えながら、ゴールデンウィークの予定を考える。

久しぶりに好きなだけ歌えるなと、壁際に置いてあるアコースティックギターをチラリと見た。

人付き合いは苦手ではないし、気の置けない友人もいるが、基本的に一人の時間が好き。

音楽、小説、マンガ、パソコン。昔から好きな物は変わらない、どれもこれも一人で没頭できる物ばかり。そういえばスポーツも、個人競技しかやってこなかった。

両親からしてみれば待望の娘だったようだが、可愛げの一切ない女に成長してしまって些か申し訳なく思う。期待に応えるべく、一応見た目だけはそれらしくしてきたのだけれど。

親はどうやら孫の顔が早く見たいらしく、帰省する度に遠回しに探られるため、最近はあまり会っていない。

ぼちぼち人並みに恋愛らしき物はしてきたが、どうしても途中で疲れてしまって破局する。残念ながら結婚願望は皆無だ。感謝はしているし両親のことは好きだが、私の人生は私のものなので許して欲しい。

それともいつか私も、生涯寄り添いたいと思える人に、出会うのだろうか。

思考が逸れたところで酎ハイで喉を潤して、机の上に置いてあった大きめの付箋に休暇中やりたいことを書いていく。

普段は、やれスクリプトで自動化だの、プログラミングで何ができるかなだの、デジタルで楽する事ばかり考えてる癖に、不思議なもので結局タスク管理はアナログになりがちだ。

あれこれ羅列していき、ふと、漫画を読むのもありだなと思う。思い立ったが吉日、とりあえず電子書籍で何か買おうと思い立ち、タブレットを開く。

最近は無料漫画もたくさんあるが、ここはやはりジャンプかな。兄の影響で小さい頃から読む漫画の大半は少年漫画だ。

何にしようか、と検索するが、イマイチ今の気分にピンと来るものがない。ならば、昔読んだものを読み返してみるとか。

そうしたら、あれしかないのではないか。人生で一番ハマったと断言できる、あの漫画。これは名案な気がしてきた。

小さな赤ん坊の家庭教師が出てくるマフィア漫画。連載が終了してからもう数年経ったが、当時のめり込み具合はなかなかのものだった。何度読み返したか分からないし、いわゆる二次創作も読み漁った。私が隠れオタクとなる決定打だった。

何故あんなにあの漫画に惹かれたのかといえば、何といっても登場人物だと思う。

皆もちろん魅力的だけれど、断トツで心を持っていかれたのはあの風紀委員長。当時は本当に恋していたなぁ。

何かと他人の顔色を伺いがちだったし、ただ何となくなあなあな人生を過ごしていた私からしてみれば、ブレない強さと明確な誇りを持って生きている彼は羨望の対象だった。

現実世界でああして生きていくことは無理だと分かってはいたが、あの頃から自分の生き方について考えるようになったと思う。今こうして好きなことをして生きていこうと思えるのも、そのおかげといっても過言ではない。

他人からしてみればたかが漫画の登場人物になんて大袈裟なと思われるだろうけれど、それくらい私にとっては大きな存在だった。

ああ、随分どうして長い事、忘れていたんだろうなぁと、迷わず電子書籍版を購入する。便利な世の中になったものだ。

あれそういえば、もうすぐ彼の誕生日ではないか、と思わぬ偶然に笑みが溢れた。

何故だか少しドキドキしながら、ページを開く。胸が少し締め付けられるような感覚が、懐かしい。

一旦この物語に触れて仕舞えば、そこから没頭することは容易で、久しぶりに味わうこの世界に浸り、糸もたやすく心を持っていかれ、私の夜は更けていった。

怒涛の如く最後の巻まで読み終えたところで、まぶたの重さに気付く。ほのかに明るくなってきた窓の外の気配を感じながら、じんわりとあたたまった気持ちと共に、そのままソファに横たわって眠りに沈んでいった。

久しぶりに見た彼は、随分と年下になってしまったけれど、それでも、

どうしたって君が好き。
I know life took us far away
But I still dream 'bout the good old days



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