もしもあのときにこうしていれば、もしもあのときこうしていなければ――。
そう勝手に妄想して空想して想像するのは自由なことだが、仮にその『もしも』を実行することができたとして、人は本当にそれを実行するのだろうか。
もしくは、行ったその結果に満足することなどありえるのだろうか。幾度かそれを試行したこちらから言わせてもらえば、『んなわけあるかよばーか』としか言いようがない。
毎回毎回同じ行動ばかりとりやがりくださって、もう飽き飽きだ。少しはバリエーションってものを考えやがれ、数だけはやたら多いくせに結局どれも同じじゃねえかよ畜生。
というのは単なる愚痴として、ランダム方式の丸投げでは面白い経過など見られないことがこちらでは判明している、とつまりそういうことが言いたい。
意味がわからないと思うかもしれないが、まあ、その辺りは緑茶とせんべいでもかじりながらゆっくり眺めてもらえばいい。
今回はきちんと放り投げる相手もその先も考えているつもりだ。これで面白くなければ放り投げた人間自身に相応の責任をとらせるので、安心してもらって構わない。
では、また後ほど。
The time‐limit : 83days 「映画見ない?」
そう言って珍しい提案を持ちかけてきた折原さんだが、手にしていたDVDのパッケージは有名なホラー映画だった。
どうしていきなり?と思いはしたものの、別にホラーが嫌いというわけではない(かといって好きでもない)ので、いいですよと頷き視聴開始。早々と一時間が経過した。
丁度主人公が潜り込んだ布団の中で足を掴まれるという場面だったのだけれど、別段悲鳴をあげるような怖さは感じない。いや、ホラー映画で悲鳴をあげたことなんかそもそもないか。
これ気持ち悪いなぁと思いながらぼんやりしている最中、隣から溜息が聞こえたので振り返ってみる。すると、折原さんが呆れたような顔をしていた。
「つまらないんですか」
「いや、君に可愛げが微塵もないと思って」
「……きゃー、こわーい」
「もうちょっとやる気出しなよ」
これは無理か。
折原さんがそう呟いたのが少し、というよりかなり気になってしまったけれど、単に私の反応を見たかっただけかもしれない。
この人は日常あらゆる場面で私に変なリアクションをとらせようとしている節があるのだから。
まあ、私を本気で怖がらせたいなら罪歌ぐらい連れてこないと……いや、これは冗談にならない。絶対にやめてほしい。
そう思いながら目の前に置かれていたお茶を口にする。が、初めて使った茶葉のせいなのか、少し味に違和感を感じた。
外れだったのかなと首を傾げていると「ユウキ」と名前を呼ばれたので視線を声の主へと移動させた。
「もう一作付き合ってくれる?」
「……別に、構いませんけど」
諦めが悪いなぁ、折原さんも。
私の肯定に満足したのか、呆れ顔からいつも通りの平坦な笑みを浮かべている折原さんに一瞥して、目をテレビへと向け直す。
明日が木曜(バイトが休みの日)でよかった。そう考えつつ、私は主人公が怨霊に襲われている前で小さな欠伸をした。
♀♂
「ホラー映画を見ながら眠れるっていうのが、ねぇ……」
リモコンの停止ボタンを押してそう呟くと、臨也の肩にもたれて眠っているユウキが僅かに身じろぎをした。
実際のところ、彼女が眠ってしまったのはホラー映画云々によるものではなく、臨也が彼女の飲み物に睡眠薬を少量(揺すればすぐに起きる程度)混入したことが原因だ。
なぜそんなことをしたのか。そう誰かに問われたとしても、臨也は決して答えることはないだろう。それは彼にとってあまりにも馬鹿らしいものだったのだから。
嫌な予感がする。
何かが起きそうな気がする。
何の根拠も理由もなく感じるそれに、どことなく僅かな(本当に僅かな)不安を感じたから。
なんとなく今隣で眠っている彼女が別のどこかへ行ってしまいそうな、そんな気がしたから。
つまり、そういうわけで今夜ユウキをひとりにさせるのが嫌だったのだが、
ホラー映画を見せた程度のもので一人になるのを嫌がるような可愛い性格を、彼女がしているわけもなかった。
結果的に保険として混入していた睡眠薬が役に立ちはしたが……。
――こんなもの、ただの杞憂に決まってる。
いつから自分はこんな心配性になったのかと自嘲気味に笑いながら、横目でユウキの寝顔を確認したものの、
そこに変わった様子はなく、彼女が純粋に気持ち良さそうな寝息を立てて眠っているようにしか見えなかった。
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