TL:83 | ナノ


「つまり、今のユウキちゃんの中身は四年後のユウキちゃん……というより、ユウキさん?で、しかも本来ユウキさんは来神の出身でもないから、単純なタイムトリップをしたというわけでもな

さそうだと。そういうこと?」
「……おっしゃる、とおりで」


 ぐすぐすと平和島さんからもらったティッシュで鼻を押さえつつ、新羅さんの的確な要約に何度も頷く。
 柄にもなくしゃっくりまで出てしまうような、割と本格的な号泣っぷりを晒していたのに、よくここまで聞き取ってもらえたものだ。新羅さんの理解力に、ひたすら感謝。
 
 ――というわけで、私は新羅さんと平和島さんに大方のことを暴露した。

 信じてもらえないかもしれないとは予想していたけれど、それでもやっぱり我慢することはできなかった。
 心がグラグラと揺れているような、あまり感じたことのない類の不安定な気持ち。哀しいとか寂しいとか、ひとつではない入り混じった気持ちを飲み下すことはできなかった。
 どうして自分がここまで不安定な状態にに陥っているのか、それは未だよく分かっていない。しかし、突然泣き出したとき、すぐ大丈夫かと声をかけて。
 泣いている理由を尋ねても、言い淀んでいる私の手を引いて、人のいない屋上まで連れてきてくれた新羅さんたちの前では、とても誤魔化すことなどできなかった。

 
「嘘みたいな、話だと思われるかもしれませんが……ほんとうに、自分でも何がどうなってるのか……」
「まあ、わからないから、あのユウキちゃんが泣いてるんだろうしね」


 私の話を聞いても全く驚いた様子のない新羅さんは、あっけらかんとそう言って頷いた。……いや、ちょっと怪しいぐらいに平然としているんだけどこの人。
 そんなことを思っている私に対し、黙って私の話を聞いていた平和島さんは、首を捻って「つーかよ、新羅」と口を開く。


「俺そういうのよくわかんねーんだけど、ありえる話なのか?」


 いや、誰だってよくわからないと思いますよ。平和島さん。
 ちょっとズレた疑問を口にしたその人へ、心の中でつっこんでいると、新羅さんが腕を組んで「そうだなぁ」と考えるように間を置く。


「ありえない話ではないと思うよ。そういう非日常的な出来事って、僕らが知らないだけで結構あるものだからね」


 君と臨也のやりとりだって、周りの人間からすれば十分非日常だよ。

 そう新羅さんはもっともと言えばもっともな言葉を付け加えて、一瞬表情の強張った平和島さんを「まあまあ」と宥める。
 そういえば、この人はデュラハンという日常から一歩抜け出た存在の、セルティさんとずっと生活しているのだ。
 タイムトリップ(厳密には違うけれど)ぐらいならば、許容範囲内なのかもしれない。そう考えれば、新羅さんってものすごく器の大きな人なんだということに気が付いた。

 いや、決してこんな気づき方はしたくなかったけれど……。

 
「それに、そもそもユウキちゃんってこんな冗談を言う子じゃないからね。言われてみれば、最近のユウキちゃんの行動は違和感だらけだったし……むしろ納得したよ」
「そ……そんなに、ひどかったですか」


 自分なりに、あくまで自分なりに頑張ってはいたんだけれど……。
 そんな私の心境を察しているのかいないのか、新羅さんは朗らかな笑顔で頷いた。


「確かにユウキちゃんは変わった子だけど、いきなりクラスメイトに敬語や『さん』付け、あまつさえ自分はタイムトラベラーだなんて言う電波系ではなかったよ」
「……そう、ですか」


 何やらもう、いたたまれずどう返事をすればいいのかもわからず、そう返答しておくことにした。 
 まあ、新羅さんと平和島さんにことを打ち明けることができて、なおかつ信じてもらえたのだから何も悪いことはないのだけれど……。
 そう鼻をすすりながら視線を落としていると、不意にぽんと軽く、頭に手を置かれた。 

 少し驚いて顔を上げると、新羅さんが見慣れた笑みをこちらに向けていた。
 

「でも、そんな状況で誰にも相談できなかったのに、よく頑張ったと思うよ」


 なんて、年上に言う言葉じゃないかもしれないけど。
 
 そう頬を掻きながら言った新羅さんの言葉に、なんだかまた目頭が熱くなってしまった。
 さすがにこれ以上泣くのはと思い、グッと口を結んで流れそうになるソレを堪える。息を止めれば、なんとか……いける気がする。

 そう、思ったのだけれど。


「本当に、今日はユウキちゃんの泣き顔ばっかり見るなぁ」


 堪えきれなかった私に対し、新羅さんは宥めるように何度か頭を柔らかくたたいた。
 さっき新羅さんは、私を年上と言ったが……どう考えても私の方が年下に思えてしまう。これは今回に限った話ではないけれど、私はもっと、しっかりしなければ。


 ――というわけで、私にも相談できる相手ができたようです。


 ×××
 

「……というか、静雄くん。さっきから君の視線がものすごく痛いんだけど」
「あ?」
「いや、なんでもありません」


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